本年10月6日(火)~7日(水)開催予定の平成27年度日本醸造学会大会プログラムを公開いたしました。下記よりご覧いただけます。
平成27年度日本醸造学会大会プログラムはこちらから(PDF)
本年10月6日(火)~7日(水)開催予定の平成27年度日本醸造学会大会プログラムを公開いたしました。下記よりご覧いただけます。
平成27年度日本醸造学会大会プログラムはこちらから(PDF)
〇白石洋平 1) ・髙峯和則 2) ・和久 豊 1) 1)株式会社ビオック,2)鹿児島大学農学部附属焼酎・発酵学教育研究センター)
1.はじめに
芋焼酎の香味の特徴は,黒麴製は濃醇,白麴製はマイルドで軽快,黄麴製は豊かな味わいを持つといわれているが,この評価は主に市販酒に対してのものであり,麴菌の種類による酒質の差異を評価しているかは不明である。そこで,麴菌が酒質に与える影響について明らかにするために,芋焼酎製造で使用される黄麴,白麴,黒麴の3 種類を用いて,麴以外は同一条件で仕込みを行った。
2.麴の酵素活性と芋焼酎醪の差異
酵素活性は,酸性条件下の液化に関与する耐酸性 α-アミラーゼ活性は白麴および黒麴で黄麴の10 倍となった。その他,α-アミラーゼと酸性カルボキシペプチダーゼ活性は黄麴が白麴および黒麴と比較して高く,β-グルコシダーゼおよびセルラーゼ活性以外の酵素活性は白麴が黒麴よりも高い傾向を示した。小仕込み試験は,黄麴は白麴および黒麴よりも酸性プロテアーゼおよびセルラーゼ活性が低いことから,黄麴醪の二次醪初期に流動性が低下し,醪のアルコール濃度にも差異が生じた。黄麴醪では一次から二次醪にかけて高級アルコール生成に関わるアミノ酸濃度の減少が大きく,白麴および黒麴醪では二次醪末期で蒸留時の熱でアルデヒド類に変換されるアミノ酸濃度が高かった。
3. 芋焼酎の香味成分と官能評価での差異
香気成分の濃度は,黄麴製では高級アルコールおよび酢酸エチルエステル,含硫化合物が高かった。一方,白麴および黒麴製は類似しており,アルデヒド類,テルペン類が高かった。白麴製は,全体的にエステル類が高く,特に2-メチル酪酸エチルが黒麴製と比較して特徴的だった。黒麴製は低級脂肪酸エステル類が高く,白麴製と比較してサリチル酸メチルが高かった。また, 1-オクテン-3-オール濃度が高いことが黒麴菌由来のひとつの特徴であった。官能評価は,黄麴製の香りは華やか,麴,焼菓子,草やハーブ様と指摘された。白麴および黒麴製は果実様,ロースト,ナッツ様といった共通のコメントが多い中で,白麴製は軽快,シャープ,黒麴製はオイリー,まろやか等のコメントが特徴的であった。味は香りと類似した傾向を示し,白麴製のドライ,バランスに対し,黒麴製では芳醇,重厚というコメントが得られた。
略 歴
氏名:白石洋平(しらいし ようへい)
<現所属>株式会社ビオック
<生年(西暦)> 1980 年
<略歴>
2004 年東京農業大学応用生物科学部醸造科学科卒業
2006 年東京農業大学大学院農学研究科醸造学専攻修了、同年株式会社ビオック入社
2011 年独立行政法人酒類総合研究所出向
2017 年鹿児島大学大学院連合農学研究科博士後期課程修了
2020 年株式会社ビオック取締役研究室長
現在に至る
<抱負>麴菌を軸に業界に貢献していくと共に,種麴の技術を未来につなげていきたい
氏名:髙峯和則(たかみね かずのり)
<現所属>鹿児島大学農学部附属焼酎・発酵学教育研究センター
<生年(西暦)> 1964 年
<現所属>鹿児島大学農学部附属焼酎・発酵学教育研究センター
<略歴>
1987 年鹿児島大学農学部農芸化学科卒、同年南九州コカ・コーラボトリング(株)入社
1991 年鹿児島県工業技術センター入庁
2006 年鹿児島大学農学部焼酎学講座助教授
2007 年同准教授
2013 年鹿児島大学農学部附属焼酎・発酵学教育研究センター教授
現在に至る
<抱負>焼酎の風味の生成機構を明らかにしたい
氏名:和久 豊(わぐ ゆたか)
<現所属>株式会社ビオック 技術顧問
<生年(西暦)> 1959 年
<略歴>
1981 年東京農業大学農学部醸造学科卒業、同年株式会社糀屋三左衛門(黒判もやし)入社
1988 年年国税庁醸造試験場(現酒類総合研究所)共同研究員
1992 年株式会社ビオック設立に伴い、転籍
1998 年学位取得(東京農業大学)
2007 年11 月 日本醤油技術賞(研究・開発の部)受賞
2015 年5 月 糸状菌遺伝子研究会技術賞受賞、常務取締役、取締役副社長を経て、
現在、取締役技術顧問、専門は清酒・味噌・醤油・焼酎などに使用する麹菌の基礎応用研究、麹菌の研究開発にとどまらず、セミナー講演などを含め幅広く醸造メーカーへの技術支援を行っている
〇独立行政法人酒類総合研究所 磯谷敦子(いそがい あつこ)
【はじめに】
清酒を貯蔵すると、色や味、香りが変化する。貯蔵により変化した香りを専門家は「老香」とよぶ。清酒の貯蔵による香気成分変化については、ソトロンの発見をはじめとして過去に多数の研究成果が報告されている。しかし、老香は各種香気の複合香とされ、その本体は明確になっていなかった。我々は老香に寄与する成分とその生成機構の解明、さらにその制御技術の開発に取り組んだ。
【老香の主要成分DMTS】
GC-Olfactometryにより寄与成分を探索するとともに、閾値と濃度から計算される香気寄与度をもとに成分の絞り込みを行った。その結果、ソトロンに加えてジメチルトリスルフィド(DMTS)などが貯蔵した清酒の香りに寄与することが明らかになった。また、様々な市販清酒の分析の結果、貯蔵劣化臭としての「老香」にはDMTSが大きく寄与し、ソトロンは長期熟成酒の特徴である「熟成香」に寄与することが示唆された。さらに、DMTSの前駆体1,2-dihydroxy-5-(methylsulfinyl)pentan-3-one(DMTS-P1)を同定し、その生成に酵母のMDE1およびMRI1遺伝子が大きく関与することを明らかにした。
【老香抑制技術の開発】
上記の知見をもとに、日本盛株式会社と共同で、DMTS-P1の生成能が低下した酵母が育種された。本酵母を用いた清酒はDMTS-P1濃度が大きく低下し、貯蔵後のDMTSの生成が抑制され、官能的にも老香の低減が確認された。本酵母は、輸送中に品質劣化のリスクのある輸出清酒などの品質保持に特に有効と考えられ、現在日本醸造協会から頒布されている。
また、九州大学と共同で、担持金ナノ粒子による老香の選択的除去技術の開発に取り組んだ。金ナノ粒子はカプロン酸エチルなどの香気成分は吸着せずDMTSを選択的に吸着除去するため、特に吟醸酒の老香除去に有効であることを示した。
研究題目に関連する論文・著書
1) 磯谷敦子, 生物工学会誌, 89, 720-723 (2011)
2) Wakabayashi, K. et al, J. Biosci. Bioeng., 116, 475-479 (2013)
3) 井上豊久ら, 醸造協会誌, 116, 608-617 (2021)
4) 磯谷敦子ら, 醸造協会誌, 114, 779-786 (2019)
略歴
平成8年 京都大学大学院農学研究科農芸化学専攻修了
同年 国税庁入庁
平成9年 広島国税局鑑定官室
平成13年 独立行政法人酒類総合研究所、現在副部門長
この間、
平成21年 農学博士(広島大学)
平成24年~ 広島大学大学院先端物質科学研究科(現統合生命科学研究科) 客員教員
受賞歴
平成23年 日本醸造協会伊藤保平賞
平成26年 日本生物工学会江田賞
〇東京大学大学院農学生命科学研究科 特任教授 阿部啓子
口腔で発生した味覚シグナルが神経を伝わって脳に達し、認知機能を誘発し、それがさまざまな抹消組織にフィードバックされ、生体の代謝を動かすという、従来の栄養代謝の枠を超えた新しいメカニズムに興味を持った。具体的には、甘、苦、酸、塩、旨味という感覚が、代謝にどのように影響するかを基礎的に深く掘り下げることにより、食品が持つ味という外来情報が味覚という内生情報に変換され、人の健康をいかに左右するかを解明し、食品工業発展の一助としたいと思い研究を行った。本日は代表的な成果をお話したい。
(1)味覚と栄養の関連性:味覚とエネルギー代謝
筆者らのグループは、甘・苦・旨味の受容細胞(II型味細胞)の分化を決定する遺伝子、Skn-1a を発見した(Nat. Neurosci. 2011)。この遺伝子をノックアウトしたマウス(S-KO)は、甘・苦・うま味が消失するため、これらの味を識別できない。さらに、消化管(胃、小腸)Tuft 細胞も消失していた。この細胞はII 型免疫に重要な機能を持つという知見がある。S-KO マウスは野生型マウスに比べ生後直後は体重に差はないが、摂食に伴い優位に低体重を示した。摂餌量に差はないものの、脂肪酸のβ酸化の亢進による体脂肪量の減少といったエネルギー消費の活性化が示された(EBioMedicine, 2016)。実際、S-KO では視床下部室傍核(PVN)における恒常的なc-fos シグナルを観察した。味覚とエネルギー代謝と免疫という三者が密接に連動していることが想定された。
(2)味覚と生理作用の関連性:健康長寿と減塩
SDGs の目標3「すべての人に健康と福祉を」への取り組みとして、「減塩」が挙げられる。
WHO は成人の食塩摂取目標値を5g/ 日以下に推奨している。塩分の過剰摂取は高血圧、心疾患などの生活習慣病のリスクを高めている。しかし、塩味は食品のおいしさを決定することから、食事や食品製造において減塩は難しい。日本酒を楽しむ食事にも塩分は必須である。現在、旨味料や香辛料などの添加により塩味を代替する方法が行われているが、塩味増強物質の開発は国際的にも進んでいない。塩味受容の分子メカニズムが不明であることによる。
筆者らのグループ(東大 朝倉富子特任教授)は、味蕾細胞に存在する塩味受容に関与するクロライドイオンチャネル TMC4 を発見した(J. Physiol. Sci. 2021)。TMC4 導入培養細胞(HEK293)はNaCl 溶液を増強する物質のスクリーニング系として有効である。本研究は、これまで塩味受容として、Na イオンに加えて、 Cl イオンの関与を明らかした学術面のみならず、減塩による健康長寿社会の面からも貢献するものである。
略 歴
氏名:阿部 啓子(あべ けいこ)
【学歴・職歴】
1969 年 お茶の水女子大学家政学部食物学科卒業
1971 年 同大学大学院家政学研究科食物学専攻修士課程修了
1973 年 米国デューク大学 医学部 研究員
1994 年 東京大学 農学部 助手
1994 年 東京大学 農学部 助教授
1996 年 東京大学 大学院 農学生命科学研究科 教授
2008 年 公益財団法人 神奈川科学技術アカデミー
(現 地方独立行政法人 神奈川県立産業技術総合研究所)研究顧問(現任)
2010 年 東京大学 大学院 農学生命科学研究科 特任教授(現任)
2010 年 東京大学 名誉教授(現任)
2019 年 一般財団法人 バイオインダストリー協会会長(現任)
2021 年 東京農業大学 客員教授(現任)
【主な受賞歴】
2005 年 安藤百福賞大賞
2007 年 日本農芸化学会賞
2009 年 アメリカ化学感覚学会IFF 賞(味覚分子生物学分野)
2010 年 紫綬褒章、日本味と匂学会賞
2020 年 瑞宝中綬章
〇武藤 貴史,下飯 仁(日本醸造協会)
【目的】清酒製造では,酒母に純粋培養した酵母を添加することが一般的であるが,純粋培養酵母の品質として重要なのが,総酵母数と酵母生存率である。生存率の測定には,大きく分けると培養法と染色法がある。平板培地による培養法は,増殖可能な細胞数を計測することができるが,結果を得るまでに 2 日程度必要である。一方,メチレンブルーなどの染色法は迅速であるが,培養法との乖離や測定者による個人差が大きいことが問題である。最近,出芽酵母において熱などのストレスによる生存率の低下に伴って,酵母細胞の平均粒子径が低下する現象が報告されている ¹⁾。本研究では,清酒酵母保存時の酵母の生存率と平均粒子径の推移について調査した結果,酵母の生存率の低下にともなって,平均粒子径も低下することがわかったので報告する。
【方法・結果】清酒酵母は,きょうかい 701 号を用いた。YPD 培地または YNB 培地を用い,30℃で振とう培養後,殺菌水で置換してから30℃で保存し,経時的にサンプリングした。測定項目は,培養法による酵母の生存率,粒子計数分析装置および顕微鏡観察による平均粒子径,顕微鏡観察によるゴースト化した酵母の比率(ゴースト化率),濁度,などである。結果,いずれの試験区においても,酵母の生存率と平均粒子径は,保存によって経時的に低下していった。平均粒子径と生存率の関係は,指数モデルを当てはめることにより高い相関が認められ,平均粒子径が生存率の代用特性として利用できることが示唆された。平均粒子径は,濁度・生細胞数・生存率・菌体重量と正の有意な相関が,ゴースト化率・上清の OD₂₆₀・上清のホルモール窒素・上清のリン酸とは負の有意な相関が認められ,保存によって酵母が徐々に自己消化し,それとともに生存率と平均粒子径が低下したものと推察された。
1) P. Tibayrenc, et al; J. Biotechnol., 2010,149(1-2):74-8
○藤田悠、新開哲朗、高澄耕次、滝沢隆一、蛸井潔、佐藤雅英、石田文人
(サッポロビール株式会社)
目的:市場で流通している梅果実は主に南高梅であり、白加賀梅は国内生産量 2 位の品種である。南高梅と比較して白加賀梅はフレッシュなリーフィーグリーン様の香りを持つことが知られているが、それらの青梅を使用した梅酒の香気成分に関する報告は少なかった。また、近年青梅ではなく完熟した梅果実を用いて製造された梅酒が広く開発されている。そのうち、完熟南高梅を用いた梅酒に関する研究はいくつか報告例があるが、完熟白加賀梅を使用した報告例はなかったため、今回、白加賀完熟梅酒の特徴香とそれに関与する成分を明らかにすることを目的とした。
方法:群馬県産の白加賀青梅と白加賀完熟梅を用いて梅酒原酒を製造した。それらと南高青梅酒、南高完熟梅酒について官能評価、定性分析、メタボローム解析を実施した。
結果:官能評価を実施し、白加賀青梅酒、白加賀完熟梅酒、南高青梅酒、南高完熟梅酒を比較したところ、白加賀完熟梅酒は「桃、杏子、ラクトン」、「甘い香り」、「花、華やかな香り」等が特徴的である事が示唆された。
香気成分のメタボローム解析を実施したところ、白加賀完熟梅酒に特徴的な成分が数種類見つかった。これらの香気成分の定量分析を行い、市販の南高青梅酒に添加し官能評価を実施したところ cis-linalool oxide、ethyl hydrocinnamate、diethyl malate を添加することで「爽やかな香味」「果実感」「熟成感」「味の厚み」が付与されることが明らかとなった。
〇渡辺 大輔、杉本 幸子、高木 博史
(奈良先端大・バイオ)
【目的】伝統的な清酒の製法として知られる生酛造りをはじめ、乳酸菌と酵母が共存する発酵プロセスが多く存在する。これまでに乳酸菌が酵母に及ぼす影響を研究する中で、乳酸菌との共存により酵母のグルコース抑制が解除され、アルコール発酵力が低下することを見出している。この現象に、原核-真核微生物間相互作用を司ると考えられる [GAR+] プリオンが関与すると想定されているが、その分子メカニズムの多くは未解明である。本研究では、代謝改変株のトランスクリプトーム解析を通して、乳酸菌との共存による酵母の代謝改変を引き起こす分子メカニズムを明らかにすることを目的とした。
【方法】実験室酵母の野生株と代謝改変株のグルコース応答を調べるために、各株をグリセロール(非発酵性炭素源)存在下で対数増殖期まで培養後、培地にグルコースアナログであるグルコサミンを添加し、遺伝子発現プロファイルの変化を RNA-seq 法により解析した。
【結果】野生株は、グルコサミンの添加により①グルコース以外の炭素源の利用に関連する遺伝子の発現抑制、②グルコース応答性ヘキソーストランスポーター遺伝子の発現誘導、③浸透圧ストレス応答関連遺伝子の発現誘導を示したが、代謝改変株ではいずれの現象も抑制されていた。これらの現象に、グローバルな転写調節因子であるCyc8p-Tup1p 複合体が必要であることから、その関与について解析した。Cyc8p および Tup1p のいずれもプリオン形成タンパク質に多く見られるQ/Nリッチドメインを有し、特に TUP1 遺伝子の過剰発現によって代謝改変株の出現頻度が上昇した。Tup1p は真核生物において広く保存されていることから、原核-真核微生物間相互作用の標的として有望ではないかと推察される。さらに、アルコール発酵が進行しないアルコールデヒドロゲナーゼ欠損株では代謝改変株の出現頻度が上昇することも見出し、微生物間相互作用の調節因子としてのエタノールの役割も解明した。
〇中島奈津子、齋藤嵩典、高橋亮(福島県ハイテクプラザ会津若松技術支援センター 醸造・食品科)
【目的】
我々は、県産清酒の品質向上のため、オフフレーバーのうち特にジアセチル、老香、脂肪酸の低減に向けた清酒製造技術の確立に取り組んでいます。本演題では、老香および脂肪酸臭について、それぞれの生成に影響する製造要因に関して得られた知見を報告します。
【方法と結果】
まず、異なる酵母を用いて小仕込み試験を行い、酵母の種類が老香生成へ及ぼす影響を比較しました。上槽時のもろみから酵母を採取・破砕して得られた破砕液を吟醸酒およびモデル清酒に添加し、老香生成ポテンシャルを測定しました。これにより、酵母ごとのポテンシャルの違いを把握し、またモデル清酒への破砕液添加でも老香生成ポテンシャルが増加することを確認しました。
そして、上槽時期、生酒条件、火入れ・貯蔵条件の各製造工程において老香・脂肪酸臭生成に及ぼす要因を検討しました。小仕込み試験を行い、上槽時期についてはもろみ日数、生酒条件については滓の有無、貯蔵温度と期間、火入れ・貯蔵条件については火入れ温度と急冷の有無、貯蔵温度がそれぞれ異なる試料を調製し、成分分析を行いました。その結果、老香・脂肪酸の増加と相関を示す製造要因や成分がわかり、それらが製造工程において老香・脂肪酸臭生成のリスクを減らすための指標として活用できる可能性が示されました。
また、醸造に使用する原料水のミネラル濃度と老香生成の関係について試験を行いました。福島県内酒造場の醸造用水 47 点を分析し、それらに含まれるミネラル濃度を網羅したミネラル濃度の異なる 17 種類の原料水を調製しました。これらを用いて小仕込み試験を行い、発酵経過の分析と製成酒の老香生成ポテンシャルの比較を行いました。その結果、通常の原料水程度の低濃度のマグネシウムでも老香生成抑制効果を示す可能性が示唆されました。
○清水秀明、鎌田綾、小山和哉、岩下和裕、後藤奈美
(酒類総合研究所)
【目的】令和3年度の本大会で、酒類総合研究所の隣接圃場ワイン用ブドウを用いた亜硫酸・市販ワイン酵母を使用しない小規模試験醸造において、Saccharomyces cerevisiae が優勢になったのは 12 点中 7 点のみであったことを報告した。一方、醸造場では醸造機器や環境中に S. cerevisiae が残存しており、発酵を順調に誘導するとの報告もある。しかし、機器の洗浄後にどの程度酵母が残存し、発酵に関与するかを調べた報告は少ない。そこで、今回は樽の代わりにオークチップを使用し、S.cerevisiae の定着条件の検討、さらに、収穫直後のブドウ果汁を加えた試験によるオークチップに定着させた S. cerevisiae の発酵経過への影響を検討した。
【方法】殺菌したブドウ果汁に殺菌したオークチップを添加し、市販ワイン酵母(EC1118)で発酵させた。当該オークチップを取り出し、①水洗い、②80℃処理、③50mg/L 亜硫酸処理、④30%エタノール処理を行った後、再度殺菌したブドウ果汁を加え、酵母無添加でも発酵するかを調べた。続いて、発酵終了後の①水洗い区のオークチップを取り出し、収穫直後の殺菌していないシャルドネブドウ果汁を加え、発酵中 fungi 菌叢解析について ITS1 遺伝子領域を対象としたアンプリコンシークエンスを行うとともに、発酵終了後のチップ表面の様子を電子顕微鏡で観察した。
【結果】(1)発酵醪に浸したオークチップに、再度殺菌果汁を加えると、②熱処理以外の条件で発酵が起こった。(2)(1)の発酵終了後①水洗い区のオークチップを収穫直後の未殺菌の果汁に添加したところ、ブドウ由来のHanseniaspora uvarum とオークチップ由来の S.cerevisiae が増加し、最終的に約 1:1 の割合となった。(2)の非殺菌果汁発酵終了後のオークチップ表面を走査電子顕微鏡で観察したところ、卵型及びレモン型の酵母が観察され、樽材の表面には酵母が留まりやすい環境であること、留まった酵母がワインの発酵に関与しうる可能性が示唆された。
〇小畑龍太郎 ¹ ²、小松夕子 ²、平𠮷明日香 ²、小林拓嗣 ²、岩下和裕 ¹ ²
¹ 広島大学院統合生命科学専攻、² 酒類総合研究所
【目的】清酒については、古くから研究されているにもかかわらず、未だ品質を考慮した原料やプロセスの制御は杜氏の勘や経験によるところも大きい。これは清酒の評価がきき酒に基づくため、醸造パラメータと品質の関係性が個人の経験となることによる。そこで我々は、原料や微生物等、醸造条件と清酒メタボロームの関連を、日本酒醸造ビックデータとして記録化した。特に、未同定のピークも精密質量をベースに記録化した。この日本酒醸造ビックデータを利用することにより、新たに試験醸造を行わずとも、重要な醸造条件を見出すことが可能で、かつ短期間で新商品の開発等が可能と考えられる。そこで我々は、モデルケースとして 5-アミノレブリン酸(5-ALA)に着目した。5-ALA 標準品の分析により、日本酒醸造ビックデータ中の 5-ALA を新規に同定し、生成にかかわる醸造条件について検索した。その結果、白米形状が 5-ALA 生成に最も大きく影響し、その中でも、胚芽の影響が示唆された。そこで、小仕込み試験によりこのことを確認した。本研究では、さらに実規模レベルでの醸造試験を行ったので報告する。
【方法・結果】これまでの小仕込み試験の結果をもとに、総米 100kg の実規模醸造規模で、胚芽(総米相当)を添加した区(胚芽添加区)と、何も添加しない対象区での仕込みを行った。両区を比較した結果、胚芽添加区では、5-ALA を高含有することが確認された。また、胚芽添加区では、既報の通り発酵が早くなり、一般成分には大きな違いが見られた。一般香気成分についても、全体的に大きな差が見られ、特に、酢酸イソアミルに差が見られた。30 名の審査員による官能評価でも、酒質が大きく異なることが示された。特に、胚芽を添加した区では、淡麗、荒いなどの指摘の他、マスカット様、ライチ様などの指摘が多く見られた。現在、両区画の製成酒について、メタボロームデータの解析を行っている。
古谷 昇、吉田雅偲、堀江楓子、三木健夫*、中沢伸重**、○井沢真吾
(京都工芸繊維大学・応用生物、*山梨大学・生命環境、**秋田県大・生物資源)
【目的】実験室条件下で酵母細胞を高濃度エタノール(10% v/v) で直接処理した場合 (acute stress)、タンパク質の変性が引き起こされ細胞内に不溶性タンパク質が蓄積する(Kato et al., 2019)。過剰に蓄積した変性・不溶性タンパク質は、その毒性の拡散を防ぐために CytoQ やDUMP などの deposition sites に隔離される。また、Hsp104-GFP などを用いることで隔離レベルを確認できる。一方、エタノール濃度が徐々に上昇する醸造過程を模した発酵試験を 15˚C で行った場合、エタノール濃度が 10%を超えてもワイン酵母内に不溶性タンパク質の蓄積や deposition sites の形成はほとんど認められなかった。これは、漸増するエタノールに対し、酵母が適応した結果と推察される。ワイン製造はおおよそ 15〜30˚Cの環境下で行われ、醸造温度とエタノール濃度の上昇速度は密接に関連する。今回、28˚C で発酵試験を行い、ワイン酵母のタンパク質品質管理について調査した。
【方法】 ワイン酵母 EC1118 株と OCM-2 株 (三木ら, 日本醸造協会誌, 2013)に、ゲノム組込み型ベクターを使いHsp104-GFP や Hsp78-GFP などの deposition site マーカーを導入した。これらの株と合成ブドウ果汁培地 Instituto Superior de Agronomia-Synthetic Grape Must (Viana et al., AMB Express, 2014) を用いて発酵試験を行った。
【結果】15˚C および 28˚C での発酵試験を比較した結果、アルコール発酵効率だけでなく、不溶性タンパク質の蓄積およびdeposition site の形成、ミトコンドリアの形態などに大きな違いが確認された。また、実験室条件での acuteな 10%エタノールストレスに対しても、ストレス処理温度によって違いが生じ、28˚C に比べて 15˚C ではタンパク質変性が抑制されることが確認された。以上の結果から、15˚C での発酵過程では、エタノール濃度の上昇速度だけでなく、酵母あるいは細胞内タンパク質に対するエタノールの作用も緩やかになる可能性が示唆された。
○伊川秀治 ¹ ²・中山凛 ²・藤田剛嗣 ¹・河野邦明 ¹・奥野博紀 ¹・志水勝好 ²・髙峯和則 ²
¹ 霧島酒造株式会社・² 鹿児島大学農学部
【背景・目的】モノテルペン配糖体(以下、配糖体)とはモノテルペンアルコール(以下、MTA)類と糖が結合した香気配糖体の一種であり、サツマイモにも含有されている。芋焼酎中に含有される MTA は、麹菌の酵素作用により配糖体から遊離したネロール、ゲラニオールが酵母によってシトロネロールに、蒸留工程における酸および熱の作用によってリナロール、α-テルピネオールに変換されることで生成される。これらの MTA は微量香気成分とされ芋焼酎特有の香りを形成する。芋焼酎用原料として育種されたジョイホワイトで製造した芋焼酎は、芋焼酎好適品種であるコガネセンガン製と比べて 4~5 倍量のリナロールを含むことで、芋焼酎に柑橘香という特徴的な風味をもたらす。このように MTA は芋焼酎の酒質に大きく寄与する。そこで、演者らは MTAの前駆体である配糖体を高含有するサツマイモの育種を試みたところ霧 N8-1 の育種に成功した。そこで、本研究ではこの育種系統における塊根中配糖体の分布解明と醸造適性について他品種と比較検討した。
【実験方法】サツマイモはコガネセンガン、ジョイホワイト、霧 N8-1を用いた。サツマイモを蒸煮後、1 個体を Top、Bottom、Skin+Cambiu-m、Center の 4 部位に分画後、粉末化した。これにβ-グルコシダーゼとβ-プリメベロシダーゼで配糖体から MTA を遊離させ GC-MS で定量した。小仕込み試験は麹米 140g 規模で麹歩合 20%、汲み水歩合 67%の仕込み配合で行った。二次もろみの一般分析は所定分析法に従った。二次もろみおよび芋焼酎の MTA は GC-MS で定量した。官能評価はパネリスト 16 名が香りと味について 6 段階の強度評価を行った。
【結果】霧 N8-1 の各部位にはネロール、ゲラニオール、リナロールおよびα-テルピネオールがコガネセンガンと比べて高濃度に含まれており、特にリナロールは Center に多量に含有されていたことから、配糖体分布に品種間差があることが明らかとなった。また、もろみおよび焼酎に含まれる MTA も霧 N8-1 製が、シトロネロール以外は他サツマイモ製よりも高濃度に含まれていた。一般分析および官能評価結果から全醸造条件において正常に発酵が行われ、それらの中でも霧 N8-1 製焼酎は高含有される MTA 由来と考えられるライチ・マスカット様の特徴的な風味を有することが分かった。以上よりモノテルペン配糖体高含有の霧 N8-1は醸造適性に優れていることが分かった。
〇茂 一孝(地方独立行政法人鳥取県産業技術センター 食品開発研究所)
【目的】様々なビアスタイルの中で特徴あるビールの一つに、ベルギーのランビックに代表されるような乳酸の酸味が特徴のサワービールがある。サワービールの製造方法として、酸味を持つサワーモルトや乳酸を多く生産する酵母が使用されているが、酸味は弱いのが現状であり、県内クラフトビールメーカーより独自のサワービール開発の要望がある。そこで本研究では、地域特産品等より、顕著な乳酸を生産する乳酸菌を分離・同定し、独自性・地域性をもったサワービールの開発について検討した。
【方法】日本酒の生酛酒母、二十世紀梨等の分離源より麦汁を用いた集積培地で培養後、酸度が上昇した試料について、炭酸カルシウム含有平板培地に塗布した。周囲の炭酸カルシウムが溶解している単一コロニー(酸生成)を釣菌し、酸の生成量(酸度)、ガス生成の有無(ヘテロ/ホモ乳酸発酵)及び形態を基に選抜した菌株について、同定を行った。同定した菌株について、ケトルサワーリング法を用いた小スケールの試験醸造により醸造特性評価を行った。その後、試作したサワービールについて、成分分析、官能評価を行った。
【結果】日本酒醸造の生酛酒母 2 点、梨(二十世紀梨)、イチジクより酸を生成する菌株を分離した。その内選抜した 8 株について遺伝子解析等により、旧ラクトバチルス属に分類されるL. sp, L. paracasei, L. plantarumの3種類と判定した。同定できた 2 つの菌株について、ケトルサワーリング法による麦汁中での乳酸発酵を行い、終了時の有機酸組成は、著量の乳酸(0.9~1.5%)が主体であることを確認した。試験醸造による酵母の発酵経過は、発酵終了時のアルコール度数が 6%程度となり、対照(乳酸発酵なし)より若干低めの値となったが、順調に発酵が進んだ。試作サワービールの官能評価を行ったところ、3 種のサワービールの中で、生酛酒母分離株が高い評価を得た。
小澤敦揮 ¹、○堀場文二 ³、中西尚文 ²、田中真二 ²、宮本敦史 ²、宮﨑優太 ²、丸山裕慎 ³、野村由司彦 ³、山﨑栄次 ³
(¹ 四日市地域防災総合事務所、² 三重県水産研究所、³ 三重県工業研究所)
【目的】清酒醸造において、酒粕は全国で年間約 3.2 万トン発生している。一部は産業廃棄物として廃棄され、その減量化が課題となっており、その対策として飼料への活用が期待されている。そこで、マダイ養殖用飼料としての酒粕の有効性を検証した。
【方法】マダイ 2 歳魚を対象に、市販の配合飼料にマイワシおよびアミエビを加えたものを基本飼料とし、基本飼料の一部を酒粕で置換した酒粕置換飼料を用いて、供与する飼料別に 3 試験区(①:対照区、②:酒粕 15% (w/w) 置換区、③:酒粕 30% (w/w) 置換区)で 28 日間の養殖試験を実施した。養殖試験は、海面生け簀 3 面に 40 または 41 尾ずつ収容し、飽食給餌により実施した。養殖試験 1 日目および 28 日目に、各試験区から全てのマダイを取り上げて質量を計測し、1 尾あたりの平均質量を計算した。また、マダイの背側筋肉と飼料の一般成分(水分、タンパク質分、脂肪分、灰分)および遊離アミノ酸含量の分析を行うとともに、マダイの食味や切り身の外観に関して官能試験を行った。
【結果】飼料中のタンパク質は、酒粕置換割合の増加に伴い、含量が低くなった(試験区①:30.2% ,試験区②:26.9%, 試験区③:19.9%)。しかし、3 試験区間で、マダイの成長率および飼料効率、官能試験の評価に有意な差は認められなかった。一方、飼料中の遊離アミノ酸は全体として増加しており、中でも摂餌誘導アミノ酸である Gly, Ala, Lys, Val, Glu は、酒粕置換割合の増加に伴い、試験区③、②、①の順で含量が有意に高くなった(p<0.05)。また、摂餌量は試験区③、②、①の順で高かった。これらの結果から、酒粕置換飼料において、タンパク質含量は減るものの、より吸収効率の優れたアミノ酸含量が増加することや、摂餌誘導アミノ酸含量の増加によって摂餌量が増加すること等に伴って、マダイが問題なく生育する可能性が示唆された。
〇尾形智夫、瀬戸菜々子、西野莉穂、藤井聖愛、関口南海、千吉良早貴 (前橋工科大学・生物工学科)
【目的】高品質な味噌醤油製造に貢献することを目的として、味噌醤油酵母の接合育種に取り組んでいる ¹⁾。味噌醤油酵母Zygosaccharomyces sp.は、耐塩性が強いことが広く知られているが、その機序や培地の塩濃度が、接合性発現や食品香気産生にどのように影響するかの知見は少ない。
【方法】接合性は、栄養要求性と薬剤耐性の相補性で測定した。接合性発現に関連する遺伝子発現は、プロモーターに接続させたレポーターアッセイによって測定した。味噌醤油酵母が産生する食品香気として、HEMF(4-hydroxy-2(or 5)-ethyl-5(or 2)-methyl -3(2H) -furanone)の産生量は、HPLC で測定した。酵母細胞内のグリセロール含量は、F キットで測定した。
【結果】味噌から分離された酵母株 Zygosaccharomyces sp. NBRC1876 と NBRC1877 は、高塩条件下で、接合が促進された ¹⁾。接合性発現に関与すると想定される、接合遺伝子座に存在する MATa2 遺伝子と MATalpha1遺伝子、接合性 a 特異的遺伝子 STE6 遺伝子は、高塩条件で、発現量が増加した。食品香気 HEMF は、NBRC1876では、高塩条件で産生量が増加したが、NBRC1877 では、産生量は塩濃度により変化はなかった。HEMF 産生量が塩濃度に影響するかは、NBRC1876 と NBRC1877 の接合株の場合、酵母株によって異なっていた。高塩条件下で、味噌醤油酵母細胞中のグリセロール含量は、大幅に上昇した。
【考察】高塩条件で、味噌醤油酵母の接合が促進されたのは、接合性発現に関与する遺伝子の発現が、高塩条件で上昇したことと関係する可能性が考えられた。高塩条件での食品香気 HEMF 産生量の変化は、酵母の遺伝的影響が考えられた。味噌醤油酵母の高塩条件では、グリセロールが適合溶質として作用していると考えられた。
1) Ogata, T. &. Kuroki, K. Yeast 38, 471-479(2021)
〇小橋有輝 ¹、吉﨑由美子 ¹ ²、奥津果優 ²、二神泰基 ¹ ²、玉置尚徳 ¹ ²、髙峯和則 ¹ ²
(¹ 鹿児島大院・連合農学研究科、² 鹿児島大・農学部)
【背景と目的】
酵母の THI3 遺伝子を破壊するとイソアミルアルコール(i-AmOH) 生成量が低下することが報告されており、THI3遺伝子は、チアミン二リン酸 (TPP) 依存性デカルボキシラーゼをコードし、i-AmOH 生合成へ直接的に関与することが示唆された (Dickinson et al, 1993)。しかし、焼酎酵母 (C4) とそれを親株に取得した THI3 遺伝子破壊株(ΔTHI3 ) は、培地の栄養環境によっては i-AmOH 生成量の低下が起きないことが確認された。このことより、THI3遺伝子は、チアミン生合成系のレギュレーターとして、細胞内のチアミン生合成を促進し、TPP の供給を促すことで、i-AmOH 生合成に間接的に関与していると考えられる。本研究は、細胞外チアミン量とΔTHI3 の i-AmOH 生成量の関係を明らかにすることを目的とした。
【方法】
グルコース 2%、ロイシン 2% およびビタミンとミネラルはチアミン以外の Yeast Nitrogen Base の構成成分を含み、チアミンを終濃度 0 から 100 µg/L まで段階的に添加した培地で、C4 とΔTHI3 を定常期になるまで培養した。培養後は総菌数の測定と、GC/MS 分析による i-AmOH 濃度の測定、培養後の酵母細胞破砕液の HPLC 分析による細胞内チアミン量および TPP 量の測定を行った。
【結果】
培地にチアミンを添加することで、ΔTHI3 はチアミン濃度依存的に総菌数とi-AmOH生成量が増加したが、C4はチアミン添加による影響が確認できなかった。また、ΔTHI3 のi-AmOH 生成量は、チアミン添加によって C4 と同程度となった。細胞内チアミン量と TPP量について、C4 に関してはチアミン添加量に関わらずほぼ一定となり、ΔTHI3 では添加量と比例して増加する傾向が確認された。また、ΔTHI3 の細胞内チアミン量は総菌数、TPP 量は i-AmOH 生成量との相関が確認された。
〇岩谷隆光 ¹、赤尾慎吾 ¹、岡野達広 ¹、竹田宣生 ¹、塚原祐輔 ¹、大泉透 ¹、福士秀幸 ¹、田中智樹 ¹、
菅原真希 ¹、辻俊宏 ² ¹、武田昭信 ¹、山中一司 ¹ ²(¹ ボールウェーブ、² 東北大学)
【目的】清酒の醸造・輸送工程における香気成分の現場分析は、発酵現象の理解や品質管理のため有意義である。このような分析にはガスクロマトグラフ(GC)が有用だが、通常の GC は大型で現場への持ち運びが困難である。これに対し、我々は球状素子の多重周回する弾性表面波(Surface acoustic wave; SAW)を利用した小型で高感度なボールSAWセンサ1)を用いた可搬型GC(PGC)
2)を開発してきた。一方で再現性の良い定量分析には試料ガスの採取方法も重要である。そこで、現場で簡易的に
試料を採取できる点で有用なヘッドスペース(HS)法において採取条件が測定結果に与える影響を調べた。
【方法】PGC(SY-400)を用いて、清酒の香気成分 を平衡状態で濃度が一定の気相を採取する静的 HS 法と気相を連続的に採取する動的 HS 法で分析した。静的 HS 法では減圧の懸念を解消するために清酒を十分な量注入したガスバッグを 20℃に保持し PGC の捕集管からガスバッグ内の気相部分を吸引した。動的 HS 法では 20℃に保持した 22ml のバイアルに約 10ml の清酒を入れ、PGC の捕集管からバイアル内の気相を吸引した。捕集流量は5ml/min で捕集量を 5~25ml で変化させた。カラム温度は50℃で2分間保持した後、10℃/minで180℃まで昇温した。
【結果】清酒の主要香気成分である酢酸イソアミル、カプロン酸エチル、カプリル酸エチルについて、クロマトグラムの各ピーク面積と捕集量の関係を評価した。静的 HS 法では、捕集量の増加とともに各成分ともほぼ線形にピーク面積が増加した。動的 HS 法の測定値は静的 HS 法とほぼ同等であり、HS の香気成分が短い時間でほぼ平衡濃度に
達したことが分かった。動的 HS 法は、ガスバッグが不要で現場で容易に試料ガスを採取し定量評価できるため、PGC を用いた清酒の香気成分の現場分析に期待できる。
1) K. Yamanaka et al; Appl. Phys. Lett. 76 (2000) 2729.
