ご氏名をお願いします
山同 敦子 (さんどう あつこ)
現在のご所属などは?
著述家。食と酒をテーマとするフリージャーナリスト
JSA認定ソムリエ、SSI認定唎酒師
長野県原産地呼称認証制度における日本酒・本格焼酎官能委員
鹿児島県さつま大使
思い出の醸造物 or 好きな醸造物 or 最近はまっている醸造物およびその理由やその醸造物にまつわるエピソード
最近のテーマは、日本酒と料理(食材)の悶絶する組み合わせを探ること。ここ1カ月の悶絶体験を紹介します。
悶絶①「而今」純米吟醸 八反錦(三重県)と、蟹&蟹味噌
……酒の持つ甘味と濃厚な蟹&蟹味噌の旨味が、同レベルで融合。酒の甘味よりちょっと控えた酸が、口の中を洗い流し、綺麗にフェイドアウトする。言葉を失う美味の世界!
悶絶②「山和」純米吟醸無濾過生原酒 (宮城)と、イチゴ&カマンベールのカナッペ
……ほんのりイチゴの風味漂うやさしい味わいの酒と、甘酸っぱいイチゴ。口の中が春の香りで一杯に!意外な組み合わせだが、何人もが納得する抜群の相性。
悶絶③「伯楽星」純米吟醸(宮城)と、白子の天ぷら
……透明感ある酸に裏打ちされた静かな味わいの酒と、ミルキーな白子。合わせることで、互いの持ち味が一気に開花。いつまでも続く美しい余韻に浸っていたい。
悶絶④「王祿」丈径(島根)と、寒鯖の塩焼き
……漲る旨味と酸。迫力の美酒と脂の乗った寒鯖とが、ガチンコ勝負する至福。後味には、旨い塩のようなミネラルを感じ、次の一口、次の一杯を呼ぶ。
悶絶⑤「磯自慢」特別本醸造(静岡)と、金目鯛の煮つけ
……バランスの取れた伸びやかな味と爽快な喉越し。吟醸酒で定評ある造り手だが本醸造の完成度も見事。焼津の酒だけに海の魚とは抜群。なかでも旬の金目鯛とは感涙。
悶絶⑥「春雨」(沖縄)と、茹で卵乗せドライカレー
……丁寧な麹仕事で醸される泡盛「春雨」。その上質な甘味にはいつ飲んでもうっとりさせられる。カレーとの相性は抜群で、料理の腕が上がったと勘違いするほど。
写真
2011年4月、福島県の若手蔵元の皆さんや酒販店店主と、会津若松の鶴ヶ城で、花見を楽しんだあとの二次会スナップです(私は左端)。このなかには、津波で蔵が流され、その後の原発事故の影響で、山形県へ移転を余儀なくされた「磐城壽」の鈴木大介さんもいます。また、福島県を応援したいと三重から「而今」、山口から「貴」の蔵元さんも、駆けつけています。
この花見は毎年恒例で、私は前年の2010年にも誘われていたのですが、前日に父が急逝し参加できませんでした。そのとき、彼らが贈ってくれた温かい言葉は胸に染みました。2011年の花見は大震災の翌月でしたが、決行すると聞き、今度は私が激励する番だと参加。この記念写真を撮影した直前には、全員で肩を組み、「I love you fukushima♪」を大合唱、(私が前もってリクエストしておいたら歌詞カードが準備されていました!素晴らしい気配り)。風評被害や原発事故など問題が山積みするなかで、皆で力を合わせて頑張ろうと集まった素晴らしい仲間たち。その輪に入れていただき、感無量の一夜でした。
ご略歴
東京・渋谷に生まれ、父の仕事の関係で大阪で育ち、大学から再び家族と共に東京に暮らす。上智大学文学部卒業。
新聞社を経て、出版社へ。流通関係の雑誌編集を担当していた二十代半ばの頃、元・吟醸酒協会会長で、設計士の篠田次郎先生と出会い、酒蔵巡りの連載を企画。編集者兼写真担当として篠田氏とともに全国の酒蔵を旅を続けるうちに、風土で醸される日本固有の醸造酒、日本酒に魅せられる。ただし、酒蔵の中で篠田氏と熟練の杜氏の間で交わされるのは、短い専門用語のみ。自分はまったく理解することができす、愕然とする。もっと知りたいと、精力的に酒蔵を訪問するようになる。
また一方で、取材先の酒販店との交流により、ワインの魅力に目覚め、酒販店主たちとヨーロッパ各国を視察。小さな生産者が、自分の造るワインを誇りとする姿に感銘を受ける。
このように数年間に渡って、日本酒蔵やワイン生産者の視察を続けるうちに、一般のファンにもわかりやすい言葉で、その魅力を伝えることこそ我が使命と考え、独立。
折から、食の雑誌「dancyu」(プレジデント社)が居酒屋特集を予定していたことから、執筆メンバーとして参画。同誌の執筆を中心に、食と酒をテーマに執筆するフリーライターの仕事を開始。著作活動や講演、テレビの酒蔵巡りのレポーターなども勤めている。
著書に『愛と情熱の日本酒~魂をゆさぶる造り酒屋たち』(ダイヤモンド社、増補改訂版・ちくま文庫)、『旨い!本格焼酎』(ダイヤモンド社)、『至福の本格焼酎 極楽の泡盛』(ちくま文庫)、『ヴィラデストワイナリーの手帖』(新潮社)、『こどものためのお酒入門』(イースト・プレス)等。
ご趣味
写真撮影、街歩き、スポーツ観戦(サッカー、野球、テニスほかスタジアムで観戦)、染め物・織物産地巡り、焼き物産地巡り、野鳥観察、着物
ご紹介者・廣木健司様からのメッセージ
酒と食の見識の深さに、いつも感心いたしております。最近はそのフィールドを米づくりへも広げられて増々ご活躍でいらっしゃいますね。造り手の世界だけでは日本酒を守り育てる事がむずかしい昨今。伝え手の立場からこれからも日本酒の発展を支え続けてください。
廣木健司様へメッセージを!
