ご氏名をお願いします
佐藤 祐輔(さとう ゆうすけ)
現在のご所属などは?
新政酒造株式会社 代表取締役社長
代表銘柄
代表銘柄「新政」
思い出の醸造物 or 好きな醸造物 or 最近はまっている醸造物などを一品教えてください
醸し人九平次 純米吟醸 雄町
その理由やその醸造物にまつわるエピソードをぜひ!
直接的に日本酒にハマったきっかけは、前職時代に伊豆半島のとある居酒屋で飲んだ「磯自慢特別本醸造」でした。その圧倒的な完成度と存在感に心打たれ、以降、日本酒を買い漁るクセがついてしまいました。
始めに影響を受けた酒がこの「磯自慢」ならば、その一方で、もっとも強く影響を受けた酒は、同時期に飲んだ「醸し人九平次 純米吟醸 雄町」かもしれません。
16By醸造品でしょうか、「九平次 雄町」は、体験した事のない味わいと、魅力的な装丁を備えて、私の前にあらわれました。完成されたバランスと圧倒的個性が両立しているそのさまは、まさに飲む芸術のようであったことを覚えています。
絵画・音楽・陶芸など芸術/工芸のジャンルは数ありますが、五感どころか五臓六腑で、まるごと対象を体感し、身体に同化できるような、ぜいたくなジャンルは滅多にありません。
そういう意味で、飲食物が芸術的な高みに昇ったときに、これほどまでに人間を感動させる、衝撃を与えることができるという事実は、想像を絶するものでした。そしてそれは、私を家業にひきもどすのに十分な力を持っていました。
後から考えると、あのとき「醸し人九平次」を先頭に、新しいジャンルが切り拓かれていたのではないでしょうか。少なくても、「日本酒は面白そうだ、日本酒は熱気にあふれている!」と、あのとき、日本酒ビギナーながらに私が感じたことは確かです。
きっと、かつて生モトが生まれたとき、吟醸酒が生まれたとき、きっとそこに立ち会った人々は想像を絶する喜びを得たと思います。この感動が波及し、いきなり、あるいはゆっくりと世界を動かす事によって、その伝統は継続してゆくのだと思います。
伝統の上に新たな伝統を築き上げることが、伝統を継続するために必要なことであることを、私は、あの時の「醸し人九平次 純米吟醸 雄町」から学んだような気がします。
写真
ところが、自分の蔵の歴史を学ぶにつれ、そんな浅はかな考えで蔵に戻ったことを後悔するようになりました。
「これは天才的な先祖がいたものだ、この蔵を率いてゆくのは、責任重大な仕事だぞ」と、心底ぞっとして逃げ出したくなったのを覚えております。
写真は、大阪高等工業学校(現・大阪大学)在学中の曾祖父です。同級生に竹鶴政孝(ニッカウヰスキー)、先輩に花岡正庸(初代秋田県醸造試験場長)、後輩に小穴富司雄(国税庁技師。「きょうかい6号」の採取で有名)などがおられたということです。私は、辛くなると、この曾祖父の修業時代の写真を見る事にしています。
ご略歴
昭和49年(1974)12月19日秋田県生まれ。
秋田高等学校から明治大学商学部に入るが、経済学に頓挫し、入学翌年退学。
東京大学文学部に入学。大学卒業後は、職業を転々とする。編集プロダクション、WEB新聞社などを経て、フリーのライター/編集者に。
31歳で日本酒に目覚め、酒類総合研究所の研究生となる。2007年秋に新政酒造に入社し、現在に至る。
ご趣味
愛用のTANICA「ヨーグルティア」で、ヨーグルトなどの発酵食品を作る。しかし、オフ期間のみにしてくださいと、杜氏にきつく言われている。(納豆の製造は時に)
ご紹介者・横山様からのメッセージ
株式会社岡永様の技術交流会でお会いして以来、清酒そのものや製造技術などについて議論をする機会がありました。斬新な発想と行動力にいつも驚くところで、刺激を受けています。社長になられてお忙しい事でしょうが、今後ともお付き合い頂ければと思います。よろしくお願いします。
横山様へメッセージを!
このたびはご紹介いただきましてありがとうございます。
いつもトラブルがあるたびに、私なり、うちの杜氏なりが真っ先に相談させていただいておりますが、その度に、懇切に助言をいただきまして、言葉に尽くせぬほど感謝しております。
横山先生は、酒文化を守るという持論をまっとうするため、鑑定官から現在の職へとお遷りになられました。その筋の通った生き様を、尊敬申し上げております。これからも、公私問わず、ご指導いただければと思います。
告知などがございましたらお願いします
昨年度後半から、全商品、生モト/山廃などの酒母製法に統一し、酒造りに醸造用乳酸を使用しないということを続けてます。創業160周年を記念して、今季からは、できれば純米酒に特化しようと思っています。理想のあり方に一歩一歩近づいていきたいと思います。
最後に今後の抱負や期待することを教えて下さい!
「きょうかい6号」を蔵に生み出した、曾祖父である五代目佐藤卯兵衛の功績を守ってゆきたいと思います。また彼ほどでなくても何かしら酒造業界に貢献するため、蔵人全体一丸となり、たゆまず試行錯誤を続けてゆく所存です。勢いで造った酒が多いですが、日本酒ファンのみなさまは、笑っておつきあいください!