2) T. Iwaya et al; Jpn. J. Appl. Phys. 61 (2022) SG1051.
〇飛田 啓輔 ¹、臼井 卓二 ²、小田木 美保 ¹、河原 航 ¹、石川 卓 ¹、藤井 恵輔 ¹、野口 友嗣 ¹、村井 重司 ²
(¹ 茨城県産業技術イノベーションセンター、² 村井醸造株式会社)
① 目的
清酒の輸出においてカルバミン酸エチル生成と酸化による香味劣化の抑制は重要な課題である。カルバミン酸エチルの多くは、酵母から産生される尿素とエタノールによって生成されることから、尿素低生産性酵母の利用が進んでいる。一方、我々は生酛から分離した乳酸菌Leuconostoc mesenteroides の中から、火落ち性が無く、麹エキス培地において速やかに増殖する抗酸化能の高い菌株を選抜した。本発表では、輸出向け清酒開発を目的として、尿素低生産性酵母と選抜乳酸菌を用いた山廃酛による純米酒の醸造試験を行った。
② 方法
乳酸菌の増殖性は MRS 培地により調べた。仕込みは総米480 kg とし、精米歩合 80%の酒造好適米、尿素低生産性酵母である「きょうかい酵母 KArg701 号」および選抜乳酸菌を用いた山廃酛で仕込んだ。一般成分分析は国税庁所定分析法に従った。香気成分はヘッドスペース法によるガスクロマトグラフィーにより、尿素濃度は F-kit尿素/アンモニアを用いた酵素法により、抗酸化能はH-ORAC 法により測定した。
③結果
選抜乳酸菌は 7℃および 10℃において増殖が確認された。山廃酛では選抜乳酸菌を添加した後、酸度の低下が観察され、枯らし期間では乳酸菌は検出されず、TTC 培地では野生酵母は観察されなかった。醪日数は 23 日間であり、アルコール度数 17.5 度を越えたときに上槽した。製成酒では、尿素濃度が検出限界値未満、香気成分として酢酸イソアミル 4.2 ppm、カプロン酸エチル 1.0 ppm だった。このように、KArg701 号と選抜乳酸菌を用いた山廃酛による純米酒製造では、尿素濃度に影響を与えず、酢酸イソアミル主体の純米酒が製造できることが示唆された。なお、得られた製成酒の抗酸化能は調査中である。
○渡部貴志 ¹、星野元希 ²、土田祐士 ²、栁澤昌臣 ¹、赤尾健 ³、田島創 ¹
(¹ 群馬産業技術センター、² 土田酒造株式会社、³ 酒類総合研究所)
【背景と目的】
土田酒造株式会社では、全量生酛造りかつ純米酒、添加剤を一切使わない造りに方針転換した。さらに、土田酒造の独自性を高めるため、培養酵母を添加せず、蔵付き酵母を利用した清酒造りにも取り組んでいる。前回の講演 ¹⁾では、酵母無添加の菩提酛で単離した蔵付き酵母の簡易識別 ²⁾と醸造特性を評価し、協会系の優良清酒酵母が増えていると推測された。しかしながら、簡易識別法では、推測にとどまるため、全ゲノム解析によりどのような酵母であるか評価したいと考えた。
一方、酵母無添加造りを繰り返すうちに、TTC 染色法では桃色を示す野生型の清酒酵母が優占化してくるようになった。そこで、R1BY、R2BY の土田酒造の酵母無添加造りの酒母から酵母を複数単離し、TTC 染色や小仕込み試験、キラー活性試験により醸造特性を評価することにした。
【方法と結果】
土田酒造の蔵付き酵母の中で、優良清酒酵母かつ異なる系統と類推され、発酵力が高めの 5 株の全ゲノム解析を行ったところ、K7 または K9 系統であることが分かった。簡易識別法では、K6 系統と推測していた 3 大-21 は K9系統であり、簡易識別法の限界が感じられた。
R1BY、R2BY の蔵付き酵母は、小仕込み試験では、高精白米、低精白米のどちらを用いた場合においても、TTC染色で赤色であった酵母の方が、桃色のものよりも発酵速度が速い傾向であった。TTC 染色で赤色であったものは泡無し株かつキラー活性がなかった。一方、TTC 染色で桃色であった酵母は、泡有り株でキラー活性があるものが複数認められた。
【参考文献】
1)渡部ら:令和元年度日本醸造学会大会講演要旨集、p6
2)福田央:日本醸造協会誌、202-211(2014)
〇塚原正俊 ¹・東春奈 ¹・久貝樹幹 ¹・大城敬一郎 ²・樫原忠 ²
(¹ バイオジェット、² オリオンビール)
【目的】沖縄県は、国内では特有の亜熱帯気候であり、多くの生物で固有種や希少種が見いだされている。微生物においても地域特性を有する未確認の種や株が数多く存在すると考えられ、今後も沖縄の自然界から基盤研究および産業活用に有用な微生物の取得が期待できる。
本研究では、沖縄の自然界から酵母を採取し、詳細な系統や生化学的特性を評価するとともに、得られた優良株を用いて新たなビールの商品化を目指した。
【方法・結果】沖縄県の広範な地域の自然界から約 200検体の植物試料を採取した。これらの試料を 3-10%エタノールを含む培地で複数回継代することで集積培養を行った。濁度が上昇した検体について、アルコール濃度の上昇が確認された検体から微生物を単離した。得られた菌株を対象として 18SrDNA 配列を解析することで、3 株の Saccharomyces cerevisiae を得た。これらにつ
いて、全 SNV を比較する手法 ¹⁾ ²⁾を用いて詳細な系統解析を行った。その結果、これらの株は、清酒やパン酵母など従来の酵母とは離れた系統的位置であり、また、それぞれの酵母同士も一定程度離れていたことから、沖縄の自然界から複数の新たなS.cerevisiae株が得られたことがわかった。さらに、これらの株のうちマルトース資化性が高く、小仕込試験でアルコール濃度が迅速に上昇したOB-001 株を選抜した。当該株を用いてビールを醸造したところ、対象株と比較して複数の香気成分の含有量が異なることを確認した。また、官能試験の結果から、従来のビールと比べてフルーティーでまろやかな口当たりとふくよかな味わいのビール醸造が可能であることがわかった。本 OB-001 株を用いた新たなビールは、2022 年 10 月にオリオンビール(株)より発売する予定である。
1)H.Takagi, M. Tsukahara et al., Isolation and characterization of awamori yeast mutants with L-leucine accumulation that overproduce isoamyl alcohol, J. Biosci. Bioeng., 119, 2, 140-147, 2015
2 )塚 原 正 俊 ら , 全 ゲ ノ ム 情 報 を 用 い た 黒 麹 菌 Aspergillus luchuensis の系統解析,日本醸造協会誌, 117, 6, 413-421, 2022
○長船 行雄,利田 賢次,韓 錦順,磯谷 敦子,向井 伸彦(酒類総合研究所)
篠田 典子,松本 健,岩田 知子(熊本国税局)
【目的】
我々は、本格焼酎・泡盛の香味を体系的に表現するため、焼酎に含まれる各種香気成分の閾値や焼酎中の含有量を調べることで、香気への寄与の大きさを明らかとするとともに、香気寄与の大きさを考慮して標準見本物質30 成分を選定し、本格焼酎・泡盛フレーバーホイールを作成してきた。ところで、「香ばしい・焦げ臭」及び「油香・油臭」という表現は、お互いに類似した香りについて、一方では特徴香として、もう一方では欠点臭としてとらえており、お互いに対をなす評価用語と考えられる。これらの評価用語に寄与する成分はほとんど明らかとなっていないことから、本研究ではこれらの評価用語に寄与する成分を明らかとすることを目的とした。
【方法】
熊本国税局管内の製造者から提供された焼酎 41 点(「香ばしい・焦げ臭」区分 23 点、「油香・油臭」区分18 点)を試料とした。はじめに、36 名のパネリストにより各評価用語の香りの強弱を尺度評価した。
次に、「香ばしい・焦げ臭」区分についてはこれまでの研究成果を基に、「油香・油臭」区分についてはあらかじめ GC-O 分析を実施し候補成分を挙げた。試料中の各種香気成分を定量分析し、官能評価結果との相関を調べた。
【結果】
「香ばしい」という表現と正の相関が強い成分は、イソバレルアルデヒド、2-FM、4-VG、そしてフルフラールであった。その内、イソバレルアルデヒドと 2-FM については「焦げ臭」とも正の相関が比較的強いことが確認された。また、「油香・油臭」については、中鎖の飽和及び不飽和のアルデヒド類が正の相関が比較的強いことが確認された。
本研究は熊本国税局並びに管内製造者の皆様との共同試験の一環として行ったものである。
三輪裕治 ¹,藤井義大 ²,濵村洋平 ³,大橋奈央 ⁴,新山伸昭 ⁴,〇川上晃司 ⁴
(¹ 三輪酒造株式会社,² 藤井酒造株式会社,³ 旭鳳酒造株式会社,⁴ 株式会社サタケ)
【目的】「日本の縮図」と呼ばれるほど,気候風土豊かな土地,広島。風土が異なる「神雷」,「龍勢」,「旭鳳」の三蔵が,「真吟精米」を用い,原料米,麹菌,酵母ともに同じ素材を用いて醸造試験を実施した。風土と技術の違いが,製麹特性,もろみ経過,製成酒の成分および酒質へ及ぼす影響を調査したので報告する。
【方法】三蔵ともに同一の原料米,麹菌,酵母を使用し,総米 500kg の醸造試験を実施した。原料米は,令和 3 年広島県産「千本錦」を用い,cBN ロールを搭載したサタケ製醸造精米機(EDB40A)を用いて,精米歩合 60%に「真吟精米」した。麹菌は「丸廣もやし」,酵母は「広島KA-1-25」を使用した。
【結果】製麹特性は,「旭鳳」で「神雷」,「龍勢」よりもα-アミラーゼおよびグルコアミラーゼの酵素力価が低い傾向が見られた。一方,酸性プロテアーゼおよび酸性カルボキシペプチダーゼは,「旭鳳」で高い傾向が見られた。もろみ日数は,「神雷」が 27 日,「龍勢」が 26 日,「旭鳳」が 24 日となった。最高ボーメは,「神雷」と「旭鳳」が同程度で「龍勢」は若干低くなった。ボーメの切れは,「旭鳳」が最も鋭く,「神雷」と「龍勢」は同程度であった。製成酒は,「旭鳳」で「神雷」,「龍勢」よりもアミノ酸度が高い傾向が見られた。これは,麹のタンパク質分解酵素の活性が高かったことが影響したと考えられる。アルコール分は,「旭鳳」で「神雷」,「龍勢」よりも低い傾向が見られた。ボーメのキレが鋭く,もろみ日数が短いことが影響したと考えられる。粕歩合は,「神雷」で最も少なく,「旭鳳」,「龍勢」の順に多くなった。理由として,麹の酵素活性および蒸米吸水率が影響したと考えられる。官能評価は,三者三様の結果となり,「神雷」はマスカット様の香りで丸くて滑らかな味,「龍勢」は華やかな香りでキレイな味,「旭鳳」は Woody な香りで旨みと酸味がしっかりした味となった。
○小野瀬翔,石原未那萌,臼倉拓弥,住吉研,今井阿由子,重村幸治(Tianma Japan 株式会社)
【目的】
操作が簡便で迅速な測定を目指した小型分析装置の開発を行っている.本分析装置を用いて,これまでにカビ毒,ウイルス,抗生物質などの定量測定を実証した.
本稿では測定ターゲットをヒスタミンとした.ヒスタミンは赤身魚や魚醤,醤油や味噌,チーズなどの発酵食品やワインやビールなどのアルコール類中で検出されており,食中毒症状を引き起こすことが知られている.
【方法】
本分析装置は蛍光偏光免疫分析法(FPIA)を原理としている.FPIA 分析法では,①ターゲット(抗原),②抗原に特異的に結合する抗体,③抗原を蛍光色素修飾したトレーサー,3 つの物質の結合反応によるトレーサーの蛍光偏光度変化を測定し,抗原濃度を推定する.
液晶素子とイメージセンサを備えた本開発 FPIA 装置にマイクロ流路デバイスを用いて測定を実施した.本分析装置は小型・軽量で可搬性に優れており,測定所要時間は調液まで含めて 30 分程度で分析可能である.
【結果】
本稿では食品測定対象をナンプラー,醤油,ワインの 3種として本分析装置を用いて測定を行った.プロセスとしてはまず濃度の異なる 9 水準のヒスタミン水溶液を準備して FPIA 測定を行い,検量線を作成した.続いて上述の食品希釈液に複数濃度の抗原溶液を添加し,FPIA 測定を行った.食品を測定する場合,食品に含まれる夾雑物由来の蛍光(自家蛍光)は測定結果に影響を与える原因となる.今回,その影響を排除するため,食品由来の蛍光のみを測定し,食品サンプルの FPIA 測定結果を補正する方法を考案した.
以上の方法を用いて,食品中のヒスタミン定量測定(測定下限濃度は 1~10 ppm 程度)を行うことができた.本測定法はヒスタミンの簡易測定に有用であると考えている.
○三井俊 ¹、近藤徹弥 ¹、伊藤彰敏 ¹、山本晃司 ¹、伊東寛明 ¹、家田明音 ²、小倉亮 ³、齋藤知明 ³、
原本直幸 ⁴、志水元亨 ²、加藤雅士 ²
¹ あいち産業科学技術総合センター、² 名城大学、³(地独)青森県産業技術センター、⁴ 中埜酒造(株)
①目的
カプロン酸及びカプリル酸は、カプロン酸エチル高生産酵母を用いて醸造された清酒のオフフレーバーである脂肪酸臭の原因とされている。このため、清酒中のカプロン酸及びカプリル酸含量を迅速かつ高精度に分析し、把握することは品質管理上重要と考えられる。
そこで本研究では、清酒中カプロン酸及びカプリル酸の簡便な分析法の設定に取り組んだ。
②方法
酢酸エチルを用いた溶媒抽出と GC/MS を組み合わせることで、多数の検体を短時間で簡便に処理できる清酒中カプロン酸及びカプリル酸の定量法について分析条件を最適化した。
設定した分析法を用いて、カプロン酸エチル高生産酵母のカプロン酸生成能や貯蔵清酒中のカプロン酸及びカプリル酸濃度の推移を評価した。
③結果
1 mL 量の清酒に内部標準物質として n-アミルアルコールを添加後、酢酸エチル 3 mL を加えて溶媒抽出を行い、酢酸エチル層を GC/MS に供した。カプロン酸に対する検量線は 0.8-118.4 mg/L の範囲で R²=0.9999 の直線関係を示した。カプリル酸に対する検量線は 0.9-44.0 mg/L の範囲で R²=0.9995 の直線関係を示した。
本分析法を貯蔵した吟醸酒に適用した結果、カプロン酸及びカプリル酸濃度は、貯蔵温度(-4℃~25℃)に依存せず、3 ヶ月程度では大きな変化はなかった。また、麹汁培地を用いた発酵試験において、カプロン酸エチル高生産酵母は、伝統型酵母と比較して、短時間の培養でも有意にカプロン酸を多く生成し、両酵母を迅速に識別可能であった。さらに、カプロン酸エチル生成能の異なる酵母について清酒小仕込試験を行った結果、カプロン酸エチル生成能が高い酵母程、カプロン酸生成能も高かった。
○佐藤友紀、進藤昌(秋田県総合食品研究センター醸造試験場)
① 目的
清酒は、乳酸菌、麹菌、酵母といった多様な微生物による複雑な発酵行程を経て、醸造される。
そのため、ワインや蒸留酒にはない、清酒独自の機能性成分が期待される。具体的には、アグマチンをはじめとするポリアミンや、D-アミノ酸、SAM などが、清酒に含まれる成分としてこれまでに報告されている。
本研究は、これらの清酒関連物質の免疫調節機能を明らかにすることを目的として、実験を行った。
② 方法
マウスマクロファージ由来 Raw264.7 細胞を用いた。
Raw264.7 細胞を LPS 刺激して NO 産生を惹起し、アグマチン、SAM、D-アミノ酸、酵母培養上清、乳酸菌培養上清をそれぞれ培地に添加し、NO の産生量からマクロファージの活性を評価した。
③ 結果
LPS 刺激により、Raw264.7 から NO が多量に産生されることを確認した。
LPS 刺激下において、アグマチンは添加量依存的に NO産生を抑制した。また、SAM も若干の NO 産生抑制効果を示した。また、D-アミノ酸については、計 9 種類による効果を比較したが、NO 産生を抑制したのは、D-アラニンと D-グルタミン酸であった。酵母培養上清は LPS 刺激下で NO 産生を抑えたが、乳酸菌培養上清はむしろ NO 産生を促進した。
また、LPS で刺激せずに、化合物単独で Raw264.3 を処理して免疫賦活効果を検証した結果、ほとんどの化合物に効果はなかったが、酵母培養上清と、特に乳酸菌培養上清に免疫賦活効果を認めた。
○高堂泰輔 ⁽¹⁾、藤原久志 ⁽¹⁾、若井芳則 ⁽¹⁾、冨田晴雄 ⁽²⁾、中嶋理奈 ⁽²⁾、宮藤章 ⁽²⁾
(1)黄桜株式会社 (2)大阪ガス株式会社
【背景と目的】我々は酒造用原料米の吸水特性の解明を目的に、水浸裂傷および吸水量についての時間連続的かつ定量的な評価手法を開発してきた 1), 2), 3)。その中で、米粒複数粒スケールでの浸漬温度、白米水分、心白、水浸裂傷、吸水量などの相互関係を明らかにしたが、更なる理解のためには、単粒スケールでの関係性を考察する必要があると考えられた。そこで本研究では、米粒を楕円体領域として仮想的に表現し、数値計算法で含水率変化をシミュレートするシステムを構築した。加えて酒造好適米の吸水に影響を及ぼす、心白と水浸裂傷の情報をシミュレーションに組み込み、酒造好適米含水率変化の実在データとの比較をおこなった。
【材料と方法】R2 年産「祝(京都)」「山田錦(兵庫)」、「五百万石(京都)」「五百万石(福井)」「雄町(岡山)」「吟吹雪(滋賀)」「おくほまれ(福井)」の玄米を精米歩合 60%まで精米し、白米水分 12%に調湿後、試験に供した。吸水過程の撮影は既報 2), 3)に従い実施し、心白形状、水浸裂傷と含水率のデータを得た。米粒内への浸漬水の拡散は 3 次元拡散方程式に基づくと仮定し、離散化した微分方程式を数値計算することで含水率変化をシミュレートした。計算プログラムの作成にはPython3 および科学計算用ライブラリを使用した。
【結果と考察】実在データでは米粒の外周部や水浸裂傷の発生箇所といった浸漬水との接触部分から吸水が進む様子が観察され、仮想データでも類似した現象が観察された。米粒内の水の拡散速度について、表層部に対して米粒中心部で大きくなるように設定することで、水浸裂傷による吸水速度の上昇効果が高くなり、酒造好適米の吸水傾向に近づいた。さらに、実在データと仮想データでは品種間の吸水速度順序が概ね一致することが明らかとなった。本試験では拡散係数が一定に設定されていることを踏まえると、水浸裂傷と心白が品種の吸水特性を決める要素の大部分を占めていることが示唆された。
1)高堂ら 醸協 114(11), 697-706 (2019), 2)高堂ら 醸協 117(4),306-317 (2022), 3) 中山ら 平成30年日本醸造学会大会講演要旨
○工藤晋平、長谷川悠太、中村信介、高野秀昭、高橋義行(山形県工業技術センター)
奥田将生(独立行政法人酒類総合研究所)
①目的
酒米溶解度を評価するアルカリ崩壊試験は,従来目視での判断のため数値化されておらず,データの比較が困難であった。本研究では,酒米溶解度の定量化方法の確立を目的に,画像処理によりアルカリ崩壊現象を数値化した。更に,その計測値と糊化開始温度との関係を明らかにし,数値化した酒米溶解度の合理性を検証した。
②実験方法
アルカリ崩壊試験は,48 穴のマイクロプレートを用い,ウェル毎に 1粒の測定サンプルと 1.7%KOH 水溶液 1mlを入れ,25℃の恒温槽で試験を行った。撮影に使用するスキャナは,被写界深度の深さが重要となるため縮小光学方式の CCD(Charge Coupled Device)スキャナを選定した。試験開始時から一定の時間間隔でマイクロプレートを裏面より撮影し,画像解析により各ウェルの状態を数値化し,その変化から溶解時間を定量化した。
③実験結果
各ウェル内で,1粒の米がアルカリ崩壊する様子を経時的に記録し,画像処理により白い米と黒い背景による各画素のグルースケール(濃淡)値から,その分散値が得られた。この値は,米の吸水に伴う白化と面積増と共に上昇し,吸水終了時点で最大値を示す。その後,米の崩壊が始まると共にウェル全体に白色域が拡がりながら灰色化して,分散値は減少し,0 に漸近する時系列プロファイルが得られた。ここから,溶解度を安定的に定量化するために,最も拡散が進んだと推察される単位時間当たりの分散値変化量の大きいポイントに着目し,その近傍で時間変換し扱いを簡便にした,分散値がその最大値から 50%減少した時点を溶解時間として定義し,定量化することとした。
得られた画像処理による溶解時間は、DSC(示差走査熱量計)の糊化開始温度と高い相関が得られたことから,酒米の溶解性を示す数値として合理性が認められた。
○栗林喬 ¹、神子島世奈 ¹、佐藤夢未 ¹、鈴木睦美 ¹、浅野宏文 ²、飯塚泰一 ³、畠山明 ⁴、原崇 ⁵、城斗志夫 ⁵、金桶光起 ⁶
(¹ 新潟食料農業大学、² 越銘醸株式会社、³ 雪椿酒造株式会社、⁴ 吉乃川株式会社、⁵ 新潟大学農学部、⁶ 新潟県醸造試験場)
【目的】清酒製造において、清酒酵母は、原料米と麹菌とともに清酒の品質を決定する大きな要因である。近年、酒類の多様化に伴い、個性的で魅力ある清酒製品が重要になるなか、酒造場の酒造道具や作業場内に存在する「蔵付き酵母」を利用することによって、製造者間における差別化を図る試みがなされている。
これまでに本県では、我々が開発した Loop-mediated Isothermal Amplification(LAMP)法による醸造用酵母の識別法を利用して、清酒製造場より既存の清酒酵母とは異なる「蔵付き酵母」の選抜と醸造特性の解析を進めている。さらに、「蔵付き酵母」が分離された一部の酒造場において、分離株を用いた実地醸造試験を行った結果、それぞれ酒蔵の「蔵付き酵母」によって異なる醸造特性を示すことが明らかになった。そこで本研究では、新潟県内における「蔵付き酵母」の工業規模における醸造特性について報告する。
【方法】新潟県内の各酒造場の酒母及び醪から、TTC 染色法と K7_02212 遺伝子および PPT1 遺伝子を標的とするLAMP 法をスクリーニング法として利用し、K7 グループ系清酒酵母とは異なる酵母を分離した。得られた酵母の生理学的解析および清酒小仕込試験を実施し、実地醸造に耐えうる「蔵付き酵母」を選抜した。
【結果】新潟県中越地区に立地する越銘醸・雪椿酒造・吉乃川 ¹⁾ から「蔵付き酵母」を分離し、実地醸造における醸造特性の比較を行ったところ、高泡形成性およびアルコール生成能や有機酸生成能に大きな違いが見られた。創業から 170 年を超えるこれらの酒造場は、比較的狭い地域に立地しているにも関わらず、各蔵より分離された「蔵付き酵母」の性質が異なることから、上記の結果は、清酒酵母の進化形成や、国内における伝播の実態を解明する上での貴重な知見となり得る。
1) 畠山明ら:醸協, 115, 537-544(2020)
〇安木 理沙子、角田 大知、赤津 美月、三浦 優人、伊藤 俊彦
(秋田県大・生資科)
【目的】澱粉合成酵素及び澱粉分枝酵素のアイソザイムSSⅢa、BEⅡb の二重欠損変異体米は、アミロース含量約 46%の超高アミロース米(以下、難消化性米と表記)であるとともに、アミロペクチンの短鎖割合が減少している。アミロペクチン鎖長の長鎖化は高温登熟障害米にも認められ、澱粉は難消化性となる。演者らはこれまでに清酒の小仕込み試験において、難消化性米を掛米に用いると炭酸ガス減量・酒化率及びアルコール濃度に大きな差が生じ、麹米・掛米に難消化性米を用いると差異が小さくなることを確認している。そこで、本研究では難消化性澱粉分解に関与する酵素の特定及び、分解特性について解明を試みた。【方法】難消化性米を原料米とした麹の消化特性を調べるため、以下に示す 3 種類の麹を用いた小仕込み試験を行った。①難消化性米麹(A6BC2)、②難消化性米麹(まんぷくすらり)、③秋田酒こまち麹。掛米は全てまんぷくすらりを用いた。品温は 13℃とし、完全発酵を目指し留仕込み後 45 日間で上槽した。得られた清酒は一般成分分析をし、酒粕はイソアミラーゼ処理を行った後、陰イオンクロマトグラフィー(DIONEX 社製)を用いて残存アミロペクチン組成を調べた。また、それぞれの麹抽出液を用いて各種酵素活性測定を行うとともに、2D-PAGE により酵素発現パターンを比較した。【結果】小仕込み試験から3種類の麹を比較すると、①最終的な炭酸ガス減量はほぼ等しいが、秋田酒こまち麹では発酵が穏やかであり、エキス分が少なく日本酒度が若干高くなった。②難消化性米麹の2品種を比較すると大きな差は認められなかった。③酵素活性を比較するとα-アミラーゼ、グルコアミラーゼ共に難消化性米麹において活性が高かった。④酒粕の残存アミロペクチン鎖長を比較すると、秋田酒こまち麹と難消化性米麹において、大きな差異が認められた。⑤2D-PAGE の結果より、難消化性米麹において、特徴的なスポットが認められた。
髙峯和則・吉﨑由美子・奥津果優(鹿児島大学農学部附属焼酎・発酵学教育研究センター)
1.はじめに
焼酎の成分はエタノールと水以外に、高級アルコールや脂肪酸エステル、微量香気成分、有機酸などが含まれ、その合計量は0.2%程度である。わずか0.2%程度の成分の中でも、特に微量香気成分は、原料や原料処理、発酵条件、蒸留条件、麴菌や酵母の種類など、様々な要因から形成され、その成分の有無や割合の違いによって焼酎は個性を持つことになる。そこで、サツマイモの栽培期間や、醪pH、仕込み配合が焼酎の品質に与える影響について検討した。
2.栽培期間がサツマイモの品質および芋焼酎の酒質に及ぼす影響
芋焼酎メーカーでは、植え付け後150日前後のサツマイモで製造すると「芋焼酎らしい」風味になると言われている。そこで、栽培期間が120日、150日、180日のサツマイモを使って芋焼酎を製造し比較した。150日のサツマイモで製造した焼酎が最も「芋焼酎らしい」、「甘い」と評価され、180日に延長したものが「華やか」な酒質となる傾向にあった。また栽培期間が長くなるほど、ローズオキサイドやβ-ダマセノンの含量が多く、栽培期間が120日のサツマイモで製造した焼酎はモノテルペンアルコールが多い傾向にあった。
3.芋焼酎の発酵および酒質に及ぼす二次醪pHの影響
焼酎麴菌はクエン酸を菌体外に多量に生産するため醪pHが低下し、発酵中の醪では雑菌の増殖が抑制できる。また、醪pHは焼酎の香気成分生成にも大きな影響を及ぼす。高級アルコールと酢酸エステルはpHが高くなるに従い緩やかに増加する傾向にあった。β-ダマセノンは醪pHが低くなるほど増加した。アルデヒドは、醪pHが高くなるほど焼酎中の含有量が減少する傾向にあった。醪pHが低い焼酎は「華やかさ」や「柑橘の香り」と評価された。味は醪pHが3.1 ~4.3と5.4の焼酎では、「甘味」を感じ、醪pH3.1と5.1の焼酎では「渋味」を感じた。
4.仕込み配合が酒質に与える影響
芋焼酎の仕込み配合は米麴1に対して芋が5の割合(1:5)が一般的である。本研究では低アルコール芋焼酎に適した製造法について、異なる仕込み配合(米:サツマイモ=1:1、1:3、1:5、1:8および1:10)で製造し15%に割り水した焼酎は、1:8の焼酎が最も「華やか」で「濃厚」との傾向がみられた。
略 歴
氏名:髙峯和則
<現所属>鹿児島大学農学部附属焼酎・発酵学教育研究センター
<生年(西暦)>1964年
<現所属>鹿児島大学農学部附属焼酎・発酵学教育研究センター
<略歴>1987年鹿児島大学農学部農芸化学科卒、同年南九州コカ・コーラボトリング(株)入社、1991年鹿児島県工業
技術センター入庁、2006年鹿児島大学農学部焼酎学講座助教授、2007年同准教授、2013年鹿児島大学農学部附
属焼酎・発酵学教育研究センター教授、現在に至る
<抱負>焼酎の風味の生成機構を明らかにしたい
氏名:吉﨑由美子
<現所属>鹿児島大学農学部附属焼酎・発酵学教育研究センター
<略歴>2007年鹿児島大学農学部寄附講座焼酎学講座特任助教、2011年鹿児島大学農学部附属焼酎・発酵学教育研究セ
ンター特任助教、2012年鹿児島大学農学部附属焼酎・発酵学教育研究センター助教、2015年鹿児島大学農学部
附属焼酎・発酵学教育研究センター准教授、現在に至る
<抱負>焼酎の素晴らしさを科学的に証明したい
氏名:奥津果優
<現所属>鹿児島大学農学部附属焼酎・発酵学教育研究センター
<生年(西暦)>1981年
<略歴>2003年京都薬科大学薬学部製薬化学科卒、2008年金沢大学大学院自然科学研究科生命科学専攻博士後期課程修
了、2013年鹿児島大学附属焼酎・発酵学教育研究センター特任助教、現在に至る
<抱負>おこがましいですが、醸造学と薬学の架け橋になるような研究をしたいです
○井口直生 ¹、稲橋正明 ¹、五島徹也 ²、赤尾 健 ²、下飯 仁 ¹(¹日本醸造協会、²酒類総合研究所)
【目的】酵母のアデニン要求性変異株をアデニン不足の条件で培養すると、菌体内に赤色の色素を蓄積する。アデニン要求性変異株を用いた清酒の醪は、菌体の色によりピンク色となることから、清酒酵母のアデニン要求性変異株が育種され、桃色にごり酒の製造に利用されている¹⁾。日本醸造協会は、赤色清酒酵母を製造・販売しているが、培養した時に、アデニン要求性を失って、赤色にならない酵母が出現することがあり、その割合が多い場合は、醪の色も薄くなり、製品の価値が低くなる。これらは、白戻り株と呼ばれ、アデニン要求性の復帰変異株、または抑圧変異株であると考えられる。今回、赤色清酒酵母のアデニン要求性の原因となる変異と白戻り株の遺伝的背景を調べるために、ADE1及びADE2遺伝子の解析を行ったので報告する。
【方法】協会で販売している赤色清酒酵母及びその白戻り株1株から抽出したゲノムDNAを鋳型として、PCR法によりADE1及びADE2遺伝子を増幅し、ダイレクトシーケンスにより塩基配列の決定を行った。得られた塩基配列は、きょうかい7号のゲノム配列と比較した。
【結果】赤色清酒酵母ではADE1に変異はなかった。しかし、ADE2の988番目のAがTへホモザイガスに変異していることが分かった。この変異のためにストップコドンが生じて、本来571アミノ酸であるAde2タンパク質が329アミノ酸となったため機能しなくなったと考えられる。一方、白戻り株では、ホモザイガスなADE2ᴬ⁹⁸⁸ ᵀ 変異に加えて、ヘテロザイガスなADE2ᴬ⁹⁸⁹ ᶜ 変異が見つかった。その結果、この白戻り株では、2本の染色体のうち1本はストップコドンのため機能していないが、もう1本ではストップコドンがさらに変異してセリンをコードするようになった結果、セリンの方が優性となってアデニン要求性を失ったのではないかと考えられる。
1)西谷、大内:醸協,80,17 (1985)
鹿児島大学農学部附属焼酎・発酵学教育研究センター 吉﨑由美子
【はじめに】
紅麹は,紅麹菌(Monascus sp.)より製造された麹であり,その機能性の高さから主に医薬分野で研究が展開されてきた.一方で紅麹は,古くから中国や台湾,沖縄において発酵食品製造に用いられているにも関わらず,食品としての研究はほとんど行われていなかった.我々は,日常の食事から紅麹を摂取することで,日本人の健康寿命延伸に貢献することを目的に,紅麹の食品に関する基礎研究を進めてきた.