いつも、みずみずしい感性で、私の書いた文章の感想を携帯メールで送ってくれる廣木さん。リズム感あるポエムのような文を読みながら、照れたり、嬉しさのあまり涙したり……。廣木さんから頂く言葉は、私の励みです。この場を借りて、お礼を言います。
このコラムで「見識が深い」とおほめをいただきましたが、滅相もありません。惚れっぽい性質ゆえ、「好き!」と思うと、造り手のことや、造られる現場のことを、とことん知りたくなって未知の世界へも無鉄砲に飛び込んでしまうだけです。好奇心は人一倍ありますが、知識は中途半端。日本酒についても、これまで膨大な記事を書いていますが、一滴も醸したことはないのですから。
ただ、素人だから、飲み手だからこそ見えることはあるかもしれません。これからも「好き!」を原動力に、日本酒や本格焼酎、泡盛などのお酒を中心に、日本の美味しさ、美しさ、素晴らしさを伝えていきたいと思います。
告知などがございましたらお願いします
お酒は単に酔うための飲み物ではない。農業を基本とした、素晴らしい伝統文化である。そんなことをきちんと伝えたいと思って、ジュニア向けの本『こどものためのお酒入門』(イースト・プレス)を上梓しました。主な読者の想定はティーンエイジャーですが、大人にこそ読んでもらいたい内容です。
日本酒(「天の戸」)、本格焼酎(「佐藤」)、地ビール(舞浜地ビール)、日本のワイン(ボー・ペイ・サージュ)などの生産者や、酒販店(「横浜君嶋屋」君嶋哲至さん)、ソムリエ(佐藤陽一さん)にインタビューしながら、造りの工程や、仕事の内容、伝統を受け継ぐ意味なども紹介。また「大人はなぜお酒を飲むの?」という問いには、蔵元さんにも答えてもらっています。写真、イラスト満載。感じには全てフリガナ付きです。ぜひご覧の上、感想をお聞かせ下さい。
最後に今後の抱負や期待することを教えて下さい!
5年ほど前から着物に夢中です。それは、日本酒や本格焼酎などの日本の酒を愛する心と同じ。日本ならではの“ものづくり”という観点で、驚くほど共通点があるからです。
惚れたきっかけは黒糖焼酎の造り手を取材するために、奄美大島へに訪れたことでした。旅の雑誌に掲載する記事だったので、奄美の伝統産業である大島紬の泥染めも掲載しようと、蔵元の紹介で染色家の第一人者、中村一人さんを訪問しました。中村さんは、三宅一生ほか有名デザイナーがパリコレへ出品する洋服も染めているという方だけに、着物の染め柄もモダンでカッコイイ。こんな着物なら着てみたいと思いました。それまで知っている大島紬は、田舎びた民芸調の柄行きばかり。洋服で育った私が着たいものは無かったので、新鮮な驚きでした。伝統の技で作られていても、研ぎ澄まされた感性で取り組めば、時代が求める“旬”の作品を創造することはできる。それは酒造りも同じ。先代から引き継がれたやり方で、漫然と造っているだけでは、いつしか時代の遺物になってしまうでしょう。
さらに泥染めを見学して驚いたのは、その手間です。まず現地で言うティーチギ(シャリンバイ)と呼ばれる木を煮出して、そこに糸を漬け込み、次に奄美特有の鉄分の多い泥田に漬けて深みを出す。その後、またシャリンバイに漬け込み、泥田に漬けて……と40~50往復繰り返すことで、シャリンバイの茶色と泥の漆黒が融合していく。大島紬の泥染めの深い色合いは、丹念な手わざの結晶だったのです。
その後、徳島の藍染め工房や、京都の伝統的な染め物工場では、発酵によって深い色合いが醸しだされるということも知りました。また全国各地には、地名で呼ばれる個性豊かな染め物や、染めた糸を使った精緻な織物があることも、学びました。
丁寧な手仕事によって生み出される染め物や織物。それは地域に根付いた伝統産業であり、長い年月をかけて醸成されてきた、日本人の美意識の結晶です。これは日本酒や本格焼酎、泡盛も共通です。愛しい、大切にしたいという想いは、年齢を重ねるに従って募っています。
私たち、日本人は、もっと日本の技を誇りに思っていいのではないでしょうか。私はこれからも、もっと日本の美を学び、伝えていきたいと思います。
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