【課題1:紅麹製造の難しさ】
紅麹菌は生育が遅く,製麹時に雑菌汚染を受けやすく,かつ麹に求められる酵素の生産能が低い.我々は,紅麹菌のα-amylaseの発現および酵素学的諸性質を解明することで35℃以上40℃以下の製麹条件が望ましいことを提案し,紅麹菌のα-amylase活性を10倍
上昇させることができた.また中国では製麹途中で加水を行う独自の製造工程がある.この加水の効果について調べた結果,色素生合成遺伝子の発現を上昇させて色素量を著しく亢進させることを明らかにした.紅麹色素には複数の機能性が報告されており,加水製麹が高品質紅麹製造に繋がるという重要な知見を得ることができた.
【課題2:紅麹焼酎の製造と風味】
紅麹で焼酎を製造すると白麹・黒麹製焼酎とは全く異なるチーズやミルキー様の特徴香が確認され,その寄与成分がイソ酪酸や2-ペンタノンであることを明らかにした.さらにこれら成分の生成機序について検討し,生成量のコントロールに関わる重要な知見を得た.一方で,紅麹焼酎製造の中でもろみ中の麹粒の硬さによる蒸留時アルコール回収率の低さという問題があった.そこでもろみ中にプロテアーゼ系または細胞壁分解系酵素製剤を添加することで,麹粒の硬さの低減とアルコール収得量の向上に成功し,紅麹焼酎の実用的製造の可能性を示した(特許取得).
【課題3:紅麹の健康効果】
紅麹そのものに抗肥満および糖代謝改善効果があることを確認し,糖代謝改善効果においてモナコリンKとモナシンが有効成分であることを示した.これにより焼酎粕の高付加価値化や,紅麹を用いた食品の開発に大きく貢献できる研究成果となった.
研究題目に関連する論文・著書
<学術論文>
1)Y.Yoshizaki et al.,J. Biosci. Bioeng.110,670-674(2010)
2)Y.Y.S.Rahayu,Y.Yoshizaki Y et al.,Food Chem.,224,398-406(2017)
3)吉﨑由美子ら, 日本醸造協会誌,113,265-272(2018)
4)Y.Yoshizaki et al.,PeerJ,DOI 10.7717/peerj.540(2014)
5)C.Zeng,Y.Yoshizaki et al.,J. Food Sci.,86,969-976(2021)
略歴
2007年 鹿児島大学農学部寄附講座焼酎学講座 特任助教
2011年 鹿児島大学農学部附属焼酎・発酵学教育研究センター 特任助教
2012年 鹿児島大学農学部附属焼酎・発酵学教育研究センター 助教
2015年 鹿児島大学農学部附属焼酎・発酵学教育研究センター 准教授
現在に至る
受賞歴
令和元年 日本農芸化学会西日本支部奨励賞(一般)
東北大学大学院農学研究科
五味 勝也
大学を定年退職し現在は寄附講座教員として引き続き研究指導に携わっているものの、国税庁醸造試験所で麴菌研究を始めてからかれこれ40年になることもあり、甚だおこがましいことではあるが、私の麴菌研究の歩みを振り返ることで今回の特別講演のご依頼に応えることとしたい。
1.麴菌の突然変異・細胞融合から遺伝子組換え系の開発へ
私の麴菌研究の始まりは、有用麴菌株の育種を目指した突然変異株や細胞融合株の取得に関してであった。大学時代にアオカビを扱っていたことがあるので、糸状菌を相手の研究は簡単なものではないと少しは頭で理解していたものの、有性世代がなく分生子も含めて多核細胞である麴菌を遺伝学的手法で扱うのは容易なことではなかったが、先達たちの研究成果を参考に突然変異株の取得法を習得し、細胞融合株の造成に必要なプロトプラスト調製法と再生法も確立することができた。しかし、麴菌の株が異なると細胞融合株が得られず(現在では不和合性によると考えられている)、得られた細胞融合株の遺伝学的解析も困難なことから満足のいく成果を出せたとは言いがたかった。そこで、麴菌のような古典遺伝学的研究が困難で育種も容易でない微生物にも適用できると考えられる遺伝子工学技術の導入を試みることとした。当時は糸状菌に属するアカパンカビやAspergillus nidulansにおける遺伝子組換えの報告が数報発表されたばかりであり、それらと研究成果が蓄積されていた酵母の系も参考にして遺伝子組換え系を開発することができた。その際に細胞融合の研究で培った技術が大いに役立ち、以前の研究で苦労した甲斐があったことは幸いであった。また、麴菌の遺伝子組換え系の開発が、以降のわが国の大学、公的機関、民間企業における麴菌の分子生物学研究の
隆盛と麴菌の全ゲノム解析につながったことは望外の喜びである。
2.麴菌の有用遺伝子の発現制御機構の解明
遺伝子組換え系を利用すれば、目的の遺伝子を導入または破壊することで高生産株や非生産株を効率的に造成できるだけでなく、遺伝子の発現制御機構の解析も可能となる。そこで、清酒製造において最も重要な役割を果たしているアミラーゼの遺伝子発現制御機構解析に着手した。その結果、アミラーゼのデンプンやマルトースによる誘導生産に必須の転写因子AmyRを見出した。また、マルトース輸送体MalP、マルターゼMalTおよびこれらの誘導生産に関わる転写因子MalRをコードするマルトース資化遺伝子クラスターを見出し、このクラスターがAmyRの転写活性化に必要であることを明らかにした。さらに清酒製造において最も重要なグルコアミラーゼの麴培養特異的な生産に関わる転写因子FlbCを発見し、麴菌におけるアミラーゼの生産制御機構をほぼ解明することができたものと考えている。一方、麴菌に近縁で焼酎製造に利用されている黒麴菌やモデル糸状菌A. nidulansでは麴菌とはやや異なるアミラーゼ生産制御機構を有するという知見も得られつつあり、生物が示す多様で興味深い生命現象の奥深さに感銘するとともに、麴菌研究の面白さを今一度強く実感している次第である。
略 歴
氏名:五味 勝也
【学歴・職歴】
1976年 東京大学農学部農芸化学科卒業
1978年 東京大学大学院農学系研究科農芸化学専攻修士課程修了
同 年 東京国税局鑑定官室 大蔵技官(国税庁醸造試験所併任)
1979年 関東信越国税局鑑定官室 大蔵技官
1982年 国税庁醸造試験所 研究員
1993年 生物系特定産業技術研究推進機構 融資課長
1995年 国税庁醸造研究所 主任研究員
1997年 広島大学大学院工学研究科 助教授(併任)
1998年 東北大学大学院農学研究科 教授
2019年 同上・寄附講座 教授
【主な受賞歴】
1987年 日本醸造協会 伊藤保平賞
2016年 バイオインダストリー協会賞
2018年 日本農芸化学会賞
2018年 日本生物工学会 生物工学論文賞
2021年 日本生物工学会 生物工学賞
【専門分野】
応用微生物学
○栗林喬 ¹、畠山明 ²、小熊哲哉 ¹、渡邉剛志 ¹、原崇 ³、城斗志夫 ³
(¹ 新潟食料農業大学、² 吉乃川株式会社、³ 新潟大学農学部)
【目的】清酒の品質において、香気成分はその品質を左右する重要な要因となる。清酒の品質向上に寄与する成分として、いわゆる吟醸香を構成するカプロン酸エチル、カプリル酸エチル、酢酸イソアミルなどの香気成分が知られている。近年、我々は、きょうかい901号より分離したセルレニン耐性株の中から、カプロン酸エチルの生産性向上を伴わず、カプリル酸エチルのみを高生産する変異株K901C8株を単離した。既に、脂肪酸合成酵素FAS2遺伝子のシーケンス解析の結果から、K901C8はFAS2遺伝子の1279番目のフェニルアラニンがチロシンに置換された変異(FAS2-F1279Y)が存在し、この変異によってカプリル酸の生成量が増大し、カプリル酸エチル高生産性が付与されることが明らかにされている。
そこで本研究では、K901C8の清酒製造における醸造特性の詳細な解析を行うと共に、K901C8より1倍体を取得し、カプロン酸エチル高生産性変異(FAS2-G1250S)を有する1倍体を接合させ、新規香気組成を有する清酒酵母の育種を行った。
【方法】きょうかい901号のセルレニン耐性変異株よりスクリーニングを行い、FAS2-G1250S変異を有するK901C6株を単離した。K901C6およびK901C8より、ランダムスポアー法を用いて1倍体を分離し、DNAシーケンスによって、FAS2遺伝子にそれぞれの変異を有する1倍体を選抜した。各変異の選抜株の接合型を判定した後、異なる接合型を持つ1倍体を接合させ、得られた交配株による清酒小仕込試験を行った。
【結果】本研究で造成されたFAS2-G1250S変異とFAS2-F1279Y変異をヘテロ型で有する接合株の総米200gにおける清酒小仕込試験の結果、各親株と比較して発酵経過に遅れはみられず、得られた製成酒の一般成分に大きな差は認められなかった。一方で、香気成分に関しては、両者の形質を併せ持った特徴的な香気組成を示した。
〇中山俊一、友永佳津子、森谷千星、田中純平、高瀬史織、鈴木健一朗、門倉利守(東農大・醸造科)
①目的
ビオチンとは脂肪酸合成などに関与するカルボキシル基転移酵素の補酵素として機能する生物にとって必須のビタミンである。Saccharomyces cerevisiaeの多くはビオチン生合成能がないが、日本の国酒酵母のほとんどがビオチン非要求性である。このことは日本の国酒醸造においてビオチン生合成能は何らかの重要な役割を果たしている可能性が高いことが予想される。ビオチン生合成に関わる7,8-diamino-pelargonic acid aminotransferaseをコードするBIO3遺伝子は染色体上に1コピーだけ有するため本遺伝子破壊によりビオチン要求性になることが期待される。そこで本研究では、清酒酵母におけるBIO3遺伝子破壊株を取得し、メタボローム解析と清酒の小仕込み試験によってビオチン生合成能が清酒酵母が生産する代謝物にどの様な影響を及ぼしているかを検討した。
②方法と結果
BIO3破壊株の親株には当研究室で取得したK7を親株とした一倍体株K7-H12株を用いた。これを親株としてTaKaRa社の出芽酵母用マーカー除去型ベクターpAUR135を用いてBIO3遺伝子内部にストップコドンを挿入することで遺伝子を破壊した。BIO3破壊株をビタミンフリー培地で培養したところ、本破壊株は期待通りビタミンフリー培地で増殖能を失った。これらの株についてグルコース10%を含むYM培地で増殖した後、メタボローム解析を行ったところ、細胞内の脂肪酸量が親株と比較して減少していた。また、総米1kgの小仕込み試験の結果、親株と比較しBIO3破壊株ではカプロン酸エチル生成量が低下していたことから、ビオチン生合成能はカプロン酸エチル生成に関与する可能性が示唆された。
〇藤原朋子 ¹,尾形智夫 ²,松浦敦子 ²、福田萌々花 ²,黒木克明 ²
(¹ 広島県立総合技術研究所食品工業技術センター,² 前橋工科大学生物工学科)
【目的】昨年度,本大会で,広島県内製造の味噌から分離した蔵つきの耐塩性酵母(Zygosaccharomyces sp.)32 株について,生育特性及び遺伝的特性を報告した ¹⁾。これら耐塩性酵母株の接合育種資源としての活用を目的に,接合性の評価を行った。
【方法】接合性は,接合性既知株(α:NBRC1876 株,а: NBRC1877 株)との共培養による,接合に伴う細胞融合に必要な接合突起を形成した細胞であるシュムー形成を指標として評価した。醤油麹抽出液を用いた接合条件の報告 ²⁾を参考に,醤油麹を使用せず,接合性既知株においてシュムー形成が高頻度でみられる条件を検討し,その後 32 株について接合性の評価を行った。
【結果】接合性評価の共培養条件として,酵母エキス0.1%,ポリペプトン 0.2%,グルコース 5%,NaCl 5%,Agar 2%のプレート(pH5.0)上で2株の菌体を混合し,25°Cで3~5日間培養することと決定した。
Zygosaccharomyces rouxiiの基準株グループと推定され一倍体であった5 株では,2株が接合性を示し,3株は接合性を確認できなかった。
基準株グループと近縁種との自然交雑体であるハイブリッドグループと推定された27株は全て接合性を示した。Zygosaccharomyces sp.の接合遺伝子と推定される部分のPCR ³⁾⁴⁾産物長からみた接合型と,シュムー形成による接合性判定結果は完全に一致した。
本研究は,公益財団法人高木俊介パン科学技術振興財団2020年度研究助成を受けて行った。
1) 藤原朋子他 令和 2 年度日本醸造学会大会 講演 No.29
2) H. Mori and H. Onishi : Appl. Microbiol, 15, 928-934(1967)
3) T. Ogata et al. : J. Gen. Appl. Microbiol, 64,127-135 (2018)
4) J. Watanabe et al. : Appl. Environ. Microbiol, 83,e01187-17 (2017)
〇尾形智夫 ¹、松浦敦子 ¹、福田萌々花 ¹、黒木克明 ¹、藤原朋子 ²
(¹ 前橋工科大学生物工学科、² 広島県立総合技術研究所食品工業技術センター)
【目的】高品質な味噌醤油製造に貢献することを目的として、味噌醤油酵母の接合育種に取り組んでいる ¹⁾。昨年度、本大会で広島県内で製造された味噌から蔵つき酵母を分離したことを報告した ²⁾。今回、これらの酵母の接合性と接合遺伝子座について解析したので報告する。
【方法】接合性は、栄養要求性と薬剤耐性の相補性で、接合性遺伝子座の解析は、味噌醤油酵母Zygosaccharomyces sp.の接合性に関与すると報告されている遺伝子座 ³⁾をPCR増幅させ、DNA塩基配列を解析した。
【結果】蔵つき酵母6株のうち、5株は、Zygosaccharomyces rouxiiのゲノム配列(T-typeゲノム)と、類縁菌のゲノム配列(P-typeゲノム)を有する自然交雑体Zygosaccharomyces sp.であると推察された。1株は、Z. rouxiiであると推察された。5株の自然交雑体Zygosaccharomyces sp.のうち、3株は接合性aを示し、2株は接合性αを示した。一方、Z. rouxiiと推定される1株は、接合性を確認できなかった。
真菌類の接合性を示す遺伝子座は、DIC1遺伝子とSLA2遺伝子に挟まれた遺伝子座であることが多い。味噌から分離された自然交雑体Zygosaccharomyces sp.NBRC1876も同様であった ³⁾。蔵つき酵母の5株の自然交雑体Zygosaccharomyces sp.で、この接合遺伝子座のDNA塩基配列を決定したところ、接合性aを示した3株は、Ya配列が挿入されており、接合性αを示した2株は、Yα配列が挿入されていた。したがって、接合性の発現と、接合遺伝子座と想定される領域に挿入されているDNA配列は、一致していた。
1) Ogata, T. et al.Yeast doi.org/10.1002/yea.3561
2) 藤原朋子他 令和2年度日本醸造学会大会 講演No.29
3) Watanabe, J. et al. Appl. Envioronm. Microbiol.Vol.83, e01187-17 (2017)
〇上原健二(秋田県総合食品研究センター)
【目的】
味噌・醤油には、甘味増強効果、抗腫瘍活性など様々な機能性を有するフラノン化合物4-Hydroxy-2 (or 5)-Ethyl-5 (or 2)-Methyl-3(2H)-Furanone(以下、HEMF)が含まれており、その生成は主に酵母が担っている。したがって、味噌・醤油中のHEMF含量をさらに高めるには、HEMF高生産酵母の利用が最も効果的である。一方、酵母におけるHEMF生成経路については、関与する前駆体やHEMF生合成の一部を担っている酵素遺伝子が同定されているものの ¹⁾、さらなる未知の酵素遺伝子の関与が示唆されている。そこで本研究では、HEMF生成経路の全容解明を最終目標に、HEMF生成条件下における酵母遺伝子発現プロファイリング解析を行い、HEMF生成関連遺伝子の同定を試みた。
【方法】
実験室酵母Saccharomyces cerevisiaeBY4743をHEMF生成培地にて培養後、total RNAを抽出し、RNA-seq解析に供した。対照として、HEMF非生成条件で培養した同酵母を用い、同様の解析を行った。
【結果】
対照に比べて発現量が変動した遺伝子(Fold change =2)を抽出したところ、HEMF生成条件下で発現が誘導される遺伝子が97個、抑制される遺伝子が38個見出された。発現誘導された遺伝子について、①Gene Onthology解析結果、②既知のHEMF生合成遺伝子情報、③推定されているHEMF生成経路、の3つの情報を基にさらに15の候補遺伝子を抽出した。これら候補遺伝子の高発現ベクターを構築し、酵母における高発現がHEMF生成能に与える影響を調べた結果、予想とは反して生成能が半減する遺伝子が見出された。この要因については、現在解析を進めている。
1) Uehara et al., JBB, 123(3), 333-341(2017)
○趙喆 ¹, 杉町美奈 ², 吉﨑由美子 ¹ ³, 印璇 ³, 韓興林 ⁴, 奥津果優 ³, 二神泰基 ¹ ³, 玉置尚徳 ¹ ³, 髙峯和則 ¹ ³
(¹ 鹿児島大学大学院連合農学研究科,² 鹿児島大学大学院農学研究科,³ 鹿児島大学農学部附属焼酎・発酵学教育研究センター,⁴ 中国食品産業発酵研究所)
【目的】中国の伝統的蒸留酒である小曲米酒には、発酵前に固体状態で糖化する特徴的な固体糖化工程がある。これまでに固体糖化工程においてRhizopus oryzaeの増殖とそれによる酵素と乳酸の多量生成が起きることが明らかになっており、固体糖化が日本の製麹に類似した工程であることが分かっている。本研究では、固体糖化工程が小曲米酒の酒質に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】固体糖化工程有りまたは無しの条件で小曲米酒を製造した。小曲米酒はアルコール度数25%に調整し、分析に用いた。もろみ分析は国税庁所定分析法に準じて行なった。乳酸、酢酸および酪酸量はHPLCにより定量した。官能評価は、訓練を受けた研究室の18名 (男性7名、女性11名)で行なった。揮発成分はGC-MSにより測定・定量した。
【結果】アルコール発酵は、固体糖化を行うことで迅速に進行した。固体糖化なしでは約2倍の時間を要し、緩やかに進行したが最終的にはほぼ同程度まで到達した。仕込み即下のもろみの乳酸量は、固体糖化有りの方で固体糖化無しの方より約240倍高く、固体糖化によって生成した大量の乳酸がもろみに持ち込まれていることが確認された。官能評価の結果から固体糖化有りで製造した小曲米酒(固体糖化有り小曲米酒)は、甘香やアルコール臭が高く、固体糖化無しで製造した小曲米酒(固体糖化無し小曲米酒)はチーズ様の評価が高かった。GC-MSおよびHPLCの結果から、固体糖化有り小曲米酒には,特徴成分である乳酸エチル(果実香)およびβ-フェネチルアルコール(バラ様香)が多く,固体糖化無しでは酪酸(チーズ様香)が多く,これら成分が官能に影響することが確認された。
これらの結果から、固体糖化は小曲米酒の特徴的な香気成分の生成に寄与していることが強く示唆された。
○清水秀明、鎌田綾、小山和哉、岩下和裕、後藤奈美
(酒類総合研究所)
【目的】国内新規ワイナリーの増加とともに、近年亜硫酸や市販ワイン酵母使用しないワイン製造(いわゆる自然発酵、以下「spontaneous」)が増えている。製成したワインが複雑な香味になる場合もあるが、品質の不安定さも指摘されている。そこで、現代の解析技術を用いてアルコール発酵がどのような微生物菌叢で進むかを解析するとともに、製成ワインの品質について官能評価で検証を行った。
【方法】酒類総合研究所の隣接圃場で2020年に収穫された‘ピノ・ノワール’、‘リースリング’、‘甲州’、‘甲州三尺’の4種類のブドウ品種を用いて、spontaneous醪をサンプリング、ITS1遺伝子領域を対象としたアンプリコンシークエンスを行い糸状菌、キノコ、担子菌酵母、子嚢菌酵母を含めたfungi菌叢の解析、定量PCRによる全fungi数、全乳酸菌及び酢酸菌Acetobacter acetiの菌数の測定を行うとともに、製成ワインの官能評価を行った。なお、各品種n=3で試験を実施するとともに、同一原料で亜硫酸及び市販ワイン酵母を添加し製造したワインをn=3で製造しコントロールとして比較した。
【結果】spontaneous 12点の内、11点でアルコール発酵が 起 こ っ た が 、fungi菌叢を 解 析 し た と こ ろ 、Saccharomyces cerevisiaeが優勢になったのは7点であり、それ以外はSchizosaccharomyces japonicus、Lachancea dasiensis、Hanseniaspora valbyensisが優勢となった。また、アルコール1%で停止した醪を定量PCRで解析した結果、酵母菌数が1.2×107であるのに対して、乳酸菌数は3.0×109であった。官能評価の結果、spontaneousワインは「複雑さ」のスコアは高いものの、「品種特性」「バランス」「クリーン」は低く、オフフレーバーの強度も高かった。今回製造したワインは、使用する器具を殺菌して醸造しており、概ねブドウ由来の微生物によって発酵したワインと考えているが、当該方法によるワイン製造のリスクの高さとともに特徴を把握することができた。
吉田雅偲、古谷 昇、今井芙月、三木健夫*、○井沢真吾
(京都工芸繊維大学・応用生物、*山梨大学・環境生命)
【目的】高濃度エタノールストレス(10% v/v)は、熱ショックと同様に酵母のタンパク質変性を引き起こし、細胞内に不溶性タンパク質を蓄積させる(Kato et al., FEMS Yeast Res., 2019)。ストレスによって増えた変性タンパク質は、毒性の拡散を防ぐためにINQ/JUNQなどのdeposition sitesに凝集・隔離される。さらに、Hsp104やHsp70などからなるバイシャペロンシステムによって解きほぐされ、効率的に分解・再生される。そのため、高濃度エタノールストレスで処理した細胞では、Hsp104-GFPなどのgranule形成が観察される。最近我々は、低濃度エタノール(6%)による前処理が酵母のタンパク質品質管理(PQC)能力を活性化し、高濃度エタノールストレス下でのタンパク質変性を抑制する事を報告した(Yoshida et al., Appl. Environ. Microbiol., 2021)。本研究では、徐々にエタノール濃度が上昇する醸造過程においても、同様の適応誘導が見られるか検証した。
【方法】合成ブドウ果汁培地ISA-SGM (Instituto Superior de Agronomia-Synthetic Grape Must) (Viana et al., AMB express, 2014)とワイン酵母EC1118株、OC-2株、OC-2株のURA3遺伝子破壊株であるOCM-2株(三木ら,日本醸造協会誌, 2013)を用いて醸造試験を行った。OCM-2株にはゲノム組込み型プラスミドを使いHSP104-GFPなどを導入した。
【結果】15 ̊Cで醸造試験を行ったところ、エタノール濃度が17%を超えた段階でさえ、不溶性タンパク質の蓄積はほとんど認められなかった。一方、醸造過程終盤の培地を回収し、「培地ストレス」として実験室条件で培養したワイン酵母に与えた場合には、不溶性タンパク質の蓄積が誘導される事や、こうした不溶性タンパク質の蓄積は6%エタノールに予め馴致させることで抑制される事を確認した。以上の結果から、ワイン酵母は醸造過程でPQC能力が向上し、タンパク質変性を防いだと考えられた。
〇喜屋武 大誠、橘 信二郎(琉球大・農)
紅麹菌(Monascus属)は、赤色色素をつくる食用糸状菌として東アジアや沖縄において発酵食品の製造に使われている。近年、天然着色料に対する需要が高まり、紅麹色素が注目されている。一方、沖縄県では基幹産業の泡盛醸造において蒸留粕の有効利用が長らく求められている。当研究室では、泡盛蒸留粕を培養基質として利用した紅麹菌の色素高産生株スクリーニングを行い、赤色色素の高産生株を見出した。本研究では、選抜した菌株を用いて、色素産生および菌体生育に及ぼす泡盛蒸留粕の影響について調べた。
供試菌株としてM. purpureus B-3-1-1株を用いた。菌株の継代はPDA培地を用いて30°C、10日間静置培養した。泡盛蒸留粕は遠心分離で液部と固形部に分け、液部(上清)を培養基質として用いた。対照培地にPD(ポテト・デキストロース)およびPDY(PD+酵母エキス)液体培地を用いた。バッフル付三角フラスコを用いて30°C、200 rpmで旋回培養した。培養液をろ過して培養液中の色素産生量(400 nmおよび500 nmの吸光値)および菌体生育 (乾燥菌体量)を測定した。また、蒸留粕はクエン酸の他、アミノ酸が豊富に含まれていることから、対照培地に各種アミノ酸を添加してその影響を調べた。
泡盛蒸留粕培地を用いた結果、紅麹色素産生量と菌体生育でともに対照培地よりも顕著な増大を示した。また、対照培地では弱酸性から中性付近において色素産生が旺盛だったのに対し、泡盛蒸留粕培地では幅広いpH範囲で対照培地の数十倍の色素産生量を示した。PDY対照培地に各種アミノ酸を添加して培養したところ、特定のアミノ酸添加により色素産生量が劇的に増大した。以上の結果から、泡盛蒸留粕は紅麹色素産生に有用な培養基質として利用できることが分かった。
○井上太雅 ¹、山口正晃 ¹、門岡千尋 ²、奥津果優 ¹、吉﨑由美子 ¹、髙峯和則 ¹、後藤正利 ³、玉置尚徳 ¹、二神泰基 ¹
(¹ 鹿児島大学大学院農林水産学研究科、² 崇城大学生物生命学部、³ 佐賀大学農学部生物資源科学科)
【目的】白麹菌Aspergillus luchuensis mut. kawachiiは分泌型のα-アミラーゼとして、非耐酸性α-アミラーゼ(AmyA)と耐酸性α-アミラーゼ(AsaA)を生産する。加えて、白麹菌のゲノムにはもう1つ分泌型のα-アミラーゼをコードすると推定されるamyB遺伝子が存在する。本研究では白麹菌のAmyBの機能を明らかにすることを目的とした。
【方法】白麹菌においてamyB破壊株(ΔamyB)、amyAとasaAの二重破壊株(ΔamyAΔasaA)、amyA、asaA、amyBの三重破壊株(ΔamyAΔasaAΔamyB)、およびΔamyAΔasaA株においてamyAプロモーターの制御下でamyBを発現する株(ΔamyAΔasaAPamyA–amyB株)を構築した。これらの菌株のα-アミラーゼ活性を測定した。ΔamyAΔasaAPamyA–amyB株におけるamyBの高発現をリアルタイムRT-PCRで確認した。また、amyBのcoding DNAsequenceをRNA-seqのマッピングデータで確認した。
【結果】まず、白麹菌のΔamyB株に、顕著なα-アミラーゼ活性の低下は見られなかった。しかし、ΔamyAΔasaAΔamyB株の培養上清におけるα-アミラーゼ活性は、ΔamyAΔasaA株のα-アミラーゼ活性よりも低下した。この結果から、AmyBは白麹菌が分泌生産するα-アミラーゼの総活性にわずかに寄与していることが示唆された。次に、ΔamyAΔasaAPamyA–amyB株の培養上清からAmyBの精製を試みたが、困難であった。そこで、amyBのcoding DNA sequenceをRNA-seqのマッピングデータで確認したところ、イントロン予測に誤りがあり、AmyBのC末端側にGPIアンカーが付加すると予測されるアミノ酸配列が存在することが明らかになった。そこで、 ΔamyAΔasaAPamyA–amyB株の菌体から細胞膜画分を調製してα-アミラーゼ活性を測定したところ、ΔamyAΔasaA株と比較して26倍以上の高い活性を示し、AmyBがGPIアンカーにより細胞膜に局在している可能性が示唆された。
〇塚原正俊 ¹・東春奈 ¹・久貝樹幹 ¹・渡久地洋平 ²・外山博英 ³
(¹ バイオジェット、² 神村酒造、³ 琉球大・農)
【目的】沖縄県の伝統的酒類である泡盛は日本で最古の蒸留酒であり、泡盛風味のバラエティー化を目指した技術確立は重要な課題である。現在、商業醸造に利用できる泡盛黒麹菌は数株に限定されており、黒麹菌株の拡充は泡盛全体の酒質の幅を広げる重要な研究開発の一つと考えられる。黒麹菌は、Aspergillus luchuensisとして再分類されたことで(Yamadaら, 2011)、黒麹菌株の詳細な系統解析の環境が整っている。我々は、風味のバラエティー化につながる新たな泡盛黒麹菌株の確立を目指し、A. luchuensis種内の系統関係を詳細に評価することで、従来の泡盛黒麹菌株とは異なる株を選抜し、新たな泡盛黒麹菌株としての可能性を評価した。
【方法・結果】黒麹菌株の試料として、商業的な泡盛醸造に用いられている株、沖縄県内から採取された株、寄託菌株など、約約60株を対象とした。常法により全ゲノム情報を取得し、A. luchuensis NBRC4314株をリファレンスとしてマッピングし、得られたSNVを用いて詳細な系統解析を行った。その結果、A. luchuensisは大きく2グループ(AおよびSK)に分けられるとともに、これらのいずれにも含まれないいくつかの株があることがわかった。この系統解析の結果から、従来の泡盛黒麹菌と系統的に離れている複数の株を選抜した。さらに、それぞれの株を用いて実験室規模での小仕込み試験を行い、CBS125.52株を候補株として選抜した。当該株を用いて、実機での製麹試験、および小規模実機試製を行った。得られた泡盛について、成分分析、および官能評価を行った結果、当該株に特徴的な香ばしさや甘さ、弱い苦みなど従来の商用株とは異なる風味特製を有することがわかった。
以上の取り組みにより、全ゲノム情報による詳細な系統解析技術を用いて、新たな風味の泡盛醸造につながる商用黒麹菌の候補株を選抜することができた。
○宍倉 竜樹、浅井 拓也、窪寺 隆文、広畑 修二
(白鶴酒造株式会社)
【目的】
清酒飲酒後の呼気には特有の匂いがあり、呼気中で増加する成分の一つに 2,4,5-Trimethyl-1,3-dioxolane (TD)が知られている¹⁾。TD は清酒中からは検出できないので、飲酒後体内で生成されると考えられるが、その機構は不明であった。我々は TD の前駆体候補として2,3-Butanediol(2,3-BD) と Acetaldehyde(Ach)に着目し、清酒中の 2,3-BD を低減することで飲酒後呼気の TD発生を抑え、ひいては飲酒後呼気臭を低減できるとの仮説を立てた。本研究では 2,3-BD 低含有酒の製造及びそれを用いた飲酒試験により、仮説の検証を行った。
【方法】
酵母野生株と 2,3-BD 非生産株(⊿bdh1 株)を使用して小仕込み試験を行い、小仕込み酒の Ach、Diacetyl、 Acetoin、2,3-BD 濃度を測定した。次に小仕込み酒と焼酎を用いて被験者 3 名を対象に飲酒試験を行い、飲酒前後の呼気を採取し、GC/MS により呼気中の TD 濃度を測定した。
【結果】
野生株と⊿bdh1株の小仕込み酒中の 2,3-BD 濃度はそれぞれ、264、0 ppm であった。飲酒 2 時間後の呼気中の TD濃度は、野生株では飲酒前と比べて約 9.4 倍に増加していたが、⊿bdh1 株と焼酎では、飲酒前後で顕著な差は認められなかった。また、被験者の ALDH2 遺伝子型で TD の発生量に差が見られ、Ach の代謝能力が高い遺伝子型を持つ被験者で、TD の発生量が少なかった。
以上のことから、清酒中の 2,3-BD を低減することで、飲酒後呼気の TD 発生抑制を確認した。また、TD は、清酒由来の 2,3-BD と、体内の Ethanol 代謝で発生した Ach が脱水縮合し生成したものと推察した。
1)根来ら、醸造協会誌, 111, 694-700(2016)
○藤原久志、和田潤*、鈴木健一朗**、若井芳則(黄桜株式会社、*地方独立行政法人京都市産業技術研究所、
**独立行政法人製品評価技術基盤機構[NITE](現東京農大))
①目的 我々は自社の山廃酒母から桿状乳酸菌LP-2株(Lactobacillus plantarum)を取得し、それを用いて山廃酒母および醪を安定的に醸造できることを報告している。本研究では、LP-2株を含む桿状乳酸菌24株を用いて、桿状乳酸菌の菌株の違いが山廃酒母経過および山廃仕込清酒におよぼす影響を検討した。
②方法 桿状乳酸菌LP-2株と自社取得桿状乳酸菌LS-4株(L. sakei)、NITE所有桿状乳酸菌(NBRC株)22株の諸性質を比較した。その後、自社保有の硝酸還元菌Pseudomonas61-02株と球状乳酸菌LM-1株(Leuco. mesenteroides)、自社清酒酵母KZ-06Uを用いて、総米250gで小規模山廃酒母製造試験を実施した。酒母中の酸度、グルコース、亜硝酸、乳酸、微生物菌数を経時的に測定した。また、製造した山廃酒母を用いて総米170gで小規模清酒製造試験を行い、製成酒の成分分析と官能評価を実施した。
③結果 培養試験により桿状乳酸菌の諸性質を比較すると、種による差が認められ、L. plantarum8株はL. sakei4株と比較して、乳酸生成能が高く、アルコール耐性が高いという傾向があり、L. delbrueckiiNBRC13953とL. senmaizukeiNBRC103853は、5%エタノール存在下で生育することが出来なかった。山廃酒母製造試験の結果、亜硝酸の増減と酸度の増加は大きく3パターンに分類され、L. plantarumは亜硝酸の消失が早く、酒母使用時の酸度が高いという傾向があり、L. sakeiでは、L. sakei NBRC15893のみ酒母使用時の酸度がL. palanatrumと同程度になったが、それ以外は自社取得乳酸菌LS-4も含めて、L. plantarumよりも低くなった。また、桿状乳酸菌の菌株の違いにより、山廃仕込清酒の酒質も変化した。本研究は、平成25年度戦略的基盤技術高度化支援事業「世界市場を開拓するSake・大吟醸生産システムの革新」の成果の一部である。
○柴田裕介 ¹、砂田啓輔 ¹、高橋俊成 ¹、森本朋子 ²、金井宗良 ²、藤井力 ³、赤尾健 ²、五島徹也 ²、磯谷敦子 ²、
山田翼 ¹(¹菊正宗酒造・総合研究所、²酒類総合研究所、³福島大学)
【目的】「老香」は日本酒の貯蔵中に生成されるオフフレーバーの一種であり、その主成分であるジメチルトリスルフィド(DMTS)の生成には酵母のメチオニン再生経路の関与が示唆されている。一方、協会系酵母と系統の異なる清酒酵母であるKm67株を用いた製成酒の貯蔵によるDMTS生成量は協会系酵母を用いたものに比べて低いことが明らかになっているが、その詳細は明らかになっていない。また、Km67株は葉酸を高蓄積し、S-アデノシルメチオニン(SAM)を蓄積しないという特徴を有している。そこで、Km67株のメチオニン代謝系の特徴に着目しながら、Km67株の清酒において、老香が発生しにくい機構の解明を本研究の目的とした。
【方法および結果】Km67株と協会701号酵母(K701株)の清酒小仕込試験を行い、経時的にサンプリングした醪上清中のDMTS生成ポテンシャル(DMTS-PP)を測定した。その結果、留17日目のK701株のサンプルで高いDMTS-PPを示したのに対し、Km67株のサンプルでは、その1/10程度のDMTS-PPであった。このことから、Km67株を用いた清酒では、K701株を用いたものと比べて、老香が発生しにくいということが確認された。また、酵母のメチオニン再生経路関連遺伝子であるMDE1、MRI1が老香の発生に深く関わっているとの報告があることから、醪中の酵母菌体からRNAを抽出し、これらの遺伝子の発現量を比較した。その結果、Km67株とK701株間で遺伝子発現量に差が見られなかったことから、DMTS-PPの差はこれらの遺伝子の発現量の差によるものではないと考えられた。次に、メチオニン再生経路の中間代謝物であるSAMを添加したKm67株の清酒小仕込試験を行い、得られた清酒のDMTS-PPを測定したところ、SAM非添加の清酒と比較して、3~4倍程度高いDMTS-PPを示した。このことから、SAMがDMTS生成に関与していると考えられた。
〇五島徹也、周 延、小林めぐみ、赤尾 健(酒類総研)
【目的】現代の清酒醸造用には日本醸造協会から頒布される酵母(きょうかい酵母)が使用されることが多いが、当研究所の解析により、これらの酵母は遺伝的にはアルコール耐性が低いことが明らかとなっている。清酒醸造中の酵母は高エタノール濃度や低温、酸性等のストレス環境下におかれており、清酒醪中での酵母の死滅は、細胞内物質の漏出により酒質に多大な悪影響を及ぼす。その対策の一つとして、エタノール耐性清酒酵母が育種され、実用化されてきた。当研究室でもこれまでに、きょうかい6号(K6)から高アルコール耐性株(K6AT)を独自に分離し、比較ゲノム解析等の遺伝的解析から、K6AT型のCDC55遺伝子座が高ストレス耐性の原因変異であり、本遺伝子がアルコール耐性へ影響を及ぼすことを示している(五島ら、農芸化学会2020年度大会)。本研究では、アルコール耐性株の機構解明を目的に、当該菌株のアルコール耐性化における当遺伝子変異の影響を調査した。
【方法及び結果】K6ATのCDC55遺伝子には複数の一塩基多型(SNP)が生じていたため、それぞれのSNPについて部位特異的変異導入を行い、急性ストレス試験や小仕込み試験等の詳細な調査を行った。その結果、K6ATにおける高ストレス耐性は本遺伝子の139番目塩基のSNP[G/C]のホモ接合化[C/C]のみにより、もたらされていることが明らかとなった。さらに、遺伝子産物の機能が一部欠損していることが知られている菌株のアリルを変化させた場合にストレス耐性が変動することや、独自に単離している他のアルコール順応株においてもCDC55に変異が生じた菌株が存在していた。つまり、本遺伝子はストレス耐性株育種の新たな標的となる可能性が示唆された。また、多くのきょうかい系酵母は、CDC55遺伝子上に非同義なヘテロ接合型の遺伝子多型が生じていることは興味深い点であり(Goshima et al, BBB, 2016;Watanabe et al, AEM, 2018)、清酒酵母の高発酵性とストレス耐性との関連性を紐解く上で重要な鍵となる遺伝子であると考えている。
〇松尾 啓史¹,長谷川 哲哉¹,塩谷 瑞紀¹,大谷 里菜¹,木崎 健斗²,中谷 未侑²,倉田 淳志²,上垣 浩一²
(¹ 近大院農、² 近大農)
【目的】酵母:Saccharomyces cerevisiaeは株ごとにアルコール産生能や芳香産生能力などの特徴が異なっている。我々は既存の醸造用酵母とは異なった新たな特色を持つ酵母を得ることを目標に、近畿大学農学部キャンパスの花々から酵母のスクリーニングを行っている。スクリーニングによって得られた分離酵母の遺伝子的な情報から分子系統樹を作成するとともに、清酒小仕込み試験を行い香気成分・有機酸・アルコール濃度といった発酵特性の点からも分類を行った。
【方法】分離酵母の分子系統樹は12遺伝子座のマイクロサテライトを含む領域をマルチプレックスPCRにより増幅し、PCR産物のフラグメントサイズから近隣結合法により作製した。さらに分離酵母株に対して清酒小仕込み試験・香気成分分析を行い、PCA(主成分)分析により分離酵母をグループ分けし、分子系統樹でのグループと構成株の比較をおこなった。
【結果】マイクロサテライトによる分子系統樹では、分離酵母は独自のグループや“きょうかい酵母”と同じグループに属するものなど大きく4つのグループに分類することができた。さらに、清酒小仕込み試験の香気成分・有機酸及びアルコール濃度の分析結果に基づきPCA分析を行った所、やはり4つのグループに分類することができ、各グループを形成する酵母株は分子系統樹におけるグループ構成株とよく一致している事が判った。
〇西村明、森田史香、棚橋亮弥、高木博史
奈良先端大・バイオ
①目的
酵母Saccharomyces cerevisiaeはワインなどの醸造に用いられ、酵母による原料の資化が酒類の味や風味を決める大きな要因となっている。プロリンはワインの原料であるブドウ中に最も豊富に含まれるアミノ酸であるが、発酵中の酵母はプロリンをほとんど資化することができず、発酵後も多量に残存することが知られている。残存したプロリンは苦味の増加や酸味の減少を引き起こし、最終製品であるワインの酒質を低下させると考えられている。本研究は、発酵環境下においてプロリンを効率良く資化できる菌株の創製を目的とし、プロリン資化抑制に関わる因子の同定とその作用機序の解析を行った。
②方法
プロリン資化能を酵母の生育によって評価するために、プロリン要求性株の構築を行った構築したプロリン要求株を用いて、様々な窒素源を含む培地において生育試験を行い、資化抑制因子の探索を行った。さらに、同定した阻害因子がプロリントランスポーターの細胞内局在に与える影響を観察した。
③結果
プロリン要求性株の表現型を利用してプロリン資化抑制因子を探索した結果、アルギニンが抑制因子であることを見出した。さらに、アルギニンはユビキチンリガーゼRsp5とそのアダプタータンパク質であるArt3依存的にプロリントランスポーターPut4のエンドサイトーシスを誘導し、プロリンの取込みを阻害することが判明した。今後、実験室酵母で得られた知見をもとにワイン酵母を育種することで、プロリン含量の低いワインの製造に繋がり、酒質の差別化が可能であると考えている。
株式会社サタケ 技術本部 川上晃司
先行技術本部 重道五二
プラント事業本部 新山伸昭
【はじめに】
精米は、麹菌や酵母の過度な生育を防ぎ、製成酒の香味、色沢を向上させるために、玄米表層部のタンパク質、脂質、ミネラルの除去を目的とする。脂質、ミネラルは、玄米表層に多いので精米初期に大部分を除去できる。一方、タンパク質は胚乳内部まで存在し、精米による減少が緩やかなので、高精白にすることで含有量を少しでも減少させている。
そこで、アブレイシブロールにcBNロールを採用し、効率的にタンパク質を低減できる扁平精米が可能か検討した。
【中生新千本での試験】
飯米の中生新千本を使用し、醸造精米機(EDB15A)で、扁平精米にはcBNロール(#80)、球形精米にはGCロール(#60)を用い、精米歩合40%まで精米した。
精米時間は扁平精米で38時間50分、球形精米で30時間14分であった。
粗タンパク質は、扁平精米では精米歩合60%で3.6%と球形精米の精米歩合40%の3.8%より低くなった。扁平精米の精米歩合60%の精米時間は12時間7分であり、タンパク質の効率的な低減を目的とした場合、扁平精米は球形精米より60%の時間短縮ができた。
【八反錦1号での試験】
原料米を八反錦1号に変え、EDB15Aで、扁平(cBN#80)、原形(cBN#60)、球形(GC#60)に精米歩合50%まで精米した。
精米時間は扁平精米で19時間31分、原形精米で21時間11分、球形精米で16時間12分であった。
眼状心白の影響で、扁平精米では精米歩合60%から50%で砕粒が6.8%から18.1%と大幅に増加した。原形精米と球形精米では、精米歩合60%と50%の砕粒に大きな差は認められなかった。
粗タンパク質は、扁平精米では精米歩合60%で3.7%、50%で3.3%、球形精米では精米歩合60%で4.2%、50%で3.9%になった。なお、原形精米は精米歩合60%で3.8%、50%で3.2%と扁平精米と同等になった。
【おわりに】
品種、心白の有無・大きさ、精米歩合に応じて、扁平あるいは原形精米を選択することで、残存胚芽および砕粒発生が問題なく、効率的にタンパク質が低減可能となり、より高品質な酒造りに貢献できると考えている。
略 歴
氏名:川上晃司
<現所属>株式会社サタケ 技術本部 穀物加工グループ
<生年(西暦)>1971年
<略歴>1996年 九州工業大学大学院工学研究科物質工学専攻 博士前期課程修了
1996年 株式会社佐竹製作所(現在の株式会社サタケ)に入社
2011年 鳥取大学大学院工学研究科化学・生物応用工学専攻 博士後期課程修了
現在に至る
<抱負>扁平精米で醸された酒を全国に普及したい
氏名:重道五二
<現所属>株式会社サタケ 先行技術本部 方法研究室
<生年(西暦)>1970年
<略歴>
1994年 芝浦工業大学工学部金属工学科 卒業
1996年 芝浦工業大学大学院工学研究科金属工学専攻 修了
1996年 株式会社サタケ 入社
2009年 佐竹機械有限公司(中国) 出向
2012年 株式会社東北佐竹製作所 出向
2015年 株式会社サタケ 技術本部 新規技術開発室 室長
2020年 株式会社サタケ 先行技術本部 方法研究室 室長、現在に至る
<抱負>精米に最適な砥石を追求し、醸造分野の発展に貢献する
氏名:新山伸昭
<現所属>株式会社サタケ プラント事業本部 プラント営業部
<生年(西暦)>1964年
<略歴>1986年福山大学工学部建築学科卒
1986年株式会社佐竹製作所入社
<抱負>日本酒の素晴らしさを世界に広めたい
独立行政法人酒類総合研究所 岸本 徹
受賞対象となった内容は,日本醸造協会誌(令和3年4月)の解説記事に掲載された内容である.
食品や飲料の香りに関する多くの研究のおいては,特徴への寄与度が高い成分(閾値以上の濃度で含有される成分),またはその分析のし易さから高濃度で存在する香気成分に着目されて来てた.しかしこれまでのビールの香りの研究においては,「これぞビールの香りの正体」という香気成分は見出されて来なかった.そこで著者はビール中に閾値以下濃度で含まれる香気成分群の寄与に着目した.
著者らは,匂い嗅ぎGC分析により検出した総計76香気成分について,あらゆる分析手法を駆使して正確に定量し(ppm ~ pptに及ぶ),正確な濃度の76香気成分を組み合わせてビール香気の再構築試験を行ってきた.再構築液の完成度を評価することにより,それぞれの香気成分の寄与を考察した.
再構築試験の結果,①ほとんどの香気成分は単独でビールの特徴には寄与しておらず,76成分中わずか9成分のみが閾値以上の濃度で存在していること,②高濃度で含まれる少数の物質だけではビールの香りを全く説明できないこと,③閾値以上,以下の微量成分に至るまでの,多種の香気成分の複合的,相乗的な寄与がビールの香りの骨格を構成し,特に閾値以下濃度の香気の寄与が大切であること,を報告している.
大多数の「単独では特徴に寄与し得ない成分」の相乗的な寄与が,ビールの香りの構造とおいしさに寄与しているという著者の知見は,ビールのみならず,あらゆる食品の香味制御技術においても有用な知見となり得る.
<関連文献,解説>
(1)岸本徹,ビールの香りを支える閾値以下濃度の香気成分群,日本醸造協会誌,116(4),198-203,2021
(2)岸本徹,ビールの香り:その‘構造’を解き明かす~ 76成分によるビール香気の再構築~,化学と生物,56(10),659-664,2018
(3)Kishimoto,T.et.al,Simulation of Pilsner-type beer aroma using 76 odor-active compounds,J.Biosci.Bioeng. 126(3)330-338,2018.
略 歴
氏名:岸本 徹
<現所属>独立行政法人酒類総合研究所 品質・評価研究部門
<略歴>
2019年より:独立行政法人 酒類総合研究所
2012年:日本醸造学会 奨励賞 受賞
2008年:博士号(京都大学:農学)を取得
1999年:京都大学大学院農学研究科修士課程修了,同年アサヒビール(株)入社
<抱負>ビール香味を向上させるための技術開発に尽力して行きたいと志しています
○小泉智洋・蛸井潔・谷川篤史・清崎俊博・潮井徹
(サッポロビール株式会社 商品・技術イノベーション部)
①目的
近年、消費者の食嗜好の多様化に伴い、様々な飲食物が多様な楽しみ方をされるようになってきている。国内におけるビールの楽しみ方も多様化しており、爽快な特徴のビールを繰り返し楽しむだけでなく、香りや味わいが異なるビールをゆっくりと味わう消費者も増えてきている。
当社では、官能検査において複数の感覚の時系列変化を同時に評価することができるTemporal Check All That Apply(TCATA)法を用い、ビールやRTDを対象にTCATA法で特定の香味に着目した評価ができることを報告してきた。本手法では飲用時の後味を評価できる可能性も示唆されている ¹ ²)。
本報では、消費者の飲用条件に近い繰り返し飲用条件において、実験者の感覚に生じる変化をTCATA法でとらえる事を目的とした。
②方法
TCATA法により、ビール飲用時の時系列変化を評価した。1回の試行において、同一サンプルを3回繰り返し飲用し評価することとし、評価項目は「麦のうまみ」、「苦味」として各パネルがその項目を感じている時間変化をデータとして取得し、解析した。
③結果
「苦味」や「麦のうまみ」の項目でビールの風味特徴が明らかとなり、時系列変化を捉えるのにTCATA法が有効な方法であることがわかった。また、3回の繰り返し飲用による実験者の評価の変移を報告する。
1)坂口ら:平成30年度日本醸造学会要旨集(2018)
2)Maruyama, K. et al. European Brewery Convention 37th Congress (2019)
大塚輝 ¹、戴凰凰 ¹、田中猛剛 ¹、満生萌水 ¹、中山二郎 ²、〇北垣浩志 ¹(¹ 佐賀大学、² 九州大学大学院)
①目的
酒粕を食べることで腸内細菌が改善されるという知見が近年多く報告されているがそのメカニズムは必ずしも明らかでなくそれを基盤とした技術開発の妨げとなっている。そこでモデル腸内細菌を作成して酒粕を添加しその代謝への影響を調べメカニズム解明の一助とすることとした。
②方法
YCFA培地を用意し酸化還元試薬であるresarulinを添加した培地で色を確認しながら窒素を吹き付けて嫌気性にしたアンプルを作成しオートクレーブ後にマウス糞便と酒粕溶液を弁の機能のついた蓋を介して内部空間の嫌気性を保ったまま添加して培養しオキシム化、TMS化で誘導体化してGC-FIDでその代謝物を解析した。独立した3回の実験をそれぞれ行った。
③結果
代謝物濃度を説明変数にしてPLS-DAを行ったところ、酒粕のみの群と腸内細菌のみの群と腸内細菌+酒粕の群が離れた場所にプロットされた。
これらの群間の分離をもたらした物質を同定するためVIP値を計算したところ、グリセロール、バリン、ロイシンなどがVIP値1以上を示した。
ただしPermutation検定を行ったところR2値の切片は0.471を示したことから、物質を確定するためにはさらなるn数が必要であると考えられた。
④考察
酒粕が腸管に入った後にどのような反応が起き腸内細菌とどのような相互作用をしているかについての情報はまだ少なく全貌はわかっていないが素過程を一つずつ明らかにしていくことで将来的には理解が得られると期待される。
〇磯谷敦子 ¹、池田優理子 ¹、日下一尊 ¹、菱沼勇人 ²、上原宏 ³
(¹ 酒総研、² オーバルワン株式会社、³ 立正大学)
【目的】
近年日本酒の輸出が増加しているが、輸送あるいは現地での流通時の温度管理に関して懸念の声も聞かれる。日本酒の品質には貯蔵温度が大きく影響を及ぼすため低温管理が望ましい。しかし、具体的にどの程度の温度で管理するのが良いのか、データに基づく知見は少ない。本研究では、輸送時の温度環境が日本酒の品質に及ぼす影響について基盤的な知見を得ることを目的に、日本酒の貯蔵温度と品質との関係について調査した。
【方法】
市販清酒10点(生酒3点、火入れ酒7点、オーバルワン株式会社より提供)を試料とした。生酒は0,5, 15,25°Cで1,2, 3か月間、火入れ酒は0,15, 25, 35°Cで2,4, 6か月間貯蔵した。貯蔵終了後、プロファイル法による官能評価と成分分析を実施した。
【結果】
(1)生酒:貯蔵温度、期間とともにイソバレルアルデヒドが増加したが、官能評価ではほとんど有意差がみられなかった。貯蔵開始時からイソバレルアルデヒドの濃度が閾値を超えていたことが一因と考えられる。
(2)火入れ酒:ジメチルトリスルフィドは25°C以下ではほとんど増加がみられず、35°Cで顕著に増加した。ただし、増加速度は酒によって大きく異なった。官能評価の結果、35°Cで老香が顕著に増加し、総合評価も悪くなった。また、25°Cでも酒によっては変化がみられた。一方、0°Cと15°Cでは、すべての試料において尺度評価項目に有意差がみられなかった。これらのことから、火入れ酒は15°C以下で保管すれば半年程度品質を保持できると考えられた。
本研究は、戦略的イノベーション創造プログラム「スマートバイオ産業・農業基盤技術」によって実施された。
○坂井将之¹、栗林喬² ³、岩野君夫⁴、渡邊健一² ⁵、渡邉剛志² ³、成田護¹
(¹ 新洋技研工業株式会社、² 新潟食料農業大学、³ 新潟食料農業大学 食品科学研究所、⁴ 秋田県立大学、⁵ 石本酒造株式会社)
【目的】
清酒製造においてピルビン酸は、清酒のオフフレーバーとして認識されるジアセチルの前駆体物質として広く知られている。ジアセチルは、いわゆる“ツワリ香”や“乳製品様臭”といった特徴の香りとして認識され、清酒の品質を著しく劣化させる。この品質低下を回避するため、清酒製造現場においては、清酒醪の上槽可否の判断基準として、醪中のピルビン酸濃度をモニタリングし、製成酒中におけるジアセチルの生成を抑制する対策が一般的に行われている。
近年,我々は,3-デオキシグルコソン(3-D-G)法に基づくピルビン酸簡易測定キットを製品化した。本研究では、このキットの測定方法を改良した結果、従来よりも迅速かつ簡便な分析操作を実現し、清酒醪中のピルビン酸濃度に基づく上槽可否判定を目視にて行うことが可能であったので報告する。
【方法および結果】
3-D-G法を用いたピルビン酸簡易測定キット(新洋技研工業株式会社)を用いて、清酒醪中のピルビン酸と2,4-DNPHの反応性について調査した。その結果、ピルビン酸における最大吸収波長は440 nmであり,反応時間を1時間から15分間に短縮することができた。本改変法は、清酒中に含まれるアルコールや酸成分の影響を受けずにピルビン酸の簡易測定が可能であり、測定精度にも問題はなかった。清酒醪中のピルビン酸を測定した結果、デタミナーPA(協和メデックス株式会社)を用いた酵素法と相関性のある結果が得られ、醪末期のピルビン酸濃度を目視にて確認できた。
これらの結果から,本キットを用いた改変3-D-G法による分析は、高品質な清酒製造のためのピルビン酸を指標とした上槽可否の判定ツールとして、極めて有効な手段となることが明らかとなった。
○齋藤 良(長野県工業技術総合センター)
【目的】アルカリ度とは、水をpH4.5まで酸で滴定して得られる値で、主にHCO3-の濃度を反映している。ビール醸造においては、マッシュや麦汁のpHに影響を与えることから、重要な管理指標の一つである。しかし、清酒醸造におけるアルカリ度の影響については良く知られていない。そこで、本研究では、長野県内の酒造場で使用される醸造用水のアルカリ度の実態を調査するとともに、それが、清酒もろみの成分等に及ぼす影響を調べるための実験を行ったので報告する。
【方法】長野県内の清酒製造場70場で使用されている醸造用水について、簡易型測定器を用いてアルカリ度を測定した。また、蒸留水に試薬を溶解させてアルカリ度や硬度を調整した水及び61場の製造場より提供された水79点を用い、α化米、乾燥麹、乳酸、エタノールと混合させて疑似的な清酒もろみの仕込を行い、10°Cで1週間糖化させたのち、遠心分離してpH、Brix値、OD280を測定した。
【結果】長野県内の清酒製造場70場で使用されている醸造用水のアルカリ度(mg/L asCaCO3)について、平均値39.5、最大値153、最小値11(RO水除く)、標準偏差22.6となり、大きな差があることが分かった。また、疑似もろみにおいては、水のアルカリ度とpHに高い相関がみられ、アルカリ度が高いともろみのpHが高くなる傾向が見られた。既報では、水に含まれるCaが米の溶解を促進するとされており、実際に、蒸留水にCaSO4を溶解させた場合やアルカリ度が低く総硬度が高い水を使用した場合は、Brix値が高く、米の溶解が促進されていることが確認できた。しかし、アルカリ度が高い水では、Ca濃度が高くても、Brix値やOD280の値が低くなり、むしろ、米の溶解が抑制される結果になった。これは、アルカリ度が高い水では、もろみのpHが高くなることから、酵素作用に影響を与えたものと思われる。今回の結果から、清酒の醸造においても、仕込水のアルカリ度がもろみのpHに影響を与え、米の溶解や成分等に影響を及ぼす可能性が示唆された。
○渡部貴志、栁澤昌臣、田島創
(群馬産業技術センター)
【背景と目的】
清酒酵母の高泡形成は、発酵の際に発生する二酸化炭素に吸着する細胞表層タンパク質Awa1pの働きによるものであることが分かっており、すでに泡無し化の手法が開発されている。昨年度我々は、RIB0001~RIB0007、K1~K5、K12、K13株、清酒用赤色酵母(赤色酵母)およびピルビン酸低生産性K7株を対象にし、Froth Floatation法による泡無し化を行った¹⁾。また、ピルビン酸低生産性K7株の泡無し株については、実用化に向けた実地醸造試験により、親株と同様のピルビン酸低生産性と醸造特性を維持していることを確認した。
赤色酵母は、ピルビン酸低生産性K7株と同様に(公財)日本醸造協会から頒布されているため、その泡無し株の実用化の可能性が高いと考えられる。そこで本研究では、効率的に赤色酵母の菌体が回収できる拡大培養方法を検討し、実地試験醸造を行ったので報告する。
【方法と結果】
赤色酵母の泡無し株は(独)酒類総合研究所から分譲された親株から育種した。小仕込み試験の結果から赤色酵母は増殖が非常に遅いため、通常の清酒酵母の10倍以上の接種量が必要であることが分かった。そこで、食品添加物用酵母エキスとグルコースの液体培地を用い、フラスコ振盪培養により、菌体量の多い培養液を作成し、遠心分離により濃縮を行うことによって、実地醸造でも赤色酵母の優占性が維持できる拡大培養液が造れるようになった。
さらに効率的に菌体を培養するため、3L容のジャーファーメンターを用いたところ、対照の泡有り株は通気により高泡形成するため消泡剤が多く必要であるのに対し、泡無し株はほとんど必要としないことが分かった。また、県内酒造会社での実地試験醸造により、赤色の呈色と親株の醸造特性が維持されていることが確認された。
1)渡部ら、醸協、115、p692(2020)
〇平井猛博、窪寺隆文、広畑修二
(白鶴酒造(株))
【目的】
アグマチンは、清酒中のアミン類として著量含まれており、その含有量は多様であることが報告されている¹⁾。近年、Akasakaらによって、清酒醸造中の黄麹菌による生成機構が報告されている²⁾が、清酒中の含有量の変動要因は、十分に明らかではない。そこで、清酒醸造の各種条件がアグマチンの生成量に与える影響を解析した。
【方法】
清酒醸造の各種条件を変更した総米50gの小仕込み試験を実施し、製成酒のアグマチン濃度をキャピラリー電気泳動法によって測定した。実験室または醸造現場で製麹した麹のアグマチン生成能を、麹10gに対して蒸留水30mlを添加した水麹試験によって評価した。
【結果】
小仕込み試験の結果、清酒中のアグマチン濃度は酵母の有無や菌株により変動しなかったが、麹歩合を高めることで増加した。また1.0%以上の乳酸や10%以上のエタノールは、アグマチンの生成を阻害し、発酵中の醪品温の違いにより、アグマチンの生成量は変化した。
麹のアグマチン生成能は、実験室で製麹した麹では、菌種による大きな違いはなかったが、醸造現場の麹では多様であった。製麹時のアグマチン生成能を経時的に確認した結果、製麹中盤から出麹にかけて急速に上昇したことから、麹菌の生育の立ち上がりと出麹時期が、醸造現場の麹のアグマチン生成能に大きく影響すると考えられた。さらに、出麹後の麹の保管条件や、水麹から蒸米投入までの時間も、製成酒のアグマチン濃度の変動に影響した。
以上より、清酒中でのアグマチン生成量は、主に麹のアグマチン生成能により決定され、その後の仕込み条件によって更に変動すると考えられた。
1)堀井ら酒類研究所報告第183号(2011)
2)Akasakaet al., Appl. Environ. Microbiol,84, 15(2018)
〇中嶋理奈、冨田晴雄、宮藤章(大阪ガス株式会社)
【目的】酒造業界では、原料米の酵素による分解されやすさ、すなわち溶解性が、アルコール発酵の進行度や酒質に影響を及ぼすことが広く知られている。そのため、多くの酒造会社では、日本酒の製造を行う前に、原料米の溶解性を酒造用原料米全国統一分析法に従って分析をしているが、この分析手法は、測定に時間がかかり作業が煩雑である。
先行研究として報告されたアルカリ崩壊法※は、アルカリ溶液に米を浸漬させると米の溶解性に応じて米が膨張し、やがて崩壊するという原理を利用しており、浸漬24時間後の目視による定性評価や吸光度測定による評価が可能である。そこで、本研究では、アルカリ溶液に生米を浸漬させた時の様子をカメラで撮影し、撮影画像を解析することにより得られた米の面積や輝度情報を利用することで、定量かつ連続的に、そしてより容易に溶解性を評価する手法の構築を目指した。
【方法】令和元年度産、令和2年度産の種々の高度精白米について、後述の操作を2回ずつ実施した。生米約60粒を並べた96セルプレートに、0.35 M水酸化カリウム水溶液(以後、アルカリ溶液)を50 mL入れ、米を浸漬させてから30秒ごとに60分間、各米粒の様子を撮影した。その後、画像を解析し、米の輝度や面積情報を取得した。測定中は、ヒーターを用いることで溶液の温度を30°Cに管理した。また、本手法の定量性検証のための実験として、酒造用原料米全国統一分析法の消化性測定試験に従い、各米について蒸し放冷後、老化3h後、老化6h後の蒸米の溶解性(Brix値)を測定した。
【結果】米の輝度は、アルカリ溶液への浸漬開始から一度低下し、その後上昇に転じていた。そこで、上昇に転じた後の輝度の値や輝度が上昇に転じる点を起点とした輝度の増加量に着目すると、蒸米のBrix値と相関関係にあることが明らかになった。これらの結果から、定量的に、そして容易に、生米を用いて蒸米の溶解性を評価できることが示唆された。
※奥田ら,J.Brew.SOC.Japan.V01.113, NO.5, P.315-330 (2018).
○土屋友理・太田 拓・稲留弘乃
キリンホールディングス株式会社
ビール醸造において、発酵工程はアルコールを生成するのみではなく、製品の味や香りを左右すると共に、プリン体等の成分の生成や消失に関与するキーとなる工程である。キリングループではこれまでに、発酵液にホップを添加することにより、ホップの良好な香り(リナロール)を付与し、不快な香り(ミルセン)を最小限に抑え、ビールに豊かなホップ香を付与する独自技術としてディップホップ製法を開発してきた¹⁾。しかし、ディップホップ製法によるホップ香への影響の解明が進む一方で、発酵への影響は解明されてこなかった。そこで本研究では、ディップホップ製法による酵母とホップの相互作用がもたらすビール品質への影響を明らかにしようと試みた²⁾。発酵経過を詳細に比較した結果、ディップホップ製法では酵母による糖消費速度の上昇と、発酵液中に浮遊する酵母数の増加が見られ、発酵が促進されることが確認された。この現象はホップによる溶存炭酸ガスの過飽和状態の解消による、酵母の生理活性の向上が原因であることを解明した。また、細胞内代謝物の解析から硫黄を含む代謝物の細胞内存在比が変わることを明らかにし、発酵中の硫化水素の生成量が減少する仮説を立てた。過飽和の溶存炭酸ガスの放出による硫化水素のパージアウト効果と合わせて、ビール製品に望ましくない香りとなる硫化物の蓄積を防ぎ、製品品質の向上に寄与することを明らかにした。更には、ホップにプリン体の一種であるアデノシンをアデニンに分解する活性があることを見出し、発酵中に生成したアデニンを酵母に資化させることにより、ビール製品のプリン体を低減する発酵法の開発に繋げた。本講演では、上述したディップホップ製法が発酵とビール品質に及ぼす影響に関して、商品への応用例を含めて紹介する。
参考文献
1.村上敦司:「日本のホップ品種」とそれらを活かしたビール造り,とその波及効果,醸協,115,(4),195-202(2020)
2.土屋友理、太田拓:ビール発酵液中へのホップ添加がもたらす酵母とホップの相互作用、醸協,115,(8),458-468(2020)
略 歴
氏名:土屋友理
<現所属>キリンホールディングス株式会社
<生年(西暦)>1986年
<略歴>2009年共立女子大学家政学部食物栄養学科卒業、2009年キリンビール株式会社、現在に至る
<抱負>おいしく、体にやさしい飲みものを開発し、多くの方に喜んでもらいたい
氏名:太田 拓
<現所属>キリンホールディングス株式会社
<生年(西暦)>1984年
<略歴>2010年大阪大学大学院生命機能研究科修了(修士)、2010年キリンホールディングス株式会社、現在に至る
<抱負>発酵を科学的に理解し、活用することで、人々の豊かな食生活や健康に貢献したい
氏名:稲留弘乃
<現所属>キリンホールディングス株式会社
<生年(西暦)>1976年
<略歴>2004年東京大学大学院農学生命科学研究科修了(農学博士)、2004年京都大学化学研究所教務職員、2007年理化学研究所基礎科学特別研究員、2009年キリンホールディングス株式会社、現在に至る
<抱負>微生物の力を引き出して、健康で豊かな生活を提供することに貢献したい
○長谷川 哲哉 ¹,松尾 啓史 ¹,髙木 敬信 ¹,大谷 里菜 ¹,塩谷 瑞紀 ¹,古家 美紀 ¹,大西 徹 ¹,木崎 健斗 ²,中谷 未侑 ²,
森 実優 ²,倉田 淳志 ²,上垣 浩一 ²(¹近大院農 ²近大農)
【目的】我々の研究室では醸造に用いることを目標に、近畿大学構内の花々から野生酵母をスクリーニングし、清酒小仕込み試験で官能評価の良かった酵母株の育種を行っている。本発表では、バラ由来の酵母を用いてバラ様の香りであるβ-フェネチルアルコールを高生産する育種株を取得したことを報告する。
【方法】酵母において、β-フェネチルアルコールはシキミ酸経路やエールリッヒ経路から生成されるが、芳香族アミノ酸によるフィードバック阻害によって生成が阻害されることが知られている。フェニルアラニンのアナログであるp-フルオロフェニルアラニンに耐性を持つ変異株は、フィードバック阻害が解除され、β-フェネチルアルコールを高生産することが報告されている。本研究はEMS処理によってp-フルオロフェニルアラニンに耐性を持つ変異株を取得し、YPD10を用いた醸造試験、実験室規模での清酒小仕込み試験とフルーツワインの醸造を行い、香気成分分析、官能評価を行った。
【結果】EMS処理によって、p-フルオロフェニルアラニンに耐性を持つ変異株を、計4株取得した。YPD10の醸造試験の結果、4つの変異株において親株よりも、10倍以上のβ-フェネチルアルコールを生成していることが確認された。それらの細胞内アミノ酸を測定したところ、親株に比べフェニルアラニンの蓄積が確認され、フィードバック阻害が解除されていることが示唆された。取得した変異株のうち3株を用いて、清酒小仕込み試験とフルーツワインの醸造試験を行った。その結果、清酒においては、官能評価、香気成分分析とも親株と比較してβ-フェネチルアルコール生成量を含め、香気成分には顕著な変化が見られなかった。一方、フルーツワインでは、官能評価において顕著にβ-フェネチルアルコールの香りが増加していることが確認された。この結果、取得した育種株は、フルーツワイン醸造でその特性を発揮できることが示唆された。
〇伊佐治 由貴,藤田 智,冨田 晴雄,宮藤 章(大阪ガス(株))
①目的:アルコール発酵では、発酵の経過確認のために「アルコール濃度」の測定が行われている。加えて、発酵後の味・香りをより良くするためには、アルコール濃度だけでなく、発酵の経過に伴い減少する単糖や多糖等の各種成分濃度を測定・管理することが重要である。一般的な成分分析では、HPLCなどの高額な装置や試薬を用いるため、より簡易的な方法として吸光光度計を用いた赤外分光法が注目されている。しかし、アルコール発酵の場合は、単一成分でなく、スペクトルが類似した物質が複数混在しているため、赤外分光法で濃度を測定することは難しい。本研究では、赤外分光法で得た「アルコール発酵溶液」及び「模擬溶液」のスペクトルデータに対して機械学習の技術を用いることで、類似する成分が含まれている水溶液においてもそれぞれの濃度を精度よく推定することを目的とした。
②実験:様々な濃度の、エタノール(E)・グルコース(G)・マルトース(M)の「単一成分の水溶液」と、「混合水溶液(アルコール発酵溶液の模擬溶液)」を作成した。セルに溶液を入れ、透過測定で赤外吸収スペクトルを得た。(1)各成分の特異的な吸光波長の吸光度からE・G・Mの濃度を算出した。(2)「単一成分の水溶液」と「混合水溶液」を機械学習の教師データ、「混合水溶液」を試験データとしてE・G・Mそれぞれの混合割合と推定濃度の比較を行った。
③結果:(1)Eについては比較的精度よく算出できたが、G・Mについてはスペクトルがほぼ重なっているため、合計吸光度しか算出できなかった。対して(2)の機械学習を使用した場合はG・Mそれぞれを推定でき、G,Mについては(1)に比べて良い精度で推定できることが分かった。実際に現場で用いる際は、教師データをアルコール発酵溶液のスペクトルデータで再学習または追加学習することでより精度よく濃度推定可能と予測される。
○ 曾 伝濤 ¹・劉 夢迪 ²・吉﨑 由美子 ¹・奥津 果優 ¹・二神 泰基 ¹・玉置 尚徳 ¹・髙峯 和則 ¹
(¹ 鹿児島大学農学部附属焼酎・発酵学教育研究センター,² 鹿児島大学大学院農林水産学研究科)
【目的】サトイモは,主に子イモは食されるが,親イモはえぐみがあるため,ほとんど食されず,廃棄される.圃場に破棄した場合は,病害の発生源の一つになることから,親イモの活用方法を開発することが必要である.本研究では,サトイモ(親イモ)の焼酎原料としての価値を生み出すことを目的とし,サトイモ焼酎の香味の特徴を見出すことを試みた.また蒸留後の焼酎粕の機能性を調べ,粕の有用性について評価した.
【方法】外皮を残したサトイモ(皮あり)および外皮を除去したサトイモ(皮なし)の2種類および対照としてサツマイモを原料とした.サツマイモ焼酎の仕込み配合をデンプン価を参考にし,サトイモ焼酎製造に適用した.香気成分はガスクロマトグラフィー質量分析計(GC-MS)にて,酒質は,官能評価にて調べた.焼酎粕の機能性は,焼酎粕の遠心分離上清のアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害活性および抗糖化活性を市販キットを用いて評価した.
【結果】サトイモ焼酎のもろみは,サツマイモ焼酎とほぼ同等に発酵した.サツマイモ焼酎と比較し,サトイモ焼酎の蒸留歩合は低いものの,十分蒸留できることが確認された.サトイモ焼酎のもろみ酸度は,サツマイモ焼酎よりも高く,サトイモの成分が酵母の生育にストレスを与えたと考えた.官能評価の結果,サツマイモ焼酎と比べてサトイモ焼酎の香りは草様が強く,花様と果実香が弱いことが分かった.味は,渋味,苦味,濃厚さが強いことが分かった.GC-MS分析よりサトイモ焼酎は,サツマイモ焼酎よりエステル化合物やテルペン化合物の含量少なく,アルコールやアルデヒドを多く含むことが明らかになった.加えて,サトイモ焼酎粕上清液には,抗糖化活性と強いACE阻害活性があることが確認された.このことから,サトイモ焼酎の香味はバランスが良く,焼酎粕の有効活用も期待できることが示唆された.
○佐藤祐汰 ¹,李伯函 ¹,春山祐紀 ¹,吉﨑由美子 ²,奥津果優 ²,二神泰基 ²,玉置尚徳 ²,髙峯和則 ²
(¹ 鹿児島大学農学部、² 鹿児島大学農学部附属焼酎・発酵学教育センター)
【目的】焼酎製造において、数日毎に一次醪を植え継ぐ差し酛がある。これにより醪は次第に野生酵母の割合が増加すると考えられる。そこで、野生酵母に置換される原因について検討した。
【方法】焼酎用酵母はK2、C4、H5、A6、及び野生酵母のS5-gを使用した。差し酛試験は焼酎酵母と野生酵母が10⁶:50~5000の割合で仕込み、30°Cで2日間発酵させ、この醪を差し酛及びコロニー数計測に用いた。比増殖速度は麹汁培地で48時間静置培養し、経時的に吸光度660nmを測定した。吸光度の平均値の対数値を縦軸に、培養時間を横軸として散布図にプロットし、最小二乗法により求めた比例定数を比増殖速度とした¹⁾。酵母の細胞外pHの測定は、Takashitaetc.,²⁾の方法に従った。
【結果】TTC下層培地に生じたコロニーを染色した結果、K2及びH5のコロニーは染色されず、C4,A6及びS5-gのコロニーは暗赤色に染色された。染色されたコロニーの直径は、C4,A6で約0.5mm、S5-gで約2mmであった。これにより、野生酵母と焼酎酵母を区別できた。差し酛実験でK2、C4、H5の順で野生酵母に置換されやすいこと、またA6は差し酛によりほぼ置換されないことが分かった。K2とC4の比増殖速度はS5-gの0.410μ・h-¹と比べて低く、また総菌数もS5-gの2.66×10⁸cells/mlと比べて少なかった。一方、H5は比増殖速度が0.390μ・h-¹、総菌数が1.95×10⁸cells/mlといずれもK2、C4より高かったが、S5-gと比べると低かった。K2とC4は細胞外の低下が緩やかであり、細胞膜H+-ATPase活性がS5-gよりも低いことが示唆された。一方、H5はS5-gと大差なく、またA6はpHの低下が最も速かったことから、比増殖速度に大差が認められなかったものといえる。
1)小西ら、生物工学,93(3)p.149~152(2015)
2) Takashita etc.,J. Biosci. Bioeng., 116(1), 79-84(2013
○劉 根僑 ¹、芹川 樹奈 ²、吉﨑 由美子 ²、奥津 果優 ²、二神 泰基 ²、玉置 尚徳 ²、髙峯 和則 ²
(¹ 鹿児島大学大学院連合農学研究科、² 鹿児島大学農学部)
①目的
芋焼酎製造では、二次醪の温度は、最高温度を32°C付近で管理することが一般的である。しかしながら、一部メーカーでは38°C付近まで上昇することもある。この二次醪の温度が高温経過をたどると「濃厚で複雑な香味の酒質」となり、低温で管理をすると「淡麗で華やかな酒質」になると経験的にいわれているが、発酵温度と酒質との関係は明らかになっていない。そこで、本研究では、酒質に及ぼす二次醪温度の影響について明らかにすることを目的とした。
②方法
小仕込み試験は、サツマイモ(コガネセンガン)1kg、麹歩合20%(白麹)、汲み水歩合67%で行った。二次醪の温度制御は25°C一定と、最高温度が32°C及び38°Cになるように設定し、酒質と香気成分及び官能評価について調べた。
③結果
25°C一定の二次醪は発酵初期に遅れたが、最終的には遜色ない発酵経過であった。GC-MS分析の結果、高級アルコール類や果物様の香り成分であるエステル類が最高温度38°Cの焼酎と比べて高濃度に含まれており、官能評価でもフルーティーで淡麗と評価されたことから、経験的にいわれてきた「低温で管理した焼酎は淡麗で華やかな酒質になる」ということと一致した。最高温度38°Cの二次醪では、最高温度32°Cと発酵経過は同様であったが他条件に比べて、酵母総菌数は少なく醪に含まれる酢酸濃度が高かった。これは、官能評価の酸臭が強いという結果と一致した。GC-MS分析の結果、最高温度38°Cの芋焼酎はエステル類、高級アルコール類および脂肪酸類が少なく、原料由来の香りによる複雑な香味につながったと考えられる。また、醪の最高温度を32°C付近で管理することが最も「甘香」、「甘味」、「濃厚」な酒質になることがわかった。
○長船 行雄,利田 賢次,韓 錦順,磯谷 敦子,向井 伸彦(酒類総合研究所)
武藤 彰宣,松本 健(福岡国税局),山内 昭人(壱岐酒造協同組合)
【目的】
麦焼酎の製造において、麹原料には米麹または麦麹が一般的に用いられる。米または麦の各原料を用いた麹自体の活性や麹を用いたもろみ等の発酵性や溶解性の違いについては、これまでにも様々な報告が行われているが、最終的に得られる製成酒の香気特性に与える影響については、未だ不明瞭な部分がある。
そこで、本研究では常圧蒸留により製造される麦焼酎の香気特性に対して、麹原料の違いがどのような影響を与えるかについて検討を行った。
【方法】
はじめに、当所で実施している本格焼酎・泡盛鑑評会の出品酒から常圧蒸留の麦焼酎として米麹製のもの8点と麦麹製のもの13点を選抜し、HS-GC及びSPME-GCMSにより分析を実施した各種香気成分及び鑑評会審査員による官能評価結果の比較を行った。
次に製造条件の内、麹原料のみを米又は麦と変更した10L規模の小規模製造試験を実施し、出品酒と同様に各種香気成分の分析を実施し、比較を行った。
【結果】
両試験の結果、麦麹を用いた場合には4-VGといった燻製様の香りを呈する成分やメチオノールやメチオナールといった醤油様、硫化物様といった香りに寄与する成分が比較的多く含まれることが確認された。一方で米麹を用いた場合には上述の成分が比較的少なく、アルコール類やノナナールといった草様・油様といった香りに関する成分が多くなる傾向が観察された。その他にも煙様や蜂蜜様の香りに寄与する成分についても一定の傾向が確認されており、麹原料の違いが製成酒の香気特性に影響を与えていることが示唆された。
本研究は壱岐の本格焼酎に関する福岡国税局との共同試験の一環として行った。
○三井俊 ¹、家田明音 ²、伊藤彰敏 ¹、山本晃司 ¹、近藤徹弥 ¹、杉山信之 ¹、伊東寛明 ¹、榊原康彰 ³、
船井秀哉 ³、原本直幸 ³、水野善文 ⁴、木村伸一 ⁴、志水元亨 ²、加藤雅士 ²
¹ あいち産業科学技術総合センター、² 名城大学、³ 中埜酒造(株)、⁴ 金虎酒造(株)
①目的
あいち産業科学技術総合センターが保有する愛知県酵母(FIA1、FIA2)は、吟醸香生成量が少ないことから、シンクロトロン光を変異原とした突然変異誘発技術により、尿素非生産性かつ酢酸イソアミル高生産性の酵母FIA2Arg-TFLを育種した(令和元年度日本醸造学会大会講演番号13)。
本研究では、引き続き、高香気性の県酵母の開発を目指し、シンクロトロン光を活用して、尿素非生産性かつカプロン酸エチル高生産性の酵母の育種に取り組んだ。
②方法
既存の県酵母FIA1にシンクロトロン光を照射して育種した尿素非生産性酵母FIA1Argを親株に用いた。FIA1Argに再度、シンクロトロン光を照射した後、セルレニン含有培地を用いた選別、発酵試験を通してカプロン酸エチル高生産性酵母を選抜した。清酒仕込試験(総米80 kg及び200 kg)により選抜酵母の醸造特性を確認した。この際、新たに設定したカプロン酸の迅速定量法を用い、醪中のカプロン酸濃度の経時変化も評価した。
③結果
シンクロトロン光照射により取得されたセルレニン耐性株の発酵試験の結果、親株FIA1Argとほぼ同等のアルコール生成能を有するカプロン酸エチル高生産性酵母FIA1Arg-CERを選抜した。総米80 kg及び200 kg清酒仕込試験の結果、FIA1Arg-CERのカプロン酸エチル濃度は親株FIA1Argの約4倍となり、FIA1Arg-CERがカプロン酸エチル高生産性であり、十分なアルコール生成能も有することが確認できた。設定した定量法により醪中のカプロン酸を分析した結果、FIA1Arg-CERのカプロン酸濃度は親株の3~5倍高く推移していた。
本研究は知の拠点あいち重点研究プロジェクト(II期)として行った。
〇三木功次郎,北村誠,馬塲紗代
(奈良工業高等専門学校)
【目的】国税庁所定分析法において固体麹からの酵素の抽出は,固体麹に塩化ナトリウム溶液を加えて,一定時間静置する静置抽出法とワーリングブレンダーにより抽出するホモジナイズ抽出法がある。本研究では,超音波洗浄器を用いて,簡便かつ迅速な米麹からの酵素抽出を試みた。
【方法】超音波抽出法として,バイアル瓶に米麹と0.5%NaCl含有酢酸ナトリウム緩衝液(10 mM,pH5.0)を入れ,超音波洗浄器(本多電子,W-113MK-II,100 W,発振周波数24kH)で一定時間超音波処理した。0.5%NaCl含有0.01mol/L酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)10 mL を30 mL茶色スクリュー管瓶(丸蓋)に入れた。この瓶を槽内に水1.25Lを入れた超音波洗浄器((株)本多電子,W-113 MKII(出力100W,周波数24 kHz))、の中心で一定時間、超音波処理を行い,ろ過したものを酵素液とした。また,従来法である国税庁所定法による静置抽出法は,上記と同様に米麹に酢酸ナトリウム緩衝液を加え,20°Cでときどき振り混ぜながら3時間静置して,ろ過したものを酵素液とした。α-グルコシダーゼ活性は,我々が開発したα-アルブチン(ヒドロキノン-α-D-グルコピラノシド)を基質とする電気化学的測定法を用いた1)。糖化力,α-アミラーゼ活性,α-グルコシダーゼ活性,酸性カルボキシダーゼ活性の測定は,キッコーマンバイオケミファ(株)製の測定キットを用いた。
【結果・考察】各種麹をサンプルとして,超音波抽出法で抽出されるα-グルコシダーゼ活性を指標として,超音波処理時間を検討した。α-グルコシダーゼ活性が一定値となるまでに必要な時間は60分であった。超音波処理する際,超音波洗浄器槽内のバイアル瓶の位置による抽出効率の変化は5%以内であった。また,60分の超音波処理により,槽内の水温は約15°C上昇したが,この程度の温度上昇は酵素活性に影響がなかった。
25種類の米麹について,超音波抽出法と静置抽出法により抽出したα-グルコシダーゼ活性の相関を調べたところ,両者にはよい相関があった。糖化力,アミラーゼ活性,酸性カルボキシダーゼ活性についても同様によい相関が得られた。超音波洗浄器を使用することで,国税庁所定法(20°C,3時間静置抽出)と比べて抽出時間を1/3に短縮することが可能であった。
今後の検討条件としては,超音波処理による洗浄機槽内の水の温度コントロールの検討,超音波洗浄器内での米麹が入ったバイアル瓶の固定位置および固定方法などの検討が必要である。
1)三木功次郎他,分析化学,55,p.925~929(2006)
水野紗希¹、平吉明日香³、小松夕子³、室井佑介²、川上晃司²、小林拓嗣³、〇岩下和裕³
[¹黒龍酒造(株)、²(株)サタケ、³酒類研]
【目的】これまでに我々は、白米形状が清酒の特性に大きな影響を与えることを明らかにしてきた。これら一連の分析で50%原形・扁平精米が35%球形精米に匹敵することが示唆された。しかし、小仕込みでは1段仕込みで発酵温度も一定と実際の醸造条件とは異なる。そこで、35%・50%球形・50%扁平精米を用い100kgの試験醸造を行い、一連の分析と官能評価を行なった。
【方法】R2BY山田錦を原料に、#40cBNロール、#80cBNロールで、それぞれ35%・50%球形、50%扁平精米を行なった。続いて、総米100kgで酒母・添麴、仲・留麴を各1ロット作成した。製麴中の白米水分含量、温度経過、水分含量の推移がほぼ同様になるように制御した。さらに、総米100kgの三段仕込みを1本ずつ行なった。得られた米麹と清酒について、酵素活性測定、一般分析、香気成分分析、醸造酒メタボローム分析を行なった。
【結果】白米の形状について、50%球形はやや原形になったが、35%球形、50%扁平は目的通りとなった。製麴では、50%球形で経過にやや差が生じた。酒母経過には差が無く、モロミ経過は、50%球形で最高温度を1°C高く設定した。米麹の酵素活性では、50%球形で差がみられ、酒母の一般成分でも、50%球形でより大きな差がみられたが、35%球形、50%扁平間でも差が生じた。一般香気成分では35%球形と50%扁平ではよく一致し、酢酸エチル、イソブタノール、イソアミルアルコールにおいて50%球形でやや差がみられた。メタボロームの比較解析では50%球形で異なるピークが多くみられたが、35%球形と50%扁平間でも異なるピークがみられた。3点識別法をベースとした官能評価結果では、50%扁平のみ5%危険率で識別できるという結果になった。35%球形と50%扁平では、酒質は類似するもののやや異なると示唆された。
○清田蒼孔(吉備国際大学農学部醸造学科)、井上守正(吉備国際大学農学部醸造学科)
高品質な麹を製造する技術として上田流麹造りが知られている。しかし、蔵ごとに麹室の性能が異なるため、製麹工程の管理指針が必要となる。
上記課題を検討する目的で上田流麹造り研究会が組織(H28、初代会長渡辺酵造)され、研究を継続している。
これまで上田流麹造り研究会会員蔵の製麹工程の実態を把握することを目的に、各蔵ごとの麹サンプルを収集し、製麹の経過と水分含量、酵素力価の変化を調べてきた。今回は、上田流麹造りのポイントとなる盛から仕舞仕事の期間の製麹工程を精査したので報告する。
試料は上田流麹造り研究会会員企業25社が令和元酒造年度に製造した吟醸留麹。麹サンプルは①種切り、②揉み上げ、③盛り、④盛後1時間、⑤同2時間、⑥仲仕事、⑦ 仲仕事後2時間、⑧同4時間、⑨仕舞仕事、⑩出麹の工程ごとに5~10g採取した。それぞれ水分含量の測定 と酵素力価(α-アミラーゼ、グルコアミラーゼ、α-グルコシダーゼ、酸性カルボキシペプチダーゼ(ACP))の分析を行なった。また合わせて、上田流ではない従来法によって製麹した資料についても分析し比較した。
その結果、活性よって発現の仕方に違いが見られ、上田流麹造りの解明に繋がることが期待された。
従来法との違いについては、講演で示す。
○栁澤昌臣、渡部貴志、田島創(群馬産業技術センター)
【目的】
酒米「舞風」は、群馬県が独自に開発した酒造好適米であり、群馬県独自酵母と群馬県内の仕込み水とを用いて製造されたオール群馬県産清酒ブランド「舞風」が県内酒造会社から毎年一斉販売されている。しかしながら、酒米「舞風」の米質は硬く、溶けにくいため、酒化率が低く、製造量が伸び悩んでいる。一方、我々は麹米の酵素力価を分析する際に使用する抽出用の酢酸バッファーの金属添加量を検討しようと考え、NaClを除いたバッファーを用いたところ、著しく酵素活性が下がることを見出した。また、弱アルカリ性のTris-HClバッファーを用いた場合では、活性が下がらなかったことから、NaClの存在が酵素の抽出効率を良くするのではなく、酵素の不活性化を抑える働きをしていると推測した。そこで本研究では、仕込み水にNaClを添加し、酒米「舞風」の酒化率を向上させる醸造条件を検討した。
【方法と結果】
まず、60%精米の「舞風」を用いた総米200gの小仕込み試験において、NaCl添加量の影響を調べたところ、通常の酒母加工水の1.5 mgから20倍量の30 mgに増やすことで、上清量と酒精度の増加が確認された。一方で、その他の一般成分については顕著な変化は見られなかった。そこで、50%精米の「舞風」と群馬独自酵母G101を用いて総米60kgのパイロットスケールの試験醸造を行った。試験条件は、通常の酒母加工水(NaCl添加量0.6g)を対照とし、酒母加工水で10倍量のNaCl(6.0 g)としたものと、酒母加工水での添加量は0.6 gとして、初添で残りの5.4 gを添加したものの3条件とした。対照の粕歩合は56.5%であったのに対し、10倍量では54.5%、時間差を付けたものは52.2%と酒化率の改善が認められた。得られた清酒において塩味は感じられず、成分はほぼ同等であり、官能評価でも醪間において大きな差はなかった。
三井俊1、家田明音2、伊藤彰敏1、山本晃司1、近藤徹弥1、杉山信之1、伊東寛明1、榊原康彰3、船井秀哉3、原本直幸3、水野善文4、木村伸一4、志水元亨2、加藤雅士21あいち産業科学技術総合センター、2名城大学、3中埜酒造(株)、4金虎酒造(株)
①目的
あいち産業科学技術総合センターが保有する愛知県酵母(FIA1、FIA2)は、吟醸香生成量が少ないことから、シンクロトロン光を変異原とした突然変異誘発技術により、尿素非生産性かつ酢酸イソアミル高生産性の酵母FIA2Arg-TFLを育種した(令和元年度日本醸造学会大会講演番号13)。
本研究では、引き続き、高香気性の県酵母の開発を目指し、シンクロトロン光を活用して、尿素非生産性かつカプロン酸エチル高生産性の酵母の育種に取り組んだ。
②方法
既存の県酵母FIA1にシンクロトロン光を照射して育種した尿素非生産性酵母FIA1Argを親株に用いた。FIA1Argに再度、シンクロトロン光を照射した後、セルレニン含有培地を用いた選別、発酵試験を通してカプロン酸エチル高生産性酵母を選抜した。清酒仕込試験(総米80 kg及び200 kg)により選抜酵母の醸造特性を確認した。この際、新たに設定したカプロン酸の迅速定量法を用い、醪中のカプロン酸濃度の経時変化も評価した。
③結果
シンクロトロン光照射により取得されたセルレニン耐性株の発酵試験の結果、親株FIA1Argとほぼ同等のアルコール生成能を有するカプロン酸エチル高生産性酵母FIA1Arg-CERを選抜した。総米80 kg及び200 kg清酒仕込試験の結果、FIA1Arg-CERのカプロン酸エチル濃度は親株FIA1Argの約4倍となり、FIA1Arg-CERがカプロン酸エチル高生産性であり、十分なアルコール生成能も有することが確認できた。設定した定量法により醪中のカプロン酸を分析した結果、FIA1Arg-CERのカプロン酸濃度は親株の3~5倍高く推移していた。
本研究は知の拠点あいち重点研究プロジェクト(II期)として行った。
酵母 Saccharomyces cerevisiae におけるアルギニンによるプロリン資化抑制機構の解析
〇西村 明、谷川 翼、棚橋 亮弥、高木 博史 (奈良先端大・バイオ)
①目的
酵母Saccharomyces cerevisiaeはワインなどの醸造に用いられ、酵母による原料の資化が酒類の味や風味を決める大きな要因となっている。プロリンはワインの原料であるブドウ中に最も豊富に含まれるアミノ酸であるが、発酵中の酵母はプロリンをほとんど資化することができず、発酵後も多量に残存することが知られている。残存したプロリンは苦味の増加や酸味の減少を引き起こし、最終製品であるワインの酒質を低下させると考えられている。本研究は、発酵環境下においてプロリンを効率良く資化できる菌株の創製を目的とし、プロリン資化抑制に関わる因子の同定とその作用機序の解析を行った。
②方法
まず、プロリン資化能を酵母の生育によって評価するために、プロリン要求性株の構築を行った。構築したプロリン要求株を用いて、様々な窒素源を含む培地において生育試験を行い、資化抑制因子の探索を行った。さらに、同定した阻害因子がプロリン代謝遺伝子群の転写やプロリントランスポーターの細胞内局在に与える影響を観察した。
③結果
プロリン要求性株を使用して、生育からプロリン資化抑制因子を探索した結果、興味深いことにブドウ中に2番目に多い窒素源であるアルギニンが阻害因子であることが判明した。さらに、アルギニンはプロリン代謝遺伝子群の発現を大きく抑制すること、プロリントランスポーターのエンドサイトーシスを誘導することを発見した。現在、アルギニン存在下でもプロリン資化が可能な自然突然変異株をスクリーニング中である。将来的には、実験室酵母で得られた知見をワイン酵母の育種に応用することで、プロリン含量の低い高品質なワインの製造が期待される。
天然醸造味噌由来 Zygosaccharomyces rouxii YAMAMO 001 株のコハク酸生成能について
○高橋泰 ¹、上原謙二 ²、渡辺隆幸 ²、木村貴一 ³ (¹高茂合名会社、²秋田総食研 醸造試験場、³秋田総食研 食品加工研)
【目的】天然醸造味噌は、発酵蔵や木樽の住み付き酵母による複雑な発酵が進むことで知られている。高茂合名会社の味噌製造場において、木樽仕込み天然醸造味噌より分離されたリンゴ様の香りが良好な耐塩性味噌用酵母Zygosaccharomyces rouxii YAMAMO 001株の多用途化を検討したところ、優れたコハク酸生成能を見出した。コハク酸生成能をはじめとする菌学的諸性質や応用について検討したので報告する。
【方法】味噌や醤油を分離源とする市販の耐塩性酵母Z. rouxii NBRC 0505株、NBRC 0506株、NBRC 1876株、NBRC 1877株の4株を対照として用いた。5%食塩を含むYPD培地にて、30℃で48時間静置培養したものを前培養液とした。自作の甘酒や市販の果汁飲料を用意し、終濃度10%となるように食塩を加えたものを培地とした。培地体積の1/100量の前培養液を添加し、30度で30日間以上静置培養して本培養とした。本培養中は経時的にサンプリングを行い、有機酸とエタノールの測定を行なった。
【結果】10%食塩を含む甘酒をYAMAMO 001株で発酵させた発酵塩麹中のエタノール生成量を検討したところ、最大で3.39%であった。続いて、発酵塩麹中におけるYAMAMO 001株のコハク酸生成能を検討した。本培養31日目の嫌気的な培養では107.1mg/100ml、好気的な培養では227.3mg/100mlのコハク酸を系中に生成することがわかった。これは、対照株の最高値と比べて1.5〜1.7倍のコハク酸を生成し、かつ、コハク酸のうま味を明確に感じることができた。コハク酸生成経路について、培養初期に生成した酢酸が後半になると検出されない事や好気的な培養でコハク酸生成量が増加することから、酢酸はアセチルCoAを介してTCAサイクルに取り込まれ、コハク酸を生成する可能性が示唆された。
奥村真衣 1, 吉村明浩 2, 澤井美伯 2, 正木和夫 2,3, 石井雅之 4, 向田潤 5, 三井亮司 5, 島田昌也 1,4, 早川享志 1,4, ○中川智行 1,4
(1岐阜大院・自然科学, 2岐阜県食科研, 3酒総研, 4岐阜大・応生科, 5岡山理大・理)
【目的】4-ビニルグアイヤコール(4-VG)は、煙・スパイス様の香りをもつことから、清酒のオフフレーバーの一つとされる。きょうかい酵母はフェルラ酸脱炭酸反応を触媒するPad1p/Fdc1pのFDC1ナンセンス突然変異のため4-VGを生産しないが、野生酵母ではしばしば4-VG生産がみられ、清酒醸造の妨げとなっている。しかし、野生酵母における4-VG生産/非生産酵母の分布、4-VG非生産株の4-VG非生産の遺伝的要因の知見はほとんどない。本研究では野生酵母における4-VG生産能の分布と4-VG非生産の遺伝学的要因の解明を目指した。
【結果・考察】自然界由来野生酵母59株と東京農大菌株保存室から分譲された醪由来酵母と花酵母24株の4-VG生産能を観察したところ、31株が非生産株であり、野生酵母由来は7株のみであった。Pad1p/Fdc1pは桂皮酸の脱炭酸反応も触媒することから、4-VG非生産株の桂皮酸感受性を観察したところ、全ての株が感受性を示した。このことから4-VG非生産株は自然界で植物樹皮由来桂皮酸の毒性回避能を欠損していることが考えられた。一方、4-VG非生産株31株のうち3株はK7株同様、Fdc1pにナンセンス変異をもち、これら株は清酒酵母グループに属していた。またFdc1pが正常な株由来PFDC1–FDC1の機能を観察したところ、BY4741 fdc1Δ株の4-VG生産を相補できない4株が存在し、共にPFDC1に−354G>Tの変異があった。またPFDC1-FDC1が正常な4-VG非生産株は、Pad1pに失活を伴う変異はみられなかった。しかし、これら株にはpad1Δ株の4-VG生産能を相補できないPPAD1-PAD1をもつ株もあった。以上、桂皮酸にさらされる環境下から単離される野生酵母は4-VG生産能を持つ可能性が高く、また野生株の4-VG非生産の遺伝的要因は多様であることが示された。
独立行政法人酒類総合研究所 伊豆 英恵(いず はなえ)
●はじめに
赤ワイン含有成分であるポリフェノールなどの機能性は世界中で広く研究されている。一方、清酒醸造では、米を原料として麹菌と酵母によって多様な物質が産生されるが、清酒成分や副産物である酒粕で機能性の検討が少なかったため、これに取り組んだ。
●清酒成分および清酒酵母による肝障害抑制
清酒消費量が多い地域で肝硬変による死亡率が低いことを示す疫学研究があり、清酒の肝保護作用が言われていた。マウスを用いたガラクトサミンによる薬剤性肝障害モデルで検討し、清酒濃縮物および清酒特異的な糖成分α-エチルグルコシドが炎症性サイトカインIL-6産生抑制を介し、肝障害抑制効果を示すことを明らかにした。ビール酵母の健康効果が明らかにされ、活用されている。清酒酵母も活用が期待されるため、マウスで急性アルコール性肝障害への影響を調べ、清酒酵母がエタノールによる肝臓S-アデノシルメチオニン(SAM)減少および血漿ホモシステイン増加を抑制し、急性アルコール性肝障害を抑制することを示した。
●清酒に含まれるGABA様物質の探索
酒類の主成分であるエタノールは脳の神経細胞に存在する様々な神経受容体活性に影響を与える。抑制性神経伝達物質GABAの結合によってGABAA受容体応答が生じ、エタノールはその応答を亢進して、抗不安、鎮静、催眠等の影響が生じる。ビールやウイスキー成分によるGABAA受容体活性の亢進が報告されており、清酒中のGABA様物質について検討し、有機酸画分に含まれる13成分がGABA様物質として機能しうることを示した。
●酒粕の健康効果
酒粕には、米由来成分、麹や清酒酵母の細胞成分および代謝産物が含まれている。酒粕の機能性成分への乾熱乾燥(HD)または凍結乾燥(FD)の影響を検討した。HDとFDでビタミンB6、コリン、ベタイン、ニコチン酸、β-グルカン、レジスタントプロテイン含量に違いはなかったが、FDにSAMが多く、HDに核酸関連成分が多かった。酒粕は認知機能に有益な機能性成分を豊富に含むため、高齢者の認知機能に対する酒粕摂取の影響を調べ、限定的であるが、良い影響があることを確認した。
略歴
平成 7年3月 山口大学大学院農学研究科農芸化学 専攻修了、修士(農学)
平成10年3月 鳥取大学大学院連合農学研究科修了、博士(農学)
平成10年4月 日本学術振興会特別研究員(PD)
平成13年3月 山口大学大学院医学研究科助手
平成16年1月 独立行政法人酒類総合研究所、現在、主任研究員
受賞歴
平成24年 2012年度日本農芸化学会中四国支部会 奨励賞
平成28年 第1回AROMA RESEARCH論文賞2015
ヤマサ醤油株式会社(現福島大学) 渡部 潤
ヤマサ醤油株式会社(現秋田県総合食品研究センター) 上原健二
ヤマサ醤油株式会社 茂木喜信
はじめに
醤油の主発酵酵母である、Zygosaccharomyces rouxiiはもろみ中でエタノール生産や各種香気成分生産を担っており、醤油醸造において最も重要な酵母である。1970年代におけるMoriらの活発な研究により、醤油酵母は醤油や味噌中で安定な一倍体として栄養増殖し、異なる接合型を持つ株同士の接合により二倍体となった後、胞子形成を経て、一倍体に戻ることが確認された1)。ところが近年、味噌や醤油から単離された株が異質二倍体、つまり異なる種同士の接合により生じた二倍体、であることを示唆するデータが蓄積されてきた。そこで、本研究では醤油から単離された株のゲノム解析を実施し、醤油の主発酵酵母のライフサイクルを再定義することを試みた。
主発酵酵母のゲノムと異質一倍体の発見
主発酵酵母のゲノム解析の結果、醤油諸味から単離されたNBRC 110957株は、一倍体の基準株CBS 732株の約2倍のゲノムサイズを有し、CBS 732のゲノムとほぼ100%相同なT-サブゲノムと、80-90%相同なP-サブゲノムから構成されることが確認され、異質二倍体であることが示された2)。また、NBRC 1876株のゲノムが他のグループから報告されたが3,4)、この株もNBRC 110957株と同様に異質二倍体であった。通常、二倍体は接合型がa/αであり、接合能は有さないが、Moriらにより接合することが実験的に確認されている。そこで、異質二倍体でありながら接合能を有する理由を明らかにするため、接合に関与する遺伝子座に着目して解析を行った。その結果、これらの異質二倍体の株はmating-type like(MTL)遺伝子座を6つ有していることが明らかになった。MTL遺伝子座間には染色体の相互転座の痕跡が認められたが、コードされる遺伝子には機能喪失につながるような変異や欠損は認められなかった。詳細な解析の結果、6つのMTL遺伝子座の中で接合型を支配する1つの遺伝子座、すなわちmating-type(MAT)遺伝子座が特定された。 さらに筆者らは中国の天津において醤油諸味から採取され、Candida versatilisと誤同定されていた株が異質二倍体に由来する異質一倍体であることを見出した。この株はゲノムサイズが一倍体の基準株CBS732株と同程度であるが、異質二倍体のT︲サブゲノムとP︲サブゲノムに由来する配列から構成されていた5)。
まとめ
本研究により、醤油の主発酵酵母のライフサイクルが明確になり、極めて低い頻度であると思われるが、
異質二倍体から異質一倍体が生じ得ることが示された。今後、これらの情報を元に、主発酵酵母の育種が活発になることが期待される。
参考文献
1) Mori, H.: J.Ferment.Technol., 51, 379-392 (1973)
2) Watanabe et al.: Appl.Environ.Microbiol., 83, e01187-17 (2017)
3) Sato et al.: GenomeAnnounc., 5, e01610-16 (2017)
4) Ogata et al.: J.Gen.Appl.Microbiol., 64, 127-135 (2018)5) Watanabe et al.: Appl.Environ.Microbiol., 84, e01845-17 (2018)
5) Watanabe et al.: Appl. Environ. Microbiol., 84, e01845-17 (2018)
略歴
氏名:渡部 潤(わたなべ じゅん)
<現所属>福島大学食農学類
<生年月日>昭和54年10月12日生まれ
<略歴>平成16年新潟大学大学院博士前期課程修了、同年ヤマサ醤油株式会社入社、同年から平成18年まで独立行政法人酒類総合研究所派遣、平成23年新潟 大学大学院博士後期課程修了、平成30年ヤマサ醤油株式会社醤油研究室長、令和2年福島大学食農学類准教授、現在に至る
<抱負>醤油醸造に関与する微生物の研究を極めたい。
氏名:上原 健二(うえはら けんじ)
<現所属>秋田県総合食品研究センター 醸造試験場 発酵食品グループ
<生年月日>昭和58年11月9日生まれ
<略歴>平成19年東北大学農学部応用生物化学科卒、 21年東北大学大学院農学研究科修了、21年ヤマサ醤油株式会社入社、28年秋田県総合食品研究センター 入所、現在に至る
<抱負>秘めた微生物の力をもっと発掘したい。
氏名:茂木 喜信(もぎ よしのぶ)
<現所属>ヤマサ醤油株式会社 製造本部 醸造部
<生年月日>昭和42年11月21日生まれ
<略歴>平成4年3月 茨城大学大学院農学研究科修了、平成4年4月 ヤマサ醤油株式会社入社、平成30 年4月 ヤマサ醤油株式会社 醸造部長、現在に至る
<抱負>醤油の将来のあり方を考える一助となるような何かを発信できるよう、今後も業界の一員として微力を尽くしたい。
眞岸範浩・古林万木夫・谷内昇一郎* (ヒガシマル醤油株式会社・研究所、*高槻病院・小児科)
醤油は大豆と小麦を主原料とし、麹菌、乳酸菌、酵母による発酵により特有の味わいや風味を醸し出す日本の伝統的な醸造調味料である。昔から「一麹、二櫂、三火入れ」と言われ、原料の分解に必要な酵素群を麹菌に生産させる製麹工程、麹菌酵素による原料の分解と香りなどの風味を醸し出す乳酸菌・酵母の発酵に関わる諸味工程、そして麹菌酵素の失活や酵母などの殺菌と同時に色や香りを整える火入れ工程は醤油の品質を左右する重要な工程とされている。主要な食物アレルゲンの内、大豆は特定原材料に準ずる20品目の1つとしてアレルゲン表示が推奨され、小麦は特定原材料7品目の1つとしてアレルゲン表示が義務化されている。醤油のアレルゲン研究において、小麦アレルギー患者の血清を用いた研究により小麦アレルゲンが諸味中で完全に分解されることが報告されている。一方、ウサギ由来大豆特異的抗体を用いた研究では、大豆由来タンパク質は麹菌酵素による分解を受けるものの諸味中では完全には分解されず生揚醤油に残存すること、生揚醤油に残存する大豆タンパク質は火入れ・ろ過により除去されることが報告されている。本研究では大豆アレルゲン患者の血清を用いたウエスタン解析により、醤油醸造における大豆アレルゲンの分解除去機構を詳細に解析した。その結果、大豆アレルゲンは諸味中で完全には分解されず生揚醤油に残存し、生揚醤油に残存する大豆アレルゲンは火入れにより熱変性を受けて火入れオリとして不溶化し、不溶化した大豆アレルゲンがろ過により完全に除去されることで、最終的に火入れ醤油から大豆アレルゲンが不検出となった。また、市販醤油中の大豆アレルゲンの残存を調べたところ、火入れ醤油では、既報の通り大豆アレルゲンが検出されなかったが、一部の生醤油では大豆アレルゲンが検出された。これらの結果より、麹菌酵素は小麦タンパク質よりも大豆タンパク質を分解しにくく、大豆アレルゲンの分解除去には麹菌酵素による分解と共に、火入れ、かつ清澄工程が重要であり、火入れ工程は醤油の品質だけでなく、醤油の低アレルゲン性においても重要な工程であることが示唆された。
略歴
氏名:眞岸 範浩(まぎしのりひろ)
<現所属>ヒガシマル醤油株式会社研究所醸造開発課
<生年月日>昭和49年4月10日生まれ
<略歴>平成11年大阪大学大学院工学研究科卒、同年ヒガシマル醤油株式会社入社、
平成26年ヒガシマル醤油株式会社研究所醸造開発課課長、
平成28年博士(農学)京都大学(論文博士)、現在に至る
<抱負>醤油醸造における各工程の意義や醤油の新しい価値についてもっと追究したい
氏名:古林 万木夫(こばやし まきお)
<現所属>ヒガシマル醤油株式会社研究所
<生年月日>昭和40年12月9日生まれ
<略歴>昭和63年広島大学工学部発酵工学科卒業、
平成5年同大学院工学研究科工業化学専攻博士課程修了(工学博士)、
平成24年ヒガシマル醤油株式会社研究所長、
平成26年同取締役研究所長、現在に至る
<抱負>発酵食品の魅力を探索していきたい(料理とお酒と食文化の関係を明らかにする)。
氏名:谷内 昇一郎(たにうち しょういちろう)
<現所属>社会医療法人愛仁会高槻病院小児科部長
<生年月日>昭和28年6月27日生まれ
<略歴>昭和54年、日本医科大学卒業,関西医科大学小児科入局。
平成18年、関西医科大学付属滝井病院小児科教授
平成26年、関西医科大学付属枚方病院 小児アレルギー科科長 小児科教授
平成28年 関西医科大学香里病院 小児科部長 小児科教授
平成29年 社会医療法人愛仁会高槻病院小児科部長
<抱負>食物アレルギーの発症の機序の解明と治療法の開発に今後も取り組みたい。
山梨県産業技術センター・ワイン技術部 恩田 匠
近年,国内外で,スパークリングワインが人気となり,その消費量が伸びている.特に,最も伝統的で本格的な製法である「瓶内二次発酵法」によるものが注目されている.一方で,我が国では,本伝統製法についての技術的な知見は乏しかった.そこで,まずはフランスにおけるシャンパーニュ製造についての現地調査を行い,詳細な製造方法を明らかにした.次に,シャンパーニュ製造の推奨法に基づいた,スパークリングワインの製造実証試験を実施した.研究には,山梨県の主要品種である‘甲州’と,比較対象とした‘シャルドネ’を原料ブドウとして供試した.シャンパーニュ製造では,適切な収穫時期の判定が重要であるとされており,本研究においても,収穫時期を変えたブドウ原料からの製成試験を繰り返した.二次発酵の原料となるワイン醸造工程においては,完全なマロラクティック発酵の達成が重要であることから,コイノキュレーション法によるアルコール発酵とリンゴ酸の除去のための発酵管理技術を確立した.また,瓶内二次発酵工程において重要な酵母種の調製方法と,二次発酵条件の検証を行い,安定した瓶内発酵を達成するための手法を明らかにした.各製造工程においては,詳細な成分分析を行い,その推移を明らかにした.この成分推移の解析から,特に有機酸類の減少の傾向を把握することが重要であることが分かった.さらに,カルボキシメチルセルロースの利用が酒石の安定化に有効であることも確認した.以上の検討から,安定的に一定以上の品質を保持した,日本のスパークリングワインの製造法を確立した.‘甲州’を原料としたスパークリングワイン製成においては,‘シャルドネ’の場合と異なる知見も多く見受けられ,独自の製成方法の確立が望まれた.今後も,日本のスパークリングワイン製造現場に,本研究によって得られた成果の技術普及を行って行きたい.
[論文]1)食品工業,56,39-50(2013),2)日醸協誌,109,168-180(2014),3)日醸協誌,111,266-301(2016),4)日醸協誌,111,712-727(2016),5)日醸協誌,113,212-225(2018),6)日醸協誌,113,296-307(2018),7)日ブドウワイン誌,26,5-9(2015),8)山梨県葡萄酒製造マニュアル,p.60-71(2016),9)日ブドウワイン誌,28,3-7(2017),10)日醸協誌,112,836841(2017),11)日醸協誌,113,573-576(2018),12)日醸協誌,114,281-286(2019),13)日醸協誌,114,457-461(2019),14)日ブドウワイン誌,31,15-20(2020)
略歴
氏名:恩田 匠(おんだ たくみ)
<生年月日>昭和42年8月27日
<現所属>山梨県産業技術センター・ワイン技術部
<略歴>平成4年3月 東京農業大学大学院 農学研究科 博士前期課程修了
同年4月 山梨県庁入庁 山梨県工業技術センター配属
平成15年3月 山梨大学大学院工学研究科博士後期課程修了 博士(工学)
平成20年4月 山梨県工業技術センター支所ワインセンター 研究員
平成22年4月 山梨県工業技術センター支所ワインセンター 主任研究員
平成25年4月 山梨県工業技術センター支所ワインセンター 支所長
平成29年4月 山梨県産業技術センターワイン技術部 部長
現在に至る.
<抱負>山梨県産業技術センターの研究成果を日本ワインの品質向上に役立てたい.
本研究の一部は農研機構生研支援センター「革新的技術開発・緊急展開事業」の支援を受けて行った.
●日本醸造協会技術賞受賞者選考委員(敬称略)
〈技術賞〉 石川雄章,宇都宮仁,小熊哲哉,小幡孝之,後藤奈美,近藤洋大,木崎康造
○楠本憲一、曲山幸生 (農研機構食品研究部門)
【目的】発酵食品データベースは、発酵食品の研究開発、生産、流通、教育の関係者が発酵食品の情報を簡便に収集するためのポータルサイトを提供することを目的として開発した。発表者らは2018年度本学会大会において「発酵食品データベースの構築」と題して、本データベースの構築目的とその内容について紹介し、公開予定であることを発表した。その後、2019年3月に当データベースを公開(https://ffdb-web.dc.affrc.go.jp/)した。本発表では、当データベースの閲覧数について、アクセスログの解析結果からアクセス動向を分析した結果を紹介する。併せて、データベース使用法と使用時の注意点についても解説する。
【方法】下記の環境でシステム開発をおこなった。
DBサーバ:PostgreSQL、Webサーバ:Apache+PHPみそ文化誌、納豆沿革史、関係原著論文等をもとに登録作業をおこなった。アクセス動向の解析については、アクセスログをサーバからダウンロードして、別途作成したエクセルマクロを用いて実施した。
【結果】公開直後2週間の閲覧数は2685件であったが、その後2019年10月の時点で14,000件以上、本年3月29日の時点で21,972件に達した。また、曜日別のアクセス数を解析した結果、平日の訪問数が休日よりも多いことがわかった。このことは、本データベースが業務の中で使用され、企業などが発酵食品の情報収集を目的として使用していると考えられた。さらに、アクセス数の高い月の詳細情報を調べた結果、各種展示会や学会、研究会で本データベースの紹介や使用法などを説明した日時にアクセス数が増大した。この現象と平日利用数増大の関連は不明である。
○柳田茉子 1, 山川達也 2,中嶋唯人 2,久保田和樹 2,中島徹也 2,小林尭矢 2,尾関健二 1,2 (1金工大院・ゲノム研, 2金工大・ゲノム研)
【背景・目的】エチルα-D-グルコシド(α-EG)は、日本酒などに含まれる速効性の甘さと遅効性の苦みのある呈味成分である。近年では、肌質改善効果がある機能性成分して知られている。ヒト飲用試験によるコラーゲンスコアへの有効濃度を検証した結果、α-EG濃度0.8%の純米酒を40mL(320mg/日)を2週間継続することで、コラーゲン密度を有意に上昇させ、低濃度で線維芽細胞に蓄積して継続することで効果が認められた1)。また、日本酒や酒粕をスターターとする米酢や醸造酢には酢酸が含まれており機能性成分として注目されている。酢酸には、血中脂質濃度の改善作用があるとされ、12週間の15mLの酢(750mgの酢酸)摂取群及びプラセボ群における比較で、摂取後の総コレステロール値とトリグリセリド値の有意な低下が報告されている2)。そこで、本研究室で条件確立したα-EG純米酒を用いて、α-EGと酢酸の有効量を摂取できるドリンク酢の開発を目的とした。
【方法・結果】清酒仕込みには、α化米、清酒麹米(精米60%)、きょうかい酵母9号を使用した。さらに酵素剤を加え、15℃で小仕込みを行った。終了後、醪と上清を遠心分離してHPLC分析を行った結果、α-EG:3.2%,Ethanol:17.0%であった。これを用いて、酢酸発酵を行った。酢酸菌には、きょうかい酢酸菌7号を使用し、バッフルフラスコで振盪培養させた。結果として、発酵後のEthanol濃度は、0.1%以下となり、酢酸発酵前後でのα-EGの消長は確認できなかった。本研究によって、α-EGが資化されないドリンク酢を発酵生産ができ、発酵時間と種酢の添加量を調節する事で、酸味を抑えたドリンク酢の作製が可能であった。
1)三井雅紀ら:日本生物工学会2018年度大会講演要旨集,2Cp08(2018)
2)Kondo T., et al., Biosci. Biotechnol.Biochem., 73, 1837(2009)
○高橋雅弥, 笹村昂平, 佐野友希, 横山春花, 吉田知華, 町田雅之, 尾関健二, 川合史晃*, 栗本将太*, 見屋井大輔*, 中村雅彦* (金工大・ゲノム研, *:厚生産業株式会社)
【目的】甘酒や酒粕、米などにはヒトの小腸内で消化吸収されにくい機能を持つResistant Protein(RP)が含まれている。RPを含む酒粕発酵物を摂取することで肌のキメや便通改善、コレステロール低下などの効果を示すことが明らかになっている。RPを高含有した米麹甘酒を用いてヒト試験による角質水分量への影響と腸内細菌叢への影響を検討した。
【方法】米麴甘酒1日125mL(RP含有量109mg)を4週間飲用(平均年齢22歳,男性3名女性3名)し、週間単位で両前腕の角質水分量を測定(Corneometer CM825)した。また、RP高含有甘酒1日125mL(RP含有量565mg)・4週間飲用(平均年齢22歳,男性3名女性3名)と、RP高含有甘酒1日125mL(RP含有量406mg)・4週間飲用(平均年齢23歳,男性4名女性2名)、RP高含有甘酒1日125mL(RP含有量247mg)・4週間飲用(平均年齢23歳,男性4名女性2名)を同様に測定した。腸内細菌叢への影響については20-50代男女25名にRP高含有甘酒125mL(RP含有量247mg)を30日間飲用し、Mykinso Pro(腸内細菌叢測定キット)を用いて、飲用前後で短鎖脂肪酸生産菌の占有率を測定した。
【結果】通常の米麴甘酒の飲用においては、角質水分量の上昇は見られなかった。RP高含有甘酒(RP含有量565mgと406mg)では角質水分量に有意差があり、RP高含有甘酒(RP含有量247mg)では、1週目で6ポイント増加し、速効性が見られた。また、5週目でも6ポイントと、持続性が見られた。さらに、RP高含有甘酒(RP含有量247mg/125mL)の飲用前と後で、腸内の酪酸産生菌とFaecalibacterium属の占有率がそれぞれ12.9%から14.9%、6.8%から8.2%と増加した。甘酒中のRPによって腸内の酪酸生産菌が増加したことで、腸のバリア機能が高まり、肌の角質水分量に影響を与えた可能性が考えられる。
○勝山 聡¹、望月玲於²、鈴木雅博¹、黒瀬智英子¹、髙木啓詞¹、岩原健二¹
(¹静岡県工業技術研究所 沼津工業技術支援センター、²静岡県工業技術研究所)
①目的:サワービールは、酸味を特徴としたビールで、ベルギーのランビック等が代表的である。近年、国内中小ビール製造場においても市販乳酸菌の添加等によって製造したサワービールが商品化されているが、自然界等から分離した微生物を製造に用いた例はほとんどない。そこで本研究では、県内分離微生物のサワービール醸造特性を明らかにするとともに、地域性を付与した安定的なサワービール製造技術の開発を目的に、分離株等の選抜・育種及びそれらを用いた試験醸造を行った。
②方法:乳酸菌は、既報1)に続き県内分離株98株を用い、ホップ無添加麦汁中における乳酸生成量を測定した。酵母は、既存の県産ビール酵母NMZ-0688の麦汁発酵能強化を目的に、当該株を0.05%2-デオキシグルコース(以下、2-DG)含有マルトース培地に塗布し、検出コロニーを2-DG耐性株として取得した。また、この耐性株について0.0~0.5%乳酸含有麦汁(苦味価約16)中でのアルコール生成量を対照株(London Ale Ⅲ、Wyeast社)と比較評価した。試験醸造は、これら選抜乳酸菌及び酵母の組合せ等を変え、ケトルサワーリング法にて2.5L規模で行い、製成酒の成分分析及び官能評価を行った。
③結果:供試乳酸菌による麦汁中の乳酸生成量は、約100~7,000ppmまで多様で、同一属種でも株間に差があった。そのため、良好な乳酸生成を示した3属種4株を選抜した。酵母は、NMZ-0688の2-DG耐性株NMZ-1242を取得し、麦汁発酵能の強化を確認した。また、このNMZ-1242は、0.5%乳酸含有麦汁中のアルコール生成が対照株よりも良好でサワービール製造に適した株であった。これら選抜乳酸菌4株と酵母2株(NMZ-1242及び対照株)の組合せ等を変え試験醸造した製成酒10点について官能評価を行ったところ、使用した乳酸菌と酵母の組合せによって評価に差が生じた。
1)望月ら:静岡県工業技術研究所研究報告,12,59-60(2019).
〇佐藤憲亮、小松正和、恩田匠 (山梨県産業技術センター)
①目的
近年,世界のワイン市場では亜硫酸などの添加物を極力使用しない,いわゆる「自然派」ワインが話題に上ることが多くなっている.本邦においても乾燥酵母を使用しない「自然発酵」を行うワイナリーも増加している.一方で,これらのワインでは,環境中の様々な微生物の影響により,オフフレーバーが生成するなど,酒質が劣化した例も散見される.本研究では,「自然発酵」もろみ中の菌叢が,発酵経過とともに,どのように変化するか検討した.また製成ワインの成分分析を行い,菌叢の違いがワイン品質に与える影響を解析した.
②方法
令和元年度に北杜市および甲州市で異なる時期に収穫された‘甲州’を用いて,乾燥酵母を添加しない「自然発酵」試験を行った.ブドウを圧搾後,補糖および発酵助剤を添加し,果汁を調製した.この果汁を2つに分割し,亜硫酸添加試験区と無添加試験区を設定し,それぞれ18℃一定で発酵を促した.発酵期間中,経時的にサンプルを取得し,酵母菌および乳酸菌の生菌数の推移を調べた.また無添加試験区においては,初発(Alc.0%),発酵初期(Alc.3~6%),発酵中期(Alc.6~8%)にサンプルを取得し,アンプリコン・シーケンスを用いた菌叢解析を行った.また,製成ワインの成分分析を行った.
③結果
無添加試験区の菌叢解析の結果,発酵前の果汁には様々な糸状菌や酵母が存在することがわかった.アルコール発酵の進行に従って,S. cerevisiaeやHanseniaspora属酵母が優位となったが,それらの酵母のアルコール耐性に起因することが考えられた.また製成ワインの成分分析の結果から,無添加試験区において,pHの上昇や揮発酸が増加することがわかった.以上のことから,「自然発酵」によるワイン製成は,オフフレーバーの生成による,品質低下のリスクが高いことが示唆された.
○眞榮田麻友美 1,2,上地敬子 2,平良東紀 1,2 (1鹿児島大学大学院連合農学研究科,2琉球大学農学部)
【目的】泡盛古酒の特徴香バニリンは,原料米中のフェルラ酸(FA)が醸造中に4-ビニルグアヤコール(4-VG)へ変換され,貯蔵中に非酵素的酸化によって生成される。FAから4-VGへの変換については,これまでに黒麹菌Aspergillus luchuensisのフェノール酸脱炭酸酵素(AlPAD)が主要因であることを,alpad破壊株を用いて明らかにしている。今回は,4-VGが醸造中のどの工程で生成されているのかを詳細に調べた。また,蒸留時の熱によるFAから4-VGへの変換量についても調べた。
【方法】A. luchuensis var. awamori ISH1株またはそのalpad破壊株(Δalpad)を用いて,インディカ精白米を原料に30,42,54または66時間製麹を行った。次に,得られた麹で仕込んだモロミを2週間発酵させた後,簡易蒸留器を用いて蒸留し,アルコール濃度10%(w/w)まで採取した。モロミ中でのFAから4-VGへの変換活性(FA脱炭酸活性:FAD活性)を調べるために,仕込んだモロミに対し,一定時間毎に1mMFAを添加し,その後のモロミ中のFAおよび4-VG量の増減を調べた。蒸留時の熱による4-VG生成への影響を調べるために,alpad破壊株で仕込んだモロミにFAを一定量添加した後,蒸留を行いモロミ中および蒸留液中の4-VG量を定量した。
【結果】麹無細胞抽出液のFAD酵素活性は,製麹時間に伴い増加したが,麹中の4-VG量は最大で麹100gあたり0.1µmolであった。一方,同麹で仕込んだモロミ中の4-VG量は,仕込み24,48および72時間後で12.4,14.7および17.6µmolであった。AlPADは菌体内酵素であるためモロミ中で黒麹菌が代謝をしていることが示唆された。モロミへのFA添加試験により,黒麹菌は仕込み開始から少なくとも48時間はFAD活性を示すことが分かった。また,蒸留時の熱によって生成し蒸留液に移行する4-VG量は僅か(寄与率2-3%)で,改めて泡盛醸造中の4-VG生成においてAlPADが主要因(88-94%)であることが確認された。
○長船 行雄,利田 賢次,韓 錦順,磯谷 敦子,向井 伸彦(酒類総合研究所)
【目的】当所では、本格焼酎・泡盛の官能評価の体系化を目的として、これまでに香気成分の閾値調査や香気寄与度の検討、香気成分の分類試験を行ってきた。その結果を基に、本格焼酎・泡盛の標準見本として32種類の標準見本候補物質を設定した1)。当該標準見本候補物質について、多くの本格焼酎・泡盛の官能評価の専門家による評価を受けることで、設定濃度や対応する評価用語の妥当性について検証することとした。
【方法】試験方法については、清酒の標準見本候補物質を選定する上で宇都宮らが実施した手法2)を参考とした。評価者は本格焼酎又は泡盛の官能評価経験が3年以上ある者とし、県公設試、大学、焼酎製造場及び国税局(国税事務所)などの機関に所属する者が参加した。
標準見本候補物質を用いた香気特性による分類試験の結果1)を参考に、一部の化合物は濃度を見直した上で、各候補物質を添加した32種類の試料(25%(v/v)エタノール溶液)及び対照(同濃度のエタノール溶液)を各機関へ提供した。各機関では、通常、官能評価を行っている場所及び環境にて試験を実施してもらった。評価容器は各人専用の210ml容プラカップとし、試料容量は約45mlとした。
【結果】候補物質を添加した試料と対照との間で差があると回答した者の割合(検知率)、当該物質の香りを本格焼酎・泡盛中に感じたことがあると回答した者の割合(経験率)及び香り表現について集計した。以上より、本格焼酎・泡盛フレーバーホイール作成のための基盤的な知見を得た。
1)長船行雄ら:醸協,(印刷中)
2)宇都宮仁ら:醸協, 105(2), 106-115 (2010)
○岡崎 直人、稲橋 正明、中原 克己、蓮田 寛和、武藤 貴史、下飯 仁、木崎 康造、平田 大 1,3、奥田 将生 2,3
((公財)日本醸造協会、1新潟大学、2(独法)酒類総合研究所、3酒米研究会)
【目的】(公財)日本醸造協会主催の杜氏セミナーは全国新酒鑑評会への出品の参考とするために実施しており、本報告では、平成20年~平成31年の12年に亘る全出品酒について、酒米研究会から発表されている全国統一分析結果から、該当する品種の分析値と杜氏セミナーの分析結果を統合して12年間の酒質の傾向を知ることを目的とした。
【方法】製造事績として、精米歩合、醪日数等、出品酒の一般成分としてアルコール、日本酒度、酸度、グルコース等、香気成分として)、酢酸エチル、酢酸イソアミル、カプロン酸エチル等、官能評価値として総合評価、香欠点指摘数、味欠点指摘数を、全出品酒923点の86%が「山田錦」であったことから酒造原料米品種を「山田錦」と見なし、出品酒の製造年度に当たる「山田錦」の千粒重、精米歩合、吸水性、消化性Brix、F−N、粗蛋白等の各平均値を抽出し、相関分析、主成分分析、因子分析、パーティション分析、クラスター分析を実施した。
【結果】
1.酒米分析結果を踏まえた出品酒生産年度の特徴として、消化性Brixが出品酒のグルコースと極めて高い正の、火入れまでの日数、アルコール、日本酒度等の発酵経過に関する項目と高い負の相関関係が認められ、また、グルコースと総合評価の間に相関関係が認められグルコース濃度が高いと総合評価は良好であった。
2.相関行列から出発した因子分析の結果、バリマックス回転後の因子1は、原料米の溶解性、醪の発酵性に関し、消化性Brixとグルコースが高く、総合評価が良いことに寄与し、因子2は、イソアミルアルコールが高く、アル添量、酸度が低く、濃さ・きれいさに関する因子と解釈した。この結果は、清酒の味の基本的構造を提案した佐藤ら1)の報告に沿った解釈が可能であった。消化性Brixが出品酒のグルコース濃度や製造条件、延いては生成酒の品質にも大きく影響している結果を踏まえ、ワインのヴィンテージのように、清酒品質に原料米の生産年が反映できる可能性を示している。
1)佐藤信ら:醸恊、69,No.11,771•773(1974)
○栁澤昌臣、渡部貴志、石田一成、吉野 功 (群馬産業技術センター)
①目的
味覚センサーは、人の味覚に近い評価と結果の可視化を行うことが出来るため、清酒に馴染みのない外国人及び国内若年層に向けた地酒のPRに活用できると考えられる。一方、味覚センサーの結果(味覚項目)が、清酒中の成分や官能評価の結果とどのように対応しているかを調べた報告は少ない。そこで本研究では、群馬県の地酒の特徴を消費者に分かりやすく紹介するため、県内外の清酒を集め、味覚センサー分析値・成分分析値・官能評価間の相関を評価した。
②方法
市販酒として販売されている普通酒を中心に群馬県内酒造会社の清酒(群馬の地酒)24点と県外で醸造された清酒(県外酒)33点、計57点を収集し、官能評価及び成分分析に供した。成分分析は、酸度、アミノ酸度、着色度、アルコール分、日本酒度、アミノ酸、有機酸、香気成分、糖類、無機元素の定量を行った。味覚センサーは、味認識装置TS-5000Z(インテリジェントセンサーテクノロジー製)と6つのセンサー(酸味、苦味、渋味、旨味、塩味、甘味)を用いた。
③結果
味覚項目において苦味及び渋味以外の項目では、人の味覚で試料間の味の違いを識別できることが数値として示された。また、各味覚項目とその項目から連想される清酒中の成分や官能評価結果との間に相関関係が確認された。さらに、味巾や熟度などを判断する指標としても味覚センサーが活用できる可能性が示唆された。群馬の地酒は、各味覚項目で様々な数値を示しており、今回の結果からも味のバリエーションに富んでいることがわかった。
④謝辞
松丸克己前関東信越国税局(現大阪国税局)鑑定官室長に市販酒調査会に審査員として参加して頂いた。
〇三木功次郎,安井健太,田中 佑 (奈良工業高等専門学校)
【目的】自己駆動型クーロメトリー1)は、電池と同様に酸化還元電位の差を駆動力として、酸化還元反応によって流れた電気量から目的物質の絶対量を測定する方法である。この自己駆動型クーロメトリーとFADグルコース脱水素酵素(FAD-GDH)を用いたグルコース測定法を開発して、日本酒モロミ中のグルコース測定に応用できた。本研究では、より低コストのグルコース測定法の開発を目指して、グルコースオキシダーゼ(GOD)を用いたグルコース測定を試みた。
【方法】自己駆動型クーロメトリーの測定セルは市販アクリル樹脂製透析セルを加工して作製した。電極にはカーボンフェルトを用い、アノードにはリン酸緩衝液(pH6.0)を含侵させ、カソードには被還元物質となるK3[Fe(CN)6]溶液を含侵させた。試料となるグルコース溶液および酵素反応液(GOD、2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ベンゾキノン(UQ0)、ムタロターゼを含む)をそれぞれ個別にN2ガスで脱酸素したのち,所定量を混合してN2ガスによる脱酸素を行いながら,次に示すGODによる酵素反応を5分間行った。酵素反応終了後の溶液10µLをD-グルコース+UQ0→グルコノ-1,5-ラクトン+UQ0H2自己駆動型クーロメトリーの測定セルのアノードに注入した。GODによるグルコースの酸化反応に伴い生成した還元型UQ0とカソードに含侵した[Fe(CN)6]3-の酸化還元電位の差により、自己駆動により流れた電流をデジタルボルトメーターで測定して、得られた還元型UQ0の物質量からグルコース濃度を求めた。
【結果】酵素反応液のクーロメトリー測定は約3分で終わり、得られたグルコース濃度は吸光度法(グルコースCⅡ-テストワコーを使用)により得られた濃度とよく一致した。また、大吟醸酒のモロミをろ過して、40倍希釈してグルコース測定したところ、吸光度法により得られた濃度とよく一致した。日本酒には本法の測定の妨害となる酸化還元物質は含まれておらず,簡便・迅速・低コストのグルコース測定法として,醸造現場で利用可能と考えられる。
1)内山俊一編、高精度基準分析法クーロメトリーの基礎と応用、学会出版センター、1998
○福田敏之、杉本勇人、進藤昌(秋田県総合食品研究センター)
【目的】
ジアセチルは、ほとんどすべての発酵飲食品の品質を左右する重要な香味成分である。これまで飲料中のジアセチルに関して多くの研究がなされている。しかしながら、「ジアセチル」として測定されているにも関わらず、実際にはその前駆体や同族体も含んでいたりするなど不正確なものが多く、ジアセチルについての正確な知見は乏しい。本研究では新たに開発したジアセチルの分析法を用いて、清酒醸造過程における当該物質およびの関連物質の消長を明らかにする目的で解析を実施した。
【方法】
清酒中のジアセチルの分析は、清酒にジクロロメタンを添加し4℃で溶媒抽出した、後、内部標準を添加しGC-MSにより解析する方法により行った。また、総米40kgでの醸造試験を実施し、ジアセチルとペンタンジオンの消長を解析した。
【結果】
ジアセチルおよびペンタンジオンを0.1ppmの濃度で添加した清酒を用いて添加回収試験を実施したところ、回収率はそれぞれ93%、102%と良好な結果が得られた。また、清酒醸造過程でのジアセチルとペンタンジオンの消長についても定量分析を実施した。さらに、清酒もろみでのジアセチル(DA)とペンタンジオン(PD)の量比DA/PDは0.1~1.0の間にあるのに対して、火落ちした清酒ではDA/PD比が0.1未満になることが明らかとなり、火落ちした清酒の判別にDA/PD比が有効であることが示唆された。
〇上原 智美、佐藤 友紀、進藤 昌〔秋田県総合食品研究センター醸造試験場〕
【目的】酒造工程中に醸造に不必要な微生物が混入することで4-ビニルグアヤコール(4-VG)などのオフフレーバーが発生し、商品価値の低下を招くことがある。我々は、以前より秋田県内の清酒製造場の麹の微生物検査を定期的に行うことで、麹室を中心とした製造場内の衛生環境の改善を支援していた。これまでは製造場内の微生物叢を調べるために培養法を用いていたが、同法は結果が出るまでに時間がかかることやコロニーの形態から微生物を同定するのは困難であることから、PCRを用いた微生物の検出法について検討することとした。
【方法】本県の清酒製造場内の拭き取り検査を実施(約150点)し、寒天培地を用いて培養した。生育したコロニーからダイレクトPCRを行った。プライマーは一般的な16SrDNA検出用(バクテリア)と26SrDNAのD1/D2領域(真菌)検出用を使用した。次に、PCR条件の最適化を行うために、反応系に米麹懸濁液(PCR阻害を想定)を添加/非添加でPCRを行い、ポリメラーゼの評価を行った。さらに米麹を試料として、単離した微生物に特異的なプライマーを設計し、PCRによる検出を試みた。
【結果】県内の製造場内の拭き取り検査の結果から、単離した83点の微生物を同定したところ、その多くはBacillus属やミクロコッカス科のStaphylococcus属およびKocuria属の細菌、または野生酵母であり、これまでの研究と同様の結果であった。PCR条件の検討に用いた5つのポリメラーゼでは増幅効率に最大で2.4倍の差が見られた。また同定結果を基に16SrDNA配列内で特異的なプライマーを設計し、米麹に生育するStaphylococcus属やBacillus属などの検出を行ったところ、定性的な検出は可能であることが分かった。現在は検出限界の設定など詳細な条件検討を行っている。
〇藤原朋子¹,尾形智夫²,黒木克明² (¹広島県立総合技術研究所食品工業技術センター,²前橋工科大学大学院生物工学専攻)
【目的】味噌中のエタノールや香気成分は,耐塩性酵母Zygosaccharomyces rouxii等の発酵により生成されている。品質の安定した味噌を製造する目的で,仕込時に培養した耐塩性酵母の添加が行われている一方,蔵つきの耐塩性酵母を利用した味噌製造も行われている。広島県の酵母資源として活用を図ることを目的に,県内で製造された味噌から分離した蔵つきの耐塩性酵母の特性を明らかにした。
【方法】4製造所の6種類の味噌から分離した32株の耐塩性酵母を供試した。生育特性として,食塩濃度と生育域,生育温度域及び糖類発酵性及び資化性を調査した。また,遺伝的特性として,PCR手法によりZ. rouxiiの基準株グループあるいはハイブリッドグループ(一倍体の基準株グループと近縁種グループとが自然交雑した異質二倍体)の判定1)と接合遺伝子のa型,α型及び基準株グループ(T-サブゲノム)由来か近縁種グループ(P-サブゲノム)由来かを解析2)した。
【結果】食塩濃度と生育pH域(30°C)は,食塩3MでpH3.5~6.5に幅広く生育を示すものと,pH3.5~5.5のみよく生育するものに分かれた。生育温度域(食塩2M,pH5.5)は,15~40°Cで生育するものがほとんどであった。糖類発酵性及び資化性は,ガラクトース,マルトース,スクロース,トレハロースについて,株による違いがみられた。全ての供試株がZ. rouxiiの分類グループを判定するプライマーによりPCR増幅され,基準株グループもハイブリッドグループも存在した。ほとんどの株が分類されたグループ由来のMATaかMATαと解析できたが,MATaの前半部分がP-サブゲノム由来,後半部分がT-サブゲノム由来となっている株があった。
1) Tomoo Ogata et al . : J. Gen. Appl. Microbiol, 64, 127-135(2018)
2) Jun Watanabe et al . : Appl. Environ. Microbiol, 83, e01187-17(2017)
〇塚原正俊 1・阿部峻之 1・塚原恵子 1・渡久地洋平 2・高木博史 3 (1(株)バイオジェット、2(有)神村酒造、3奈良先端科学技術大学院大学)
①背景・目的
沖縄県の伝統的酒類である泡盛は日本で最古の蒸留酒である。泡盛の製造工程の中で蒸留は酒質に大きく影響することから、ウイスキーなどの蒸留法を参考に県内12酒造所による共同開発が進められ、2019年に3回蒸留泡盛「尚」が商品化された。常圧蒸留を3回繰り返すという特徴から、従来の常圧あるいは減圧で蒸留した泡盛との成分バランスの違いに興味が持たれる。本研究では、3回蒸留泡盛の化学分析とともに、本法に適した泡盛酵母を用いた醸造を行った。
②方法
複数銘柄の3回蒸留泡盛とともに、これらの酒造所に対応する常圧蒸留および減圧蒸留で製造した泡盛を試料とした。本法に適した酵母の候補として、育種により開発した泡盛酵母T251)を用い、泡盛の試製は神村酒造の製造スケールにて実施した。また、泡盛香気成分の網羅的分析は、フラッシュGCノーズHERACLESII(Alpha Mos)によって行った
③結果
網羅的な成分分析の結果、各試料の香気成分プロファイルは3回蒸留、常圧蒸留、減圧蒸留で3グループに明確に区別され、さらに3回蒸留泡盛は銘柄間の差異が大きかった。3回蒸留泡盛は、isoamy lacetateおよびethyl butyrateの濃度が高く、2-phenetyl alcoholおよびisoamyl alcoholの濃度が低いこと、さらに濃度が高い香気成分は銘柄間でのばらつきが大きいことが判明した。次に、3回蒸留泡盛の特徴を生かした泡盛醸造条件を検討した。育種したT25株はロイシンを高生産する酵母であり、isoamyl acetateを豊富に含む泡盛醸造が可能である。T25株により3回蒸留泡盛を試製したところ、他の3回蒸留泡盛と比較してisoamyl acetateの濃度が高かった。以上の結果から、T25株は3回蒸留泡盛の特徴を引き出せる酵母であることが示された。T25株を用いた3回蒸留泡盛として「尚KAMIMURA」が商品化された。
1)Abe T. et al.,2019, Front. Genet., 2019. doi:10.3389/fgene.2019.00490
〇磯谷敦子 1、池田優理子 1、藤井力 1,2、中原克己 3、下飯仁 3、井上豊久 4、櫻井崇弘 4、中村稔彦 4(1酒総研、2福島大、3日本醸造協会、4日本盛)
【目的】
酒類総合研究所と日本盛株式会社が共同開発した老香前駆体低生産性酵母mde-D1は、老香の主成分であるジメチルトリスルフィド(DMTS)の前駆体DMTS-P1の生産性が低下した株で、老香の低減に有効である1)。しかし本株は、親株であるK701と比較し、増殖が遅いなど醸造特性に違いがみられ、もろみ管理等に工夫が必要である2)。本株をより多くの製造場で利用していただくため、R1酒造年度は日本醸造協会より酵母の試験販売を行い、製成酒や製造条件に関する情報を収集した。本発表ではその解析結果について報告する。
【方法】
令和2年1~3月に試験販売を行った。酵母を購入した製造場には、製成酒の提供と製造条件等に関するアンケートへの協力を依頼した。また、対照仕込みを行った場合、対照酒についても同様に依頼した。製成酒について、DMTS-P1濃度とDMTS生成ポテンシャル(DMTS-pp、70℃1週間貯蔵後のDMTS量)を測定した。アンケートでは、酵母の培養条件や添加量、酒母・もろみの製造条件、製成酒の一般成分等について回答を求めた。
【結果】
酵母を購入した36社のうち30社から、製成酒とアンケートの回答が得られた。製成酒の分析の結果、mde-D1製成酒のDMTS-P1濃度およびDMTS-ppの平均値は、対照酒の1/10程度であった。mde-D1製成酒36点のうち34点はDMTS-ppが検知閾値(0.18μg/L)以下であり、様々な製造条件においてもDMTSの生成が低レベルに抑えられることが示された。発表ではアンケートの解析結果もあわせて報告する。
1)Makimoto, J. et al, J. Biosci. Bioeng., inpress
2)平成30年度日本醸造学会大会講演要旨集(2018)
奥村真衣 1, 吉村明浩 2, 澤井美伯 2, 正木和夫 2,3, 石井雅之 4, 向田潤 5, 三井亮司 5, 島田昌也 1,4, 早川享志 1,4, ○中川智行 1,4
(1岐阜大院・自然科学, 2岐阜県食科研, 3酒総研, 4岐阜大・応生科, 5岡山理大・理)
【目的】4-ビニルグアイヤコール(4-VG)は、煙・スパイス様の香りをもつことから、清酒のオフフレーバーの一つとされる。きょうかい酵母はフェルラ酸脱炭酸反応を触媒するPad1p/Fdc1pのFDC1ナンセンス突然変異のため4-VGを生産しないが、野生酵母ではしばしば4-VG生産がみられ、清酒醸造の妨げとなっている。しかし、野生酵母における4-VG生産/非生産酵母の分布、4-VG非生産株の4-VG非生産の遺伝的要因の知見はほとんどない。本研究では野生酵母における4-VG生産能の分布と4-VG非生産の遺伝学的要因の解明を目指した。
【結果・考察】自然界由来野生酵母59株と東京農大菌株保存室から分譲された醪由来酵母と花酵母24株の4-VG生産能を観察したところ、31株が非生産株であり、野生酵母由来は7株のみであった。Pad1p/Fdc1pは桂皮酸の脱炭酸反応も触媒することから、4-VG非生産株の桂皮酸感受性を観察したところ、全ての株が感受性を示した。このことから4-VG非生産株は自然界で植物樹皮由来桂皮酸の毒性回避能を欠損していることが考えられた。一方、4-VG非生産株31株のうち3株はK7株同様、Fdc1pにナンセンス変異をもち、これら株は清酒酵母グループに属していた。またFdc1pが正常な株由来PFDC1–FDC1の機能を観察したところ、BY4741 fdc1Δ株の4-VG生産を相補できない4株が存在し、共にPFDC1に−354G>Tの変異があった。またPFDC1-FDC1が正常な4-VG非生産株は、Pad1pに失活を伴う変異はみられなかった。しかし、これら株にはpad1Δ株の4-VG生産能を相補できないPPAD1-PAD1をもつ株もあった。以上、桂皮酸にさらされる環境下から単離される野生酵母は4-VG生産能を持つ可能性が高く、また野生株の4-VG非生産の遺伝的要因は多様であることが示された。
○伊出 健太郎、根来 宏明、小高 敦史、秦 洋二、石田 博樹 (月桂冠株式会社・総合研究所)
【目的】清酒において4-ビニルグアヤコール(4-VG)はオフフレーバーとされ、米に由来するフェルラ酸が脱炭酸されることで生産される。酵母による4-VG生産にはFDC1、PAD1両遺伝子の機能が必要であり、清酒酵母はFDC1に機能欠損変異をホモで有しているため、4-VG非生産となっている。当社の酒蔵の環境中より単離された蔵付き酵母U-01は、小仕込み時に4-VGを生産するものの、味の評価が優れていた。そこで本研究では、U-01の4-VG非生産株を育種することで、香味の優れた清酒を造ることを目的とした。
【方法と結果】U-01のゲノムを解析したところ、7号系酵母とは系統が異なることが確認された。またU-01はFDC1の機能欠損変異をヘテロで有していたことから、機能欠損型FDC1をホモ化することによる4-VG非生産株の育種を試みた。FDC1の近傍に位置し、γ-グルタミルキナーゼをコードするPRO1をターゲットとし、プロリンアナログであるL-アゼチジン-2-カルボン酸(AZC)耐性株を選抜することで、PRO1に巻き込まれる形でFDC1にヘテロ接合性の消失(Loss of Heterozygosity;LOH)が起きた株の取得を目指した。結果、FDC1においてLOHを起こした株を複数取得することができた。ただしこれらの株においてPRO1に変異があったのは1株のみで、残りの株においてはPRO1の変異は見られなかった。PRO1非変異株がどのようにAZC耐性を獲得したのかは現在解析中である。FDC1の機能欠損変異がホモ化した株で小仕込み試験を実施したところ、4-VG非生産となっており、醸造された清酒は特徴的な甘酸っぱい香りや奥行きのある甘味を有していることを確認した。大型スケールでも、同様に特徴ある清酒を醸造することができた。本研究は非・清酒酵母のオフフレーバーのみを排除することで通常の清酒酵母では出すことの難しい香味を実現したものであり、清酒の多様化に資するものと考えられた。
○下飯仁 ¹ ²、前田岳彦 ¹、田中美穂 ¹、相澤みお ¹、山田美和 ¹、末次-佐々木春菜 ³、赤尾健 ³ (¹岩手大学農学部、²公益財団法人日本醸造協会、³独立行政法人酒類総合研究所)
【目的】きょうかい7号系の清酒酵母は,急性のストレスには感受性であるが,高いアルコール発酵力を示すことが知られている。この現象の逆を利用すると,ストレス耐性はあるがアルコール発酵力の低い実験室酵母からストレス感受性変異株を選抜することで,高発酵力変異株を取得することができる。今回,取得した変異株の変異遺伝子を解析したので報告する。
【方法と結果】実験室酵母の一倍体を変異処理して熱ショック感受性株を取得し,それらの清酒小仕込試験を行った。その結果,熱ショック感受性変異株の一部は高いアルコール発酵力を示すことがわかった。高発酵力を示した変異株6株について,遺伝解析を行った結果,5株が劣性であった。劣性の5株について親株と交配し,胞子形成後のセグレガントの形質を調べた。その結果,いずれの株でもストレス感受性とストレス耐性が2:2に分離し,ストレス感受性が1遺伝子に支配されていることがわかった。これらの5株について相補性試験を行った結果,MD10を含む相補群が4株,MD102を含む相補群が1株であった。次に,MD10およびMD102について,Pooled linkage analysisによる変異点の同定を試みた。変異株を親株と戻し交配し,セグレガントをストレス感受性株とストレス耐性株に分けてプールした。全ゲノム解析により,ストレス感受性株プールには存在するが,ストレス耐性株プールには存在しない変異を検索した結果,MD10についてはRasのGAPをコードするIRA1に変異があることがわかった。MD10にIRA1を含むプラスミドを導入すると,ストレス感受性と高発酵性が相補された。また,ira1Δ株はストレス感受性で高発酵性であったが,MD10と交配しても,ストレス感受性も高発酵性も相補されなかった。以上の結果から,MD10はIRA1の変異によってストレス感受性かつ高発酵になったことが明らかとなった。
守興麻理絵 ¹ ²、五島徹也 ¹、岡崎直人 ³、○赤尾健 ¹ ⁴ (1 酒類総合研究所、2 広島大・発酵、3 日本醸造協会、4 広島大院・統合生命)
【目的】今日の清酒酵母菌株の主流は、きょうかい6号(K6、以下同様)、K7、K9、K10及びこれらの派生株である。これらは塩基レベルでは相互に極めて近縁だが、各系統内にも頒布年度や保存機関により、塩基レベルの多様性がある。一方、これまで各系統内の染色体の構造多型に関する知見はない。そこで、K6、K7、K9、K10の各系統の多くの菌株を対象とし、電気泳動核型解析により、染色体の構造多型の実態を調べることとした。
【方法】K6、K7、K9、K10の各系統に属し、頒布年度、保存機関等の異なる約150菌株について、CHEF方式の装置を用いてパルスフィールド電気泳動を行い、核型を観察した。
【結果】各系統の核型を大まかに比較したところ、過去に報告のあるとおり、K10系統には、他の系統にはない特異的なバンドが共通して観察された。また、K6、K7、K9の各系統では、系統を超えて核型の類似性の高い株が存在する一方で、K10も含めた各系統内において、それぞれいくつかの核型の多型が認められ、各系統内に、染色体の構造多型が存在することが示された。醸造協会頒布株では、同名の年度違いの株間でも、醸造特性の傾向が概ね維持されていたこと1)を踏まえると、今回示された系統内での染色体の構造多型は、各系統に特徴的な醸造特性には大きく影響していないと考えられた。これまで核型多型については、菌株の判別への応用が検討されることもあった。しかし今回の結果では、各系統に関し、系統内の一部で見られる特徴的な核型多型を指標として、それを持つ株に限定して系統の推定が可能な場合もあったが、それ以外は系統間の判別が困難なことも多かった。電気泳動核型による系統判別については、他にはない特徴的な核型を有するK10系統の判別以外には、汎用性や精度の面で実用的ではないと考えられた。
1)岡崎直人ら ,醸協 ,113, 515 (2018)
○清野 珠美,和田 潤,廣岡 青央 (京都市産技研)
【目的】京都市産業技術研究所では,京都の酒造業界への技術支援の一環として,昭和30年代から研究所保有清酒酵母の分譲を行っている。さらに近年は,京都市産技研独自で,香味に特徴の出る清酒酵母開発にも取り組んでいる。現在までに「京の琴(こと)」「京の華(はな)」「京の咲(さく)」「京の珀(はく)」,そして「京の(こい)」の5種類が「京都酵母」として実用化されている。個々の酵母の特徴は,実験室レベルでの小仕込試験や分析などにより見出されているが,製品レベルでの詳細な分析比較は行っていなかった。そこで本研究では,「京都酵母」を使用した市販清酒製品の分析・解析を行い,個々の酵母の特徴が市販清酒製品にどの程度現れているかを明らかにすることを目的とした。
【方法】試料は「京都酵母」を使用した市販製品又は実製造規模で試験製造された清酒を用いた。分析項目は,アルコール度数,日本酒度,酸度,アミノ酸度のような清酒の一般的な分析項目に加え,GCによる香気成分,LC-MSによる有機酸,アミノ酸の組成分析を行った。最後に,得られた分析データを用いて主成分分析を行った。
【結果と考察】主成分分析により,同じ清酒酵母を使用した試料のプロットが集約する傾向があり,原料米や仕込規模等が異なる清酒でも,使用した清酒酵母の特徴が表れていることが示唆された。
○栗林喬 ¹、畠山明 ²、浅野宏文 ³、古田悟 ⁴、原崇 ⁵、鈴木一史 ⁵、城斗志夫 ⁵、金桶光起 ⁶、小熊哲哉 ¹、渡邉剛志 ¹ ⁵
(¹新潟食料農業大学、²吉乃川株式会社、³越銘醸株式会社、⁴今代司酒造株式会社、⁵新潟大学農学部、⁶新潟県醸造試験場)
【目的】清酒製造において、清酒酵母は、原料米と麹菌とともに清酒の品質を決定する大きな要因である。現在、一般的な清酒製造に用いられる清酒酵母は、公益財団法人日本醸造協会から配布されているきょうかい酵母である場合が多く、清酒の安全な醸造や高品質化に大きく貢献している。一方で近年、酒類の多様化に伴い、より個性的でブランド力ある清酒製品が重要になるなか、酒造場の酒造道具や作業場内に存在する「蔵付き酵母」を利用することによって、製造者間における差別化を図る試みがなされている。そこで本研究では、以前我々が開発したLoop-mediated Isothermal Amplification(LAMP)法を用いた醸造用酵母の識別法を利用して、清酒製造場より酵母のスクリーニングを行ったところ、既存の清酒酵母とは異なる「蔵付き酵母」を選抜することに成功した。さらに、単離した酵母を用いて清酒製造が可能であったので報告する。
【方法】新潟県内の各酒造場の酒母及び醪から、TTC染色法とK7_02212遺伝子およびPPT1遺伝子を標的とするLAMP法をスクリーニング法として利用し、K7グループ系清酒酵母とは異なる酵母を分離した。さらに、得られた酵母の酸性ホスファターゼ活性の有無、細胞膜表面の疎水度、胞子形成率といった生理学的特徴を解析し、K7グループ以外のきょうかい酵母との差異も調査した。
【結果】本LAMP法を利用することにより、いくつかの酒造場から「蔵付き酵母」を分離することが可能であった。また、一部の酒造場からは、個性的な酒質の清酒が得られる「蔵付き酵母」が単離された1)。26S rDNA解析の結果からSaccharomyces cerevisiaeとして同定され、生理学的特徴も、既存の清酒酵母とは異なることが明らかとなった。この分離株を用いた実地醸造試験の結果、香気と酸味に特徴をもった清酒が得られた。
1)畠山明ら:醸協,115,印刷中(2020)
〇尾形智夫、齋藤美邑、土信田有紀 (前橋工科大学生物工学科)
【目的】4-vinylguaiacol(4-VG)等の揮発性フェノール臭物質は、原料由来のフェノール化合物が、微生物によって変換され生じ、ビール、清酒、ワイン等では、一般に異臭とされる。清酒酵母(1)、ビール酵母(2)、ワイン酵母の多くは、4-VG等を産生しないが、Saccharomyces属や、Dekkera/Brettanomyces属の野生酵母が混入すると4-VG等が産生されることがある。S.cerevisiae野生株は、4-VGを産生するが、その産生能には、PAD1とFDC1遺伝子がともに存在することが必須である(1-2)。本研究は、酵母の揮発性フェノール臭の産生機構を解明することで、酒類の品質向上に寄与することを目的としている。
【方法】4-VG等の産生能は、液体培地にフェルラ酸50μg/mlを添加し、産生した培養上清中の4-VG等をHPLCで測定した。
【結果】実験室酵母S.cerevisiae BY4741のPAD1遺伝子は、大腸菌のユビキチン合成に関与し、フラビンモノヌクレオチド(FMN)のプレニル化する酵素をコードするubiX遺伝子(3)と相同性がある。そこで、実験室酵母S.cerevisie BY4741 Δpad1株に、大腸菌のubiX遺伝子を導入し、4-VG産生能が回復するかを調べた。実験室酵母S.cerevisie BY4741 Δpad1の空ベクター導入株は、4-VGを産生しなかったが、大腸菌のubiX遺伝子を導入した形質転換株では、4-VGが産生された。また、S.cerevisiaeのPAD1遺伝子には、53アミノ酸からなるミトコンドリア移行配列と想定される配列が存在していた。この移行配列を除去したPAD1遺伝子を、実験室酵母S.cerevisieBY4741 Δpad1株で発現させたところ、形質転換株では、4-VGが産生された。
【考察】S.cerevisiaeの野生酵母では、PAD1遺伝子がコードするタンパク質によって、FMNがプレニル化され、これが補酵素となって、FDC1遺伝子がコードする脱炭酸酵素によって、フェルラ酸等が4-VG等、揮発性フェノール臭物質に変換されると推察された。また、この脱炭酸反応は、細胞質でおこなわれていると推察された。
(1)Mukai,N.et al.J. Biosci.Bioeng. Vol.109,564-569(2010)
(2)Ogata,T.et al.J. Am.Soc.Brew.Chem.Vol.78,74-79(2020)
(3)White,W.D.et al. Nature Vol.522,502-506(2015)
○渡部貴志、栁澤昌臣、吉野功 (群馬産業技術センター)
【背景と目的】近年の清酒のニーズは多様化しており、蔵付きの乳酸菌を利用した生酛系酒母造りや、純米酒などの昔ながらの清酒も脚光を浴びている。群馬県では、蔵付きの酵母を利用した清酒造りに取り組む酒造会社や、きょうかい7号(K7)系の優良清酒酵母以前の酵母を使用してみたいという酒造会社もいる。しかしながら、K7系以前に取得された昔の清酒酵母の多くは泡有り酵母しかなく、現在の効率化した酒造りに合わせるためには、清酒酵母の泡無し化が必要となってくる。清酒酵母の高泡形成は、発酵の際に発生する二酸化炭素に吸着する細胞表層タンパク質Awa1pの働きによるものであることが分かっており、すでに泡無し化の手法が開発されている。そこで本研究では、酒類総合研究所や日本醸造協会が分譲可能であり、かつ泡無し株が頒布されていない清酒酵母の網羅的泡無し化を行った。
【方法と結果】RIB0001~RIB0007、K1~K5、K8、K12、K13株、赤色酵母およびピルビン酸低生産性K7株を対象にし、Froth Floatation法による泡無し化を試みた。得られた候補株については、水-ベンゼン混濁による簡易識別法により泡無し候補株を選抜した。総米200gの小仕込み試験により、親株の醸造特性の近い株を選抜した。培地の検討を行ったところ、グルコースが多めであることが、Froth Floatation法で泡有り株を泡に吸着させることに重要であった。酒類総合研究所から分譲されたK2株は泡無し株と判定されたが、それ以外の16の株泡有り酵母については、泡無し株を取得できた。さらに、ピルビン酸低生産性K7の泡無し株については、実地醸造試験を行い、ピルビン酸低生産性を維持していることを確認した。
【謝辞】佐賀大学の北垣教授にピルビン酸低生産性K7を用いた泡無し化研究の許可を頂いた。
○シャロン マリー ガリド,小松夕子,斎藤亮太,織田健,岩下和裕 [酒類研]
【目的】麴菌(Aspergillus oryzae)は機能未知の2次代謝物合成遺伝子クラスター(SMsクラスター)を多数有しており,これらSMsクラスターの機能等については,RIB40株を中心にゲノムレベルでの研究が進んでいる.しかし,醸造産業では多種多様な麴菌株が使用されるため麴菌群全体の安全性評価が必要である.これまでに,当研究室ではゲノムアレイ解析を行い,麴菌株群は13のクラスターに分類されることを明らかにしている.そこで,菌株群全体にわたる評価を目的に各クラスターから1菌株(代表株)ずつ選抜し,精密質量分析により農水省が優先してリスク管理を進めている15のカビ毒の生産性について検討した.
【方法】13代表株について米麴や醤油麴を含む11の条件で培養を行ない,疎水性画分をDI-HRMSを用いて分析を行った.標準品のデータが取得可能だった14のカビ毒と比較し,m/zが一致したものについて,さらにUPLC-QTOF/MSにより分析を行い,溶出時間とm/zによる比較解析を行なった.さらに,必要に応じてMS/MS解析を行なった.
【結果】麴菌株と培養条件の組み合わせによりえられた143サンプルについて,効率的に非生産の組合せを除き,時間短縮するためにDI-HRMS分析を行った.つぎにカビ毒と一致したm/zのピークがみられるサンプルについて,UPLC-QTOF/MSにより解析した結果,13種のカビ毒については生産性が見られなかったが,AflatoxinB2について,全ての菌株で,いずれかの培養条件において,溶出時間が近接し,精密質量数(m/z)が一致するピークが見られた.そこで当該ピークのMS/MSのパターンを取り標準品と比較したところ,麴菌由来のものとは全く一致しなかった.以上の事から,全ての麴菌株において,検討を行った14全てのカビ毒生産は見られず,麴菌群全体としても生産性がないことが強く示唆された.
戴凰凰 ¹、浜島弘史 ²、中村強 ³、柳田晃良 ⁴、西向めぐみ ⁵、光武進 ¹、中山二郎 ⁶、永尾晃治 ¹、○北垣浩志 ¹
(¹ 佐賀大学農学部、²(財)佐賀県地域産業支援センター、³ 福岡女子大学国際文理学部、⁴ 西九州大学健康栄養学部、⁵ 岩手 大学農学部、⁶九州大学大学院)
①目的
血清のLDLコレステロールの増加は心疾患のリスクを上げることから先進国における深刻な健康問題である。血清LDLコレステロールは肝臓で作られ、その抑制にはスタチン系薬剤の投与が有効であることが示されているが、日常的に摂取できる食品素材も有力な選択肢のひとつであり、肝臓コレステロール低下効果のある食品素材を周知することは公衆衛生及び保険財政にとって重要である。これまでに我々は甘酒や酒粕、味噌、塩こうじ、濁り酒など日本の発酵食品の多くに含まれている麹グリコシルセラミドを肥満マウスに摂食させると糞中の胆汁酸が増加し、肝臓の代謝を活性化し、肝臓のコレステロールを低下させる効果があることを見出している1,2)ことから、その肝臓コレステロールを低下させる効果を他の食品素材と比較することを試みた。
②方法
魚介類に多いオメガ3多価不飽和脂肪酸、赤ワインに含まれるレスベラトロール、ビタミンB6、大麦水溶性繊維、こんにゃくに含まれるグルコマンナン、ナマコのグルコシルセラミドなどの肝臓コレステロール低下効果を実験動物を使った研究の文献データから比較した。
③結果
麹グリコシルセラミドの1wt%の3週間給餌は肝臓コレステロールを21%減少させたのに対し、オメガ3多価不飽和脂肪酸を含むオキアミ油の1.25%wt%の8週間給餌は23%減少させ、大麦食物繊維の5wt%の9日給餌は26%減少させた。本大会では、他の食品素材の結果と実験系も含めて肝臓コレステロール低下効果について考察したい。
1)日本醸造学会誌、112,9,655-662(2017)
2)Biosci Biotechnol Biochem 83(8):1514-1522(2019).
〇橘信二郎 ¹、小倉裕太 ¹、為定誠 ²、比嘉悠貴 ²、深見裕之 ² [琉球大学農学部 ¹、小林製薬株式会社中央研究所 ²]
【①目的】烏衣紅曲は、中国の浙江省から福建省の地域で伝統的に黄酒醸造に用いられ、主に黒麹菌、紅麹菌および酵母でつくられる混合培養の散麹である。烏衣紅曲に関する研究は、黒麹菌の単離、菌叢解析、製麹方法から見た歴史的背景についての考察が報告されているが、紅麹菌や紅麹に由来する生物活性に関する報告はない。本研究では、紅麹菌と泡盛黒麹菌を用いて烏衣紅曲のモデルとして複菌麹を調製し、麹の性質について調べた。
【②方法】供試菌株として、黒麹菌にAspergillus luchuensis ISH-1(石川種麹)、紅麹菌にMonascus purpureus NBRC 4478およびM. pilosus NBRC 4502を用いた。インディカ米を18時間水道水に浸漬し、水切り後に121oC、20分間オートクレーブ処理したものを麹原料米として用いた。麹原料米に黒麹菌および紅麹菌をそれぞれ植菌し、30oCで静置培養したものを種麹として用いた。麹原料米に黒麹と紅麹の種麹をそれぞれ任意の量で植菌し、1週間静置培養した。得られた烏衣紅曲検体から抽出液を調製し、糖化力分別定量キットを用いて糖化力を測定した。抗酸化活性は、DPPHラジカル消去活性測定法により測定した。抽出色素の吸収スペクトルと色価は、島津分光光度計(UV-1800)を用いて測定した。紅麹菌由来のシトリニンは、逆相カラムを用いた蛍光HPLC法により測定した。
【③結果】複菌麹は、紅麹菌の種類に関係なく、黒麹単独と同程度の糖化力を示した。黒麹の種麹量は、複菌麹の糖化力に影響しないことが示唆された。複菌麹のDPPHラジカル消去活性は紅麹菌に由来し、M. purpureusで高い活性が観察された。抽出した紅麹色素は、M. purpureusに比べてM. pilosusで高い色価を示し、黒麹の種菌量が少ないことでより高い色価を示した。M. pilosusで調製した麹はシトリニンフリーであることが示唆された。
○池田 萌 ¹、森 一樹 ²、奥津 果優 ¹、吉﨑 由美子 ¹、髙峯 和則 ¹、後藤 正利 ³、玉置 尚徳 ¹、二神 泰基 ¹ (¹鹿児島大学大学院農林水産学研究科、²(株)セルイノベーター、³佐賀大学農学部)
【目的】焼酎製造において、白麹菌は糖質加水分解酵素とクエン酸を高生産する。先行研究において、白麹造りにおける遺伝子発現を解析したところ、仕舞仕事の前後でNAD+依存的ヒストン脱アセチル化酵素をコードするサーチュイン遺伝子の発現が変化していた1)。そこで本研究では、白麹菌の糖質加水分解酵素やクエン酸などの生産におけるサーチュインの役割を明らかにすることを目的とした。
【方法】白麹菌においてサーチュインをコードするsirA、sirB、sirC、sirD、sirEの単独破壊株を構築した。また、sirD破壊株については相補株を構築した。これらの菌株を用いて麹を造り、酸度、α-アミラーゼ活性、グルコアミラーゼ活性、α-グルコシダーゼ活性、分生子形成数の測定を行った。また、麹からRNAを抽出し、CAGE(Cap Analysis Gene Expression)法によるトランスクリプトーム解析を行った。
【結果】白麹菌におけるサーチュイン遺伝子破壊株のうち、sirD破壊株において酸度の低下、α-アミラーゼ活性の低下、および分生子形成数の減少がみられた。次に、トランスクリプトーム解析の結果、sirDの破壊により白麹菌のもつ11488遺伝子のうち、1314が発現上昇し、1590が発現低下したことが示唆された。発現が低下した遺伝子には、クエン酸トランスポーター遺伝子と耐酸性α-アミラーゼ遺伝子が含まれており、酸度とα-アミラーゼ活性が低下した結果と一致した。さらに、sirDの破壊による遺伝子発現の変化2)と、先行研究で取得した麹造りにおける遺伝子発現の変化1)を比較した結果、仕舞仕事の前後における遺伝子発現の変化の約3割にsirDが関与する可能性が示唆された。
1)Futagami et al., Appl. Environ. Microbiol., 2015,81,1353-1363.
2)Miyamoto et al., J. Biosci. Bioeng., 2020,129,454-466.
○山口正晃 ¹、門岡千尋 ²、奥津果優 ¹、吉﨑由美子 ¹、髙峯和則 ¹、片山琢也 ³、丸山潤一 ³、玉置尚徳 ¹、 二神泰基 ¹(¹鹿児島大学大学院農林水産学研究科、²筑波大学生命環境系、³東京大学大学院農学生命科学研究科)
【目的】ゲノム編集技術は、その効率の良さと簡便さから様々な生物種での利用が広がっている。本研究では、白麹菌におけるCRISPR/Cas9システムによるゲノム編集実験系を構築することを目的とした。
【方法】まず、Cas9タンパク質の発現ベクターとして、自己複製配列AMA1、ハイグロマイシン耐性マーカー遺伝子hph、ならびにcas9遺伝子をもつプラスミドpFC3321)を用いた。一方、guideRNA(gRNA)の発現ベクターとして、自己複製配列half AMA1、ピリチアミン耐性マーカー遺伝子ptrAをもち、白麹菌由来のU6プロモーターとU6ターミネーターでgRNAを発現するプラスミドpSG12)を構築した。次に、遺伝子ノックアウト効率を評価するためのターゲットとして分生子形成に必要な転写因子をコードするbrlA、硝酸資化に必要な硝酸還元酵素をコードするniaD、α-アミラーゼをコードするamyAを選択し、pSG1に各ターゲット配列を付加した。pFC322と、pSG1に由来する各gRNA発現ベクターを白麹菌にプロトプラスト-PEG法で同時に導入し、ハイグロマイシンとピリチアミンを含有する培地で形質転換体を選択した。取得した形質転換体の表現型の観察、ならびに各gRNAのターゲット配列のシーケンス解析を行った。
【結果】一度の形質転換あたり平均約6株を取得した。取得した計32株の表現型を観察した結果、全ての株でbrlA、niaD、あるいはamyAのノックアウト株に特徴的な表現型が見られた。また、計16株のシーケンス解析を行った結果、全ての株でターゲット配列に塩基の欠損あるいは挿入が生じていることを確認した。以上のことから、白麹菌におけるゲノム編集実験系を構築できた。
1)Nødvig et al., PLoS One, 2015,10,e0133085.
2)Kadooka, Yamaguchi et al., Biosci. Biotechnol. Biochem., 2020 doi: 10.1080/09168451.2020.1792761.
○片岡涼輔 ¹、渡邉泰祐 ¹ ²、山田修 ³、荻原淳 ¹ ² (¹日大院生資科・生資利用、²日大生資科・生命化、³酒総研)
【目的】泡盛の代表的な香気物質の1つである1-octen-3-olは、泡盛における含有量の高さから、官能特性に影響を与える成分であると考えられているが、その生成機構は未解明である。我々は、最近黒麹菌Aspergillus luchuensisが製麹過程で本化合物を生産すること、その生合成に黒麹菌の脂肪酸オキシゲナーゼAlppoCが必須であることを報告した1)。今回は、3種の脂肪酸オキシゲナーゼAlppoA,AlppoC,AlppoD破壊株を用いた泡盛小仕込み試験を実施し、遺伝子破壊が蒸留液中の1-octen-3-ol含有量に与える影響を評価した。AlppoA,C,D過剰発現株を新たに構築し、遺伝子破壊株とともに麹を調製した。これらの麹における1-octen-3-ol生成量の比較解析から、本化合物の生成機構における各遺伝子の役割を考察した。
【方法】AlppoA,C,Dの塩基配列は、黒麹菌ゲノムデータベースに基づいて取得した。AlppoA,C,D破壊株を用いた泡盛小仕込み試験では、得られた蒸留液における1-octen-3-ol含有量をSPME-GC-MSにより定量した。各遺伝子の過剰発現株は、アグロバクテリウム法を用いて構築した。遺伝子破壊株および過剰発現株を用いて調製した米麹における1-octen-3-ol含有量はGC-MSで評価した。
【結果】AlppoC破壊株を用いて調製した泡盛蒸留液からは1-octen-3-olが検出されなかった。したがって、泡盛中の1-octen-3-olは黒麹菌のAlppoCによって生合成され、製造工程におけるその他の因子が生成に直接関与しないことが示された。一方、AlppoAおよびAlppoD破壊株を用いて調製した蒸留液は、親株の蒸留液よりも1-octen-3-ol含有量が高く、麹の分析結果も同様の傾向を示した。AlppoAおよびAlppoD過剰発現株で調製した米麹は、親株の米麹よりも1-octen-3-ol含有量が低かった。これらの結果は、AlppoAおよびAlppoDが本化合物の生産を負に制御することを示唆した。AlppoCの過剰発現株で調製した米麹は、親株の米麹よりも1-octen-3-ol含有量が高かったことから、AlppoCの発現と本化合物の生産性に関連性があることが示唆された。
1)Kataoka et al., J Biosci Bioeng, 129,192–198(2020).
○和田竜之介 ¹,山田美貴 ²,高桑蓮 ²,中田有紀 ²,尾関健二 ¹ ² (¹金工大院・ゲノム研, ²金工大・ゲノム研)
精麦時に排出される小麦フスマ(WB)は1割がデンプン、3割がヘミセルロースで構成されている。ヘミセルロースは血糖値上昇抑制効果を持つD-キシロースやL-アラビノースを含有している。現在、食品加工用のへミセルラーゼ剤は種類が少ない。また、これらの市販酵素剤ではキシロース、アラビノースへの可溶化率は10-20%であり、組成の異なる酵素剤の開発が望まれる。我々は小麦フスマをクエン酸溶液でオートクレーブ処理し、デンプン質を酸加水分解する処理方法を開発した。この処理により脱デンプン小麦フスマ(SFWB)で生育させた2種類の麹菌(Aspergillus oryzae RIB40、A. luchuensis SH34)の酵素抽出液は、アミラーゼ系酵素の生産がほとんどなく、β-キシラナーゼ、β-キシロシダーゼなどを高生産し、従来のへミセルラーゼ剤とは酵素組成が全く異なっていた。しかしながら脱デンプンにはクエン酸溶液と熱水での処理が必要であり、従来法では小麦フスマの150倍の廃液が出てしまうという課題があった。今回の研究では焼酎麹菌(A. luchuensis)に対して、実用化を目指した廃液が出ない前処理方法について検討した。従来法では小麦フスマ1gに対してクエン酸溶液を10倍量添加するが、本研究では2.5倍量とし、スプレーボトルで噴霧してスパテルで攪拌した。その後110℃でオートクレーブ処理し、従来法の熱水洗浄工程を省略して60℃で一晩乾燥させた。栄養源として酵母エキスと硫酸アンモニウムを添加して焼酎麹菌を30℃で7日間培養し、菌体重量及びα-アミラーゼ、β-キシラナーゼ、β-キシロシダーゼの活性を従来法と比較した。菌体重量はWB及び従来法のSFWBと同程度であり、α-アミラーゼ活性はWBの25%程度となった。β-キシラナーゼ活性は70%、β-キシロシダーゼは343%となった。本研究によって、110℃、20分、2.5倍量の条件で、多量の廃液が出る熱水処理工程を省略した廃液が出ない脱デンプン処理方法を開発できた。
〇入江 彰一、山本 竜徳、川崎 勉、森 章、狩山 昌弘(株式会社フジワラテクノアート)
【目的】製麴条件は造りたい麴の品質により多様に存在し、製麴条件の修正は熟練者により麴の出来に応じて行われる。麴の出来は、酵素力価等の分析値や熟練者の経験と感覚(視覚、味覚、嗅覚、触覚)により判断され、中でも視覚情報に依るところが大きい。我々は視覚情報に基づく麴のクラス判定を基に次回の最適製麴条件を情報提供するモデルを搭載した製麴装置を提供することを目的とし、まず画像解析を活用したAI技術による「麴1粒クラス判定モデル」及び「破精分布予測モデル」の構築を試みた。
【方法】製麴試験には「山田錦(兵庫、精米歩合50%)」を使用した。切返盛、仲仕事、仕舞仕事、最高品温、出麴の5時点の米麴からそれぞれ100粒を任意に選定し、米麴の透過光画像を得た。得られた麴1粒画像は、4クラス分類(破精少、破精適度、破精多、破精過多)を行うアルゴリズムで機械学習を行い、「麹1粒クラス判定モデル」構築の検討を行った。入力は、32×32pixelの麹1粒画像、pixel値の度数分布、破精の輪郭検出により算出した破精の面積,周長,白黒比等を用い、出力は製麹担当者のクラス分類結果として学習を行った。また、製麹条件である種付量、吸水率、品温経過等を入力とし、出麹100粒中の4クラスの各比率(破精分布)を出力とした、回帰アルゴリズムによる「破精分布予測モデル」構築の検討を行った。
【結果】「麹1粒クラス判定モデル」については、各クラス2000粒、合計8000粒の麹画像を教師データとして学習した結果、正解率90%以上での判定が可能となった。「破精分布予測モデル」については、200パターン以上の製麹データを教師データとして学習した結果、予測精度の高いモデルを構築できた。製麹条件から出麹の破精分布予測が可能となることで、希望する破精分布を得るための最適製麹条件の情報提供が可能となった。
伊藤俊彦、大植はる華、天野奈緒美、長江祐昌、野下浩二、○橋爪克己 (秋田県大・生物資源 )
①目的:清酒の呈味性ピログルタミル(pGlu)ペプチドエチルエステルを生成する米麹酵素について検討した。
②方法:米麹は黄麴菌RIB128株を用いて清酒タイプの麹を作成した。麹抽出液は酒類総合研究所標準分析法により調製した後、PD-10カラム処理した。酵素活性は、苦味ペプチド(pGlu)LFGPNVNPWHを基質として(pGlu)LFGP-エチルを生成する活性(Aタイプ酵素活性)及び同じ基質から(pGlu)LFGPNVNPW-エチル又は(pGlu)LFGPNVNPWを生成する活性(Bタイプ酵素活性)を、25mM乳酸Na緩衝液(pH3.0)、12%エチルアルコール存在下で測定した。生成するC末端カルボキシペプチドはHPLCによって、エチルエステル化ペプチドはDラベル内部標準物質を用いて高分解能MSにより測定した。酸性カルボキシペプチダーゼ(ACP)活性はCbz-Glu-Tyrを基質とする酒類総合研究所標準分析法により測定した。
③結果:米麹抽出液を弱陰イオン交換クロマトグラフィーにより分析したところ、ACP活性は複数のピークを示して溶出した。一方、(pGlu)ペプチドエチルエステル生成活性はACP活性区分の一部と重複する比較的高い塩濃度域で溶出した。(pGlu)LFGPNVNPWHの加水分解活性及びエチルエステル生成活性はほぼ同じパタ-ンで溶出した。また、A,Bの活性は部分的に重複して溶出した。両タイプの活性を指標に麹抽出液から各種クロマトグラフィーによって酵素の精製を行った。途中のDEAE-5PW弱陰イオン交換クロマトグラフィーでA及びBの活性は分離した。最終的に得られた酵素標品のSDS-PAGE分析結果から多量の糖鎖の存在が示唆された。酵素Aは幅広い(pGlu)ペプチドに対して活性を示し、(pGlu)LFGP-エチル生成活性が酵素Bよりも強かった。一方、酵素Bは(pGlu)LFGPNVNPWHに強い活性を示し、加水分解物と(pGlu)LFGPNVNPW-エチルを生成した。
○飯泉 湧 相良 純一 (金沢工業大学大学院 工学研究科 バイオ・化学専攻)
【背景・目的】麹菌(Aspergillus oryzae)は、日本の国菌に指定され、発酵産業の根幹となっており、中でも発酵食品は日本の伝統文化を伝える重要な食品となっている。麹菌は、二次代謝産物の生産に関する遺伝子を有しており、様々な二次代謝産物を生産することができる。しかしながら、麹菌の代謝経路の詳細はすべて明らかにされていない。生育培地の成分の違いによる代謝産物の相違について検討することにより、生産する物質を産業および工業的に有効活用できることが期待されている。一方、酒造産業で使用される麹は米を培地として麹菌を生育したものであり、この時に使用される米はお酒の質に合わせて4~7割磨かれている。そのため、大量の米糠が副産物として産出されている。米糠には油脂成分や水溶性成分の栄養成分が含まれている。主に油脂成分においてはγ-オリザノール、フェルラ酸、トコフェノール、水溶性成分にはビタミンB群、イノシトール、フィチン酸などが含まれている。しかし、これらは産業廃棄物として廃棄されている。米糠に含まれている成分は人体および工業的に有用な成分であり、それぞれの成分について幅広い応用の可能性がある。そこで本研究では、米糠に含まれている水溶性有用成分に着目し、米糠を培地として麹菌を培養し、生産された酵素を有効利用することを目的とした。
【方法】YPD培地と米糠YPD培地、米糠液を作製した。米糠YPD培地には米糠液の最終濃度を5%とした。それぞれの培地に清酒麹とRIB40を植菌し、18時間振盪培養を行った。その後、SDS-PAGEを用いて、生産されたタンパク質の相違の検討を行った。
【結果】SDS-PAGEの結果より、YPD培地と米糠YPD培地、米糠液からそれぞれ異なるバンドが見られた。このことにより、麹菌は培地の異なる栄養成分によって、異なる物質を生産したと考えられる。
〇中嶋理奈、冨田晴雄、宮藤章(大阪ガス株式会社)
【目的】蒸米や炊飯米を放置すると、老化と呼ばれる現象が生じ、水分や結晶構造が変化すると同時に、消化性が低下する。酒造りにおいては、醪中での米の溶けやすさを制御するために、その特性を利用し、掛米を老化させることが多い。しかし、老化環境が消化性に及ぼす影響については、詳しく知られていない。そこで、本研究では、酒造用原料米の老化環境と消化性の関係性についての評価を試みた。また、老化工程中にリアルタイムで老化米の消化性を評価する技術の構築を行った。
【方法】精米歩合70%のH28年産「五百万石」(福井県産)を用いて蒸米を作成した。その後、以下の異なる3条件で蒸米を老化させた。①15℃密閉保管、②15℃開放保管、③15℃風速約2m/sの風を当てて保管。上記①~③の条件で老化させた米に対し、老化開始から1時間毎に米を一定量採取し、含水率測定、XRD測定、消化性測定(Brix値測定)を実施した。
【結果】本試験の結果、①密閉で保管した米は、保管時間に伴った含水率変化は生じず、結晶構造は保管時間に伴い変化し、消化性も保管時間に伴い低下した。一方で、③風を当て保管した米は、保管時間に伴い含水率が大きく低下したものの、結晶構造は変化せず、消化性の変化も見られなかった。また、②開放系で保管した米の含水率、結晶構造、消化性は、①、③の結果の中間的な変化を示した。以上の結果から、酒造用原料米の老化環境が結晶構造の変化に影響を及ぼし、さらには消化性にも影響を及ぼすことが分かった。したがって、現場環境で老化程度および消化性を予測することが重要であると示唆された。現場での老化米の消化性予測を行う上で、老化程度を評価する技術は既にいくつか報告されているが、本研究では、老化米の画像解析によってリアルタイムに消化性を予測する手法を構築し、本手法を用いて予測した消化性は、測定で得た消化性との相関があることを確認した。
○高堂泰輔(1)、藤原久志(1)、若井芳則(1)、冨田晴雄(2)、中嶋理奈(2)、宮藤章(2)
(1)黄桜株式会社 (2)大阪ガス株式会社 エネルギー技術研究所
【目的】我々はこれまでに、浸漬過程の可視化を通して、酒造用原料米の浸漬時に発生する水浸裂傷や吸水率の経時的な定量評価の手法を開発し1),2)、水浸裂傷が吸水を加速させることを示した。しかし、その影響力の評価については定性的なものに留まっていた。そこで本研究では既存の水分拡散モデル内に水浸裂傷の影響を組み込むことで、水浸裂傷が吸水に与える影響のモデル化を試みた。
【方法】H29,H30年産「祝(京都)」「山田錦(兵庫)」、「五百万石(京都)」「五百万石(福井)」「雄町(岡山)」「吟吹雪(滋賀)」「おくほまれ(福井)」計2ヶ年各7種類の玄米を精米歩合60%まで精米し、白米水分12%に調湿後、試験に供した。吸水過程の撮影は既報1),2)に従い実施し、水浸裂傷発生のモデル化と予測含水率の算出をおこなった。基本となる水分拡散モデルとしては既報3)のFickの拡散方程式における球体モデル(以下、既存モデル)を用い、水浸裂傷の発生を球体分割による球体半径の経時的な減少に帰することで、水浸裂傷の影響を組み込んだモデル(以下、Crack-ABSモデル)とした。
【結果と考察】既存モデルを食用米の浸漬過程に適用した場合、決定係数が0.98となることが報告されているが3)。本試験において酒造好適米に適用した場合、0.64となり、精度が低くなった。対して、Crack-ABSモデルを適用した場合は0.99となり、水浸裂傷の影響を球体分割として組み込むことで酒造好適米の吸水をモデル化できることが明らかとなった。実測値とモデルの曲線形状に着目すると、雄町において、その差が大きいことが分かった。雄町は総水浸裂傷長が全試料中最も長いことから、水浸裂傷の発生個所が吸水部である確率も高く、モデルにおいて水浸裂傷が吸水に与える影響が過大評価されたためであると推察された。
1)高堂ら醸協114(11):697-706,(2019),
2)中山ら,平成30年日本醸造学会大会講演要旨
3)佐藤ら農機誌73(5):313-320,(2011)
○村山雅俊 ¹、平吉明日香 ³、小松夕子 ³、室井佑介 ²、川上晃司 ²、小林拓嗣 ³、岩下和裕 ³[1 八海醸造(株)、 2(株)サタケ、3 酒類研]
【目的】これまでに我々は,小仕込みにより球形・原形・扁平精米を比較し,白米の形状が,酵素力価や発酵特性,一般成分,香気成分,清酒メタボロームに大きな影響を与えることを明らかにしてきた.これら一連の分析により50%原形・扁平精米が,従来の35%球形精米に匹敵することが示唆された.しかし,小仕込みは実際の醸造条件と大きく異なる.そこで35%球形・50%原形精米を用い100kgの試験醸造と分析,官能評価を行なった.
【方法】R1BY山田錦を原料に,GCロール,cBNロールでそれぞれ35%球形,50%原形精米を行なった.続いて,酒母・添麴を各1ロット,仲・留麴を各2ロットずつ作成した.さらに,総米100Kgの三段仕込みを二本ずつ行なった.すべての工程で蒸米水分含量と推移,温度経過がほぼ同様になるように制御した.得られた米麹と清酒について,酵素活性測定,一般分析,香気成分分析,醸造酒メタボローム分析,官能評価を行なった.
【結果】おおよそ目的の白米の形状がえられ,各仕込み経過の差は最小限に抑えられたが,モロミで原形白米のキレがやや早い傾向が見られた.各米麹の酵素活性,酒母の一般成分に有意な差は見られなかった.アルコール収得量,カス歩合には違いが見られず,清酒の一般分析でも,ほぼ同一の結果が得られ,日本酒度とグルコース濃度に極僅かな有意差が見られた.香気成分生成でもよく一致し,ブタノールとイソアミルアルコールに極僅かな有意差が見られた.メタボロームの比較解析については,小仕込みの50%原形・球形白米清酒の比較においては,25%の成分に差がみられたのに対し,差のある成分が0.4%と非常に少なくなっていた.官能評価結果でも同等の結果となった.以上の結果から,50%原形精米による清酒は35%球形精米に極めて近い特性を有することを明らかにした.
・斎藤研究員,長岡技術科学大学の大武氏をはじめ,試験醸造に協力いただきました多くの方に感謝申し上げます.
○岩下和裕 ¹、平吉明日香 ¹、山田景太 ¹、村山雅俊 ³、小松夕子 ¹、室井佑介 ²、川上晃司 ²、吉田裕一 ¹、江 村隆幸 ¹[1 酒類研,2(株)サタケ,3 八海醸造(株)]
【目的】これまでに我々は,小仕込みにより球形・原形・扁平精米を比較し,白米の形状と種々の醸造特性との関係,メタボローム分析を中心とした清酒成分との関係を明らかにしてきた.その結果,70%精米において,球形精米と比較して原形・扁平精米では,粗タンパク質が大きく低下する一方で,酵素力価が変動し,発酵速度が速くなりエタノール濃度が高くなるものの,酸度や高級アルコールや酢酸エチルが低下し,カプロン酸エチルが上昇するという変化が見られた.そこで,プラント規模の清酒製造での変化を検討するため,100㎏規模での仕込みを行ない球形・原形白米の製成酒の比較を行なった.
【方法】速醸酒母,三段仕込みで実施し,球形・原形白米ともに,水分含量や温度経過など出来るだけ同じになるように制御した.酵母はきょうかい7号酵母を用いた.分析は,全国酒米統一分析法,所定分析法,醸造酒メタボライト分析法等に基づいて行った.
【結果】球形精米はGCロール,原形精米はcBNロールを用いて実施した.おおよそ目的の形状の白米が得られ,球形の粗タンパク質は玄米の71.3%,原形は63.4%まで減少した.醸造工程は出来るだけ同様に制御したが,原形で発酵性が良く,酒母を早く分ける必要が生じた.酵素力価は,小仕込みと同じ傾向で,α-アミラーゼは同等で,他の酵素力価は原形の方がやや高くなる傾向がみられた.もろみでは,原形で最高ボーメが高く,発酵が進む傾向がみられた.製成酒の一般成分分析では,原形精米でエタノール濃度が高い他はほぼ同等の分析値となった.香気成分も球形白米で酢酸エチルは低い以外はほぼ同等の結果が得られた.しかし清酒メタボローム解析では,大きく異なり原形に対し、球形多い成分が多数見いだされた.官能評価では,球形白米(2.96)に比べ原形白米(2.72)で良い結果となった.
福田様,正木様をはじめとして,試験醸造に協力いただきました多くの方に感謝申し上げます.
○平吉 明日香¹、平田 章悟¹ ²、福本 浩史¹ ³、小松 夕子¹、小林 拓嗣¹、矢澤 彌¹、室井 佑介⁴、川上 晃 司⁴、岩下 和裕¹ ² ³(¹ 酒総研、² 広島大院・統合生命、³ 広島大・工、⁴ 株式会社サタケ)
【目的】清酒製造において、精米は清酒の風味に大きな影響を与える重要な工程であり精米歩合とともに、白米形状も大きな影響と考えられている。そこで我々は、形状を含めた精米の意義について検討するために、ラボスケールで20-70%球形、40-70%原形・扁平精米による白米の分析、試験製麴・醸造試験(n=2)、製成酒の醸造酒メタボライト分析法(n=3)などによる分析を行い、特性を解析してきた。特に、精米歩合(40%-70%球形白米)と清酒成分(清酒メタボロームデータ)との関連を解析するために、OPLS回帰分析を行ったところ、非常に精度の高い回帰式を作成することが出来た。このことは精米歩合と清酒成分が密接に関連するとともに、清酒の成分から球形白米の精米歩合が予測できることを示す。そこで、原形・扁平白米の清酒成分から、各精米歩合を予測したところ、実際の精米歩合よりも低く予測され、原形・扁平の40%、50%、60%白米は、球形白米の約20,35,50%と予測された。我々はさらに清酒のメタボローム解析を実施して、各精米歩合および白米形状の清酒への影響について検討を行った。
【方法および結果】これまでに行った主成分分析の解析結果から、大きく3つのグループに分けられるように見えたことから、各清酒のメタボロームを用いて、複数の方法で階層型クラスター解析を行った。その結果、いずれの方法でも3つの大きなグループに分かれた。まず、70%原形、60,70%扁平白米の清酒が他の清酒と大きく異なり、さらに、50,60,70%球形白米の清酒群とそれ以外の清酒群に分かれた。つまり、胚芽残りクラスター、球形50%以上のクラスター、球形40%・扁平50%・原形60%以下のクラスターに分かれることとなった。これらの結果は、3つのクラスターと玄米の構造との関連を示唆する。これらそれぞれのクラスター間で、清酒成分どのような成分に違いがあるのかについては現在解析中である。
○平田悠達,梶原一信,橋本悠希,川上晃司(株式会社サタケ)
大場健司,荒瀬雄也,山﨑梨沙,大土井律之(食品工業技術センター)
【目的】我々はこれまでに,扁平精白米と球形精白米の酒造適性について報告した1)2)。今回は,扁平精白米と球形精白米に加え,原形精白米の酒造適性について検討したので報告する。
【方法】令和元年広島県産「八反錦1号」の精米歩合60%,50%の球形精白米,精米歩合60%,50%の原形精白米,精米歩合60%の扁平精白米を使用した。各試料は,㈱サタケ製小ロット醸造精米機(EDB15A)で,砥石にcBNロールあるいはGCロールを使用して精米した。分析として,外観検査,粗タンパク質,脂質,無機成分,吸水性および消化性の評価を行った。
【結果】外観検査では,原形精白米の精米歩合50%で砕米率が最も高くなり,扁平精白米の60%で胚芽残存率が最も高くなった。球形精白米の無効精米率は,原形精白米,扁平精白米と比較して高くなった。精米歩合60%の粗タンパク質は,球形精白米(4.7%),原形精白米(4.3%),扁平精白米(3.8%)の順で減少した。
球形精白米の精米歩合50%と原形精白米の精米歩合60%の粗タンパク質が同等であり,扁平精白米の精米歩合60%の粗タンパク質は更に少なくなった。脂質および無機成分は,球形精白米,原形精白米に比べて扁平精白米で多くなった。これは,胚芽残存の影響と考えられる。20分および120分吸水性については,球形精白米の方が原形精白米,扁平精白米より高くなり,原形精白米と扁平精白米は同等であった。蒸米吸水性は球形精白米が一番高く,次いで原形精白米,扁平精白米となった。これは,球形精白米に比べて原形精白米,扁平精白米は吸水速度と最大吸水率が小さく,保水力が小さいことを示している。各精米形状で吸水速度が異なる傾向があることから,形状によって吸水時間を調整する必要があると考えられる。
【参考文献】
1)平成30年度日本醸造学会大会講演要旨集,(2018)
2)令和元年度日本醸造学会大会講演要旨集,(2019)
〇中島奈津子、高橋亮、猪俣有唯、松本大志、齋藤嵩典、鈴木賢二(福島県ハイテクプラザ会津若松技術支援センター)
【目的】福島県内の酒造場では、県産酒造好適米を用いた特定名称酒の製造量が増加しており、「夢の香」に続く新しい県オリジナル酒造好適米の開発が望まれていた。そこで、福島県農業総合センターと共に栽培特性や醸造特性に優れた品種の育種選抜を進め、令和元年に「福乃香(ふくのか)」が新たに品種登録された。「福乃香」はタンパク質含量が少なく、軽快かつ上品な酒質になりやすい。また、大きな心白を持ち、溶解性が高く、アルコール収得に優れている。酒造好適米としての幅広い活用を目指し、新たに導入した精米機を用いた扁平精米を実施し、精米形状ならびに醸造特性について原形精米との比較を行った。
【方法】令和元年産「福乃香」について、醸造用精米機ED-15A(㈱サタケ)を用いた扁平精米を行いて調製した精米歩合80~40%までの扁平精米試料と精米歩合70~45%の原形精米試料について、形状、粗タンパク含量、カリウム含量、初期吸水速度を比較した。
【結果】「福乃香」は心白発現率が高く、心白も大きいため、高い精米技術が必要である。しかし、適切な扁平精米プログラムを設定することにより、精米歩合40%の高精白を達成した。また、扁平精米試料は精米が進むにつれ均等に厚みが削られていることを確認した。粗タンパク含量については、低精白米において、扁平精米で効果的に減少できることを確認した。また、カリウム含量は精米形状によらず、精米歩合とともに減少した。「福乃香」は心白が大きいため、初期吸水が早く割れが生じやすい。このことについて、扁平精米のほうがやや吸水が早い傾向があり、精米形状によって吸水速度に影響を及ぼす可能性が示唆された。また、どちらの精米形状でも浸漬時の水温を調整することによって吸水速度が緩やかになることを確認した。このことから、心白の大きい原料米であっても、適切な原料処理を行うことで浸漬割れを防ぐことができると考えられる。
【目的】4-ビニルグアイヤコール(4-VG)は、煙・スパイス様の香りをもつことから、清酒のオフフレーバーの一つとされる。きょうかい酵母はフェルラ酸脱炭酸反応を触媒するPad1p/Fdc1pのFDC1ナンセンス突然変異のため4-VGを生産しないが、野生酵母ではしばしば4-VG生産がみられ、清酒醸造の妨げとなっている。しかし、野生酵母における4-VG生産/非生産酵母の分布、4-VG非生産株の4-VG非生産の遺伝的要因の知見はほとんどない。本研究では野生酵母における4-VG生産能の分布と4-VG非生産の遺伝学的要因の解明を目指した。
【結果・考察】自然界由来野生酵母59株と東京農大菌株保存室から分譲された醪由来酵母と花酵母24株の4-VG生産能を観察したところ、31株が非生産株であり、野生酵母由来は7株のみであった。Pad1p/Fdc1pは桂皮酸の脱炭酸反応も触媒することから、4-VG非生産株の桂皮酸感受性を観察したところ、全ての株が感受性を示した。このことから4-VG非生産株は自然界で植物樹皮由来桂皮酸の毒性回避能を欠損していることが考えられた。一方、4-VG非生産株31株のうち3株はK7株同様、Fdc1pにナンセンス変異をもち、これら株は清酒酵母グループに属していた。またFdc1pが正常な株由来PFDC1–FDC1の機能を観察したところ、BY4741 fdc1Δ株の4-VG生産を相補できない4株が存在し、共にPFDC1に−354G>Tの変異があった。またPFDC1-FDC1が正常な4-VG非生産株は、Pad1pに失活を伴う変異はみられなかった。しかし、これら株にはpad1Δ株の4-VG生産能を相補できないPPAD1-PAD1をもつ株もあった。以上、桂皮酸にさらされる環境下から単離される野生酵母は4-VG生産能を持つ可能性が高く、また野生株の4-VG非生産の遺伝的要因は多様であることが示